地震や台風、豪雨による通信ネットワークの寸断は、安否確認や情報収集の困難さに直結する。大規模災害時のライフハックの一つとして知っておきたいのが、大災害が発生したエリアに突如出現するWi-Fiアクセスポイント00000JAPANの存在である。

00000JAPANの役割

大規模災害に直面したとき、自分自身の安全を確保した後に多くの人がまず行うのは、家族や友人、知人の安否確認であるに違いない。企業の場合もそれは同じで、BCPの観点からも従業員の安否確認をいち早く行うことが求められる。
その際に問題になるのが、災害に伴うネットワーク障害だ。ライフラインやメタル回線、光回線と比較して携帯電話網は大災害に強いと言われるが、基地局と基地局を結ぶ有線網や基地局への電力供給への影響は避けられない。東北地方を中心に未曽有の被害を与えた2011年の東日本大震災では、携帯電話網の完全復旧には約1カ月を要したという。

その間、被災地の復旧支援活動や避難所の暮らしにおいて携帯電話網を代替する役割を担ったのが、急遽開設されたWi-Fiによる公衆無線LANだった。一方で、一部の通信キャリアでも社会貢献の一環として既存Wi-Fiスポットの無料開放を当時実施しているが、当時はまだアクセスポイント数も少なく、周知が遅れたこともあり、被災地への貢献は限定的だったという。
その反省から生まれたのが、通信キャリア各社のWi-Fiスポットによる災害用統一SSID「00000JAPAN」である。SSIDとは、「Service Set IDentifier」の略で、Wi-Fiアクセスポイント識別番号とも呼ばれる。簡単に言うと、スマホやタブレットからWi-Fiに接続する際、設定画面上にずらりと表示される例の英数字のことである。ちなみに、00000JAPANは「ゼロゼロゼロ・・・」でも「マルマルマル・・・」でもなく、「ファイブゼロジャパン」と呼ぶ。

その仕組みを具体的に見ていこう。大規模災害により被災地の通信手段が途絶したり、安否確認のための通話・通信による災害輻輳の発生が懸念された際、通信キャリア各社はそれぞれ独自の判断で自社のWi-Fiアクセスポイントから災害用統一SSIDである00000JAPANを発出する。既存Wi-Fiサービスとの最大の違いは、ID、パスワードを入力する必要なく、誰でもすぐにネットワークにアクセスできる点にある。そのため利用者は、アクセスポイント選択画面に並ぶSSIDの最上位に表示される00000JAPANを選択することで即座に通信を開始することができる。

通信キャリア各社はこれまで、自社ユーザーの利便性向上と他社との差別化を念頭に、アクセスポイント整備を進めてきた。しかし、契約する通信キャリアによって各社のアクセスポイントが利用できたりできなかったりすることは、大規模災害時に通信ネットワークを開かれた状態で維持するための大きな弊害になる。誰もが身近にあるアクセスポイントを利用できる災害用統一SSIDはこの問題の解決にも大きな役割を果たす。

00000JAPANの運用方法

ルール整備を主導したのは、通信キャリアと通信機器ベンダーで構成される一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)。事業者の垣根を越えた災害時の統一SSID策定は当時、世界初の試みとして注目を集めた。

00000JAPANが初めて実運用されたのは、2016年4月の熊本大地震のときのこと。今年も台風・豪雨被害を受け、7月時点で5回の無料開放が実施されるなど、被災地の通信手段の確保と災害輻輳の緩和に大きな役割を果たし続けている。
なお、00000JAPANは通信キャリアだけでなく、一部自治体や公共機関が運用するWi-Fiスポットからも発出される。2023年4月現在のサービス提供事業者は通信キャリア8事業者と自治体等が72団体。災害時には、自治体等が運用するフリーWi-Fiの一部も認証プロセスなしに誰でも利用できる「災害モード」に切り替えて運用される。

例えば東京都の場合、主に外国人観光客の利便性向上の観点から、約1,000台のWi-Fiアクセスポイントを運用し、約700カ所でWi-Fiスポットを提供している。アクセスポイントの約半数にあたる500台は公衆電話ボックス内に設置され、ここにはUPS(無停電電源装置)が整備されているため、停電時も運用を継続することが可能だ。都内の移動が多いビジネスマンの場合、立ち回り先でWi-Fiステッカーが貼ってある公衆電話をチェックしておくこともライフハックの一つになりそうだ。
なお00000JAPANをはじめとする災害時用ネットワークは、Wi-Fiに不慣れな利用者の存在を考慮し、登録や認証のためのID、パスワード入力の手間を省略する関係上、無線区間も暗号ではなく平文で通信される。その利用は原則として安否確認や情報収集にとどめ、やむを得ずID、パスワードなどの個人情報を入力したり金融サービスを利用する際には、当り前のことだがhttpsやVPNの活用が望まれる。