検索履歴に代表されるパーソナルデータの管理・運用はこれまでサービス提供企業が個別に行うことが一般的だった。それに対し、紐づくデータをユーザー自身が一元的に管理し、適切に運用する仕組みが情報銀行やPDS(Personal Data Store)と呼ばれる仕組みだ。2019年にスタートした情報銀行サービス「MEY(ミー)」も含め、その概要と将来の可能性を見ていきたい。

安全な管理とより効率的な活用を両立

近頃、情報銀行という言葉を耳にする機会も増えてきた。耳慣れない言葉だが、そのサービスは銀行にたとえると確かに分かりやすい。

一般の銀行と違い、情報銀行が扱うのはインターネット検索履歴やクレジットカード購買履歴に代表されるパーソナルデータ。 これまで個別に管理・運用されてきたデータを一元化することで、安全な管理とより効率的な活用を両立させることがその基本的な役割だ。データを企業に提供することで得た対価の一部は、ポイント・クーポンとして預け主であるユーザーに還元される。

実は情報銀行は、総務省・経済産業省を軸に検討が進んだ日本生まれのスキームだ。2019年7月には、初の情報銀行サービスがスタートしている。それが電通グループのマイデータ・インテリジェンスが立ち上げたマイデータ・バンク「MEY」である。その概要を簡単に見ていこう。

MEYの利用は、サービスサイトへのログインおよび専用アプリで行う。ユーザーが登録可能なパーソナルデータには、性別や年齢、検索履歴のほか、随時実施されるアンケート回答が含まれる。利用企業は同サービスを介して「データ提供リクエスト」としてユーザーにパーソナルデータの提供を求め、許諾したユーザーはポイントなどのリワードを得る。もちろんリクエストを拒否することもでき、パーソナルデータの利用をユーザー自身が管理できる点が情報銀行の重要なポイントになる。

「AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ中間とりまとめの概要」(内閣官房IT総合戦略室)は、情報銀行を以下のように定義する。

「情報銀行(情報利用信用銀行)とは、個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、 PDS等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示又は予め指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業」。

PDS(Personal Data Store)とは、分散するパーソナルデータを集約し、ユーザーが自らの意思でデータを蓄積・管理するための技術的な仕組み。そこには第三者への情報提供の制御に関する機能も含まれる。

情報銀行のイメージ
情報銀行のイメージ

情報銀行やPDSが注目される背景には、企業中心のパーソナルデータ活用への危惧やその限界への認識がある。特に前者は、GAFAの脅威とも関連し、個人中心のデータ利活用へのシフトが世界的な潮流になっている。それと共に注目したいのが、後者のサイロ化・細分化されたパーソナルデータの限界という課題である。

効果的なデータを利用することを実現

従来の企業中心のデータ活用では、プライバシー保護の観点からデータは完全に匿名化された上で利用される。そのため、行動の全体像を個別に把握したり、パーソナルデータに対応したユーザーへの情報提供を行うことは不可能だった。だがPDSによる個人中心のデータ利活用では、 ユーザーの行動の全体像を把握し、より効果的にデータを利用することが可能になる。またプロファイリングにより、ユーザーにより適切な情報をきめ細かく提供することも可能になる。生活習慣病に関連した医療情報の提供や、最適なアスレチックプログラムの紹介はその分かりやすい例だ。また、グルメや歴史、景観、各種アクティビティなどへの興味・関心の度合いに応じて、個別に旅行情報を提供する仕組みも有意なサービスになるだろう。

パーソナルデータ管理が企業から個人にシフトすることの意味は大きい。その実現のカギを握るのが情報銀行やPDSであることは間違いない。