コストの一部を開発側が負担し、利益に応じたリターンを得る。それがシステム開発におけるレベニューシェアの基本的な考え方。リスクを顧客とヘッジすることによる案件開拓効果に加え、自社のノウハウ・ナレッジの高付加価値化、さらにはデジタルの社会実装の推進という観点からも注目したい。

レベニューシェアとは

Revenue(収益)をShare(共有)するレベニューシェアは、売上に応じて利益を分配する成果報酬型契約の総称。もっとも分かりやすい例が出版物や音楽著作物の印税契約だが、システム開発の分野でもレベニューシェアは導入されている。
開発コストの一部またはすべてを開発側が負担し、システム稼働後の利益を分配するというのがその基本的な考え方。利益分配を前提にした契約になるため、ECサイト構築やアミューズメント関連のシステム構築など、利益が可視化できるプロジェクトを対象にすることが一般的だ。もちろん、一般的な業務システム開発にレベニューシェアの考え方を適用することも可能だが、その場合はKPI※設定や達成度合いに応じた利益の分配比率など、きわめてプラクティカルな調整が求められる。

発注者と受注者それぞれの観点からそのメリットをみていこう。発注側のメリットとしてまず挙げられるのは、システム開発のコストが大幅に削減できる点にある。特に新規事業の立ち上げでは、必要な人材や予算の不足という問題がつきまといがちなだけに、本来ならシステム開発に投入すべき人材や予算をほかの部分に回せるようになるメリットは小さくない。

開発にともなうリスクが減らせることもメリットの一つだ。システム開発では、要件定義に時間を掛けたところで満足できる品質が得られる保証はないのが実情だ。システムのクオリティに起因する業績の伸び悩みを回避する上でも、勘所を知る開発サイドとのリスク共有は心強い。さらにシステム運用を開発サイドに一任することで、自分たちが強みを持つ部分にリソースを集中投入し続けられることも特に新規ビジネスの立ち上げでは大きな意味を持つだろう。

一方、受注者側のメリットとしてまず挙げられるのは、案件開拓における効果である。どれだけ顧客の課題に応じた提案を行ったところで、予算確保が難しければ仕事にはつながらない。だが開発コストを受注者側も負担するレベニューシェアであれば、そのハードルは自ずと低くなる。
また継続的な関係づくりが容易になる点もメリットの一つだ。一般的なシステム開発案件では、システム更新の都度ゼロから競争を勝ち抜くことが求められる。だが発注者と受注者がビジネスパートナーとして事業に取り組むレベニューシェアであれば、ビジネスが上手く回り続ける限り関係は続くからだ。さらに従来のシステム開発だけでは見えてこなかった発注サイドの業務に関するノウハウが蓄積できる点もメリットといえるだろう。さらに言えば、成功報酬型のビジネスモデルは、開発現場の士気にも好影響を及ぼすはずだ。

レベニューシェアの成功例

国内におけるレベニューシェアの成功例として挙げられるのが、2014年に日本一の高層ビルとして開業した「あべのハルカス」(近畿日本鉄道)58~60階の展望フロアと16階にある美術館の入退場管理システムである。システムを提供するのは、パナソニック系SIerのパナソニック インフォメーションシステムズ。毎月の入場者数に応じて対価を受け取るレベニューシェアの仕組みも同社からの提案だったという。

その背景にはやはり、システム更新の都度生じる競争を回避し、取引を安定的に維持する上でできることはなにかという課題意識があったようだ。なお、同事例では、ニーズに応じたリソース調整が容易なクラウド活用に加え、入退場ゲートなどのハードを入場者数によっては他の施設に転用できる環境を構築することでリスクを最小化している。

あべのハルカスの事例は、発注側は最小限のコストでのシステム開発を、受注側は中長期的な売上確保を実現したレベニューシェアのまさに成功事例と言える。だが、もちろんデメリットもある。
発注側の観点では、ベンダーロックインが避けられない点は最も大きな懸念材料になる。受注側にとっては、費用の回収に数年掛かることに加え、場合によっては回収自体が難しくなる可能性もある点が大きな問題点だ。さらにいうと、利益や分配比率、システム改修の頻度等によっては、発注者・受注者のどちらか一方が不利益を被る可能性があることも否めない。ちなみに、あべのハルカスの事例では、来場者数にもとづき一年ごとに契約内容を見直すことでバランスを保っているという。

こうした難しさがある一方で、自社が持つノウハウ・ナレッジの高付加価値化やアジャイル開発との相性の良さなど、レベニューシェアにはほかには代えられない魅力も多い。今注目されるデジタルの社会実装の実現において、今後一定の役割を果たすことを期待する向きも多い。