半導体の不足はビジネス用途のPCの品不足や自動車の納期遅れなど、生活のさまざまな領域に影響を及ぼしつつある。コロナ禍の巣ごもり需要で半導体不足が浮上して以来、この問題が一向に解決されない背景には、水平分業と最適化戦略、安全保障問題など多様な問題が複雑に絡み合う、まさに複雑系の罠と呼ぶほかない状況がある。
半導体不足の経緯
昨年から続く半導体不足は、クライアントPCの品薄化、さらには自動車の大幅な納期遅れと悪化の一途をたどっている。なぜ、半導体不足は悪化する一方なのだろうか。その背景には、
まずは時間軸に沿って、今回の半導体不足の経緯を振り返っておこう。
近年、半導体需給サイクルは5G基地局整備、車載用電子制御ユニット(ECU)や先進運転システム(ADAS)など車載半導体の需要増により上昇傾向が続いていた。そこを襲ったのが、
コロナ禍と前後して、半導体業界ではもう一つ、大きな動きが進んでいた。

そこに、さらに二つの出来事が追い打ちを掛けた。一つは
折からの需要拡大にこれらの問題が重なったことで生じた車載半導体不足を受け、自動車メーカー各社は半導体業界に割り当ての拡大を強く要請。その結果、これまで例のない規模の半導体不足が表面化したというのがここまでの流れである。
その経緯を見る限り、供給を増やせば問題は解決すると考える方も多いはずだが、問題はそう簡単ではない。次に半導体業界のエコシステムを見ていこう。
半導体業界が抱える課題
半導体製造は、回路設計と製造工程の国際分業が広く一般化している。後者はファウンドリと呼ばれ、その代表が半導体市場シェア50%を超える台湾のTSMCである。
中小半導体メーカーの場合、設計・製造の垂直統合と巨大ファウンドリとの水平分業の最適化を図ることが一般的だ。その理由としてまず挙げられるのが、設備投資の課題である。PCやスマートフォンのプロフェッサはプロセスサイズ10~7nmが主流になりつつあるが、そのための巨額投資を行ったのは、インテル、サムスン、TSMCの3社に限られる。今年3月、インテルは次世代製造プロセス対応工場の新設を発表しているが、その投資額は2兆円を超える。
また、これまで設備投資が新世代製造プロセスによる小型化、省電力化の恩恵が確実に得られるPC、スマートフォン市場を前提に行われてきた点にも注目したい。旧世代の製造ラインは自動車や家電、製造装置向け半導体製造に転用され、確実に収益を確保することが巨大ファウンドリのビジネスモデルとして定着している。
こうしたエコシステムは、
例えば、車載用に特化したルネサスの主力製品は40nmプロセス製品だが、製造ライン増設には1000億円規模の投資が必要になることもあり、その判断は簡単ではない。近い将来に供給過剰になった際、減価償却を終えた巨大ファウンドリの同世代の製造ラインにコスト面で対抗するのは困難になることが目に見えているからだ。ルネサスが過剰設備に長く苦しみ、近年ようやく黒字化を達成したという経緯を考えれば、大規模な設備投資が難しいことは容易に理解できるはずだ。
もちろん、投資の判断材料は市場がすべてではない。「中国製造2025」を掲げ、製造業の高度化を図る中国政府の意思はその一つだが、半導体の場合、
中国ファウンドリ最大手SMICは今年に入り、28nmプロセス装置への1兆円規模の投資を発表しているが、半導体の場合、製造装置を日米欧に全面的に依存するほかない中、その実現は不透明な状況が続いている。半導体不足の解決の糸口は、今も見えていないのが実情だ