5G対応エリア展開を加速させるアイデア

商用5Gサービスが正式にスタートして約1年半が経過した。加入者も増えているが、利用エリアの展開に関しては、まだまだ課題がある。5Gでは、新たに利用可能な周波数帯として、Sub 6と呼ばれる6GHz未満の周波数帯とミリ波と呼ばれる28GHz帯が追加されている。Sub 6は、これまで4Gで使われてきた周波数(3.5GHz帯や2GHz帯)と近いため、技術的なハードルは低いが、ミリ波帯は周波数が1桁高くなるため、端末や基地局設計の技術的な難易度が上がる。また、Sub 6に比べてミリ波帯は直進性がより強くなり、カバーできるエリアが狭い。その代わり、帯域幅が広く通信速度を高めやすい。5Gには「高速・大容量」、「低遅延」、「多接続」という3つの利点があるが、これらの利点をフルに活かすには、Sub 6とミリ波の併用が必須となる。しかし、5Gサービス開始当初は、スマートフォンなどの端末側もSub 6のみ対応した製品が中心で、5G基地局の設置もSub 6対応が優先であった。

2020年後半からは、Sub 6/ミリ波両対応の端末も増え、ミリ波対応基地局の設置数も増えてきているが、まだ5Gエリアは限定的である。そこで、既存の4G基地局を5Gに転用するというアイデアが提案された。基地局設備が新しいものについては、ソフトウェアアップデートだけで5G対応になるため、エリア展開を加速できる。しかし、もともと4G用として認可されていた周波数を5Gに転用するには、総務省による省令改正と事業者への認可が必要である。

5G転用の要望を受け、2020年8月に省令改正が行われ、2020年10月にはKDDIとソフトバンクが5G転用の認可を得た。KDDIは、2020年12月から東京都や千葉県などの一部エリアで、4Gで使われていた3.5GHz帯の一部を転用した5Gサービスを開始、さらに2021年春には東名阪の主要都市部において700MH帯の一部を転用した5Gサービスを開始した。5G転用によって、KDDIでは、2021年春にJR山手線および大阪環状線の全駅周辺での5Gサービスの利用を実現、2021年度末には基地局を約5万局に増やし、700MHz帯による人口カバー率90%を実現する予定だ。

同様にソフトバンクは、2021年2月15日から千葉県や東京都、愛知県の一部エリアで、4Gで使われていた700MHz帯、1.7GHz帯、3.4GHz帯の一部を転用した5Gサービスを開始した。ソフトバンクは5G転用により、5G基地局の全国展開ペースを加速し、2021年度末に約5万局、人口カバー率90%超、2025年度頃には約20万局を設置するという。なお、KDDI、ソフトバンクともに既存の5G対応端末で、5G転用周波数を利用するには、ソフトウェアアップデートが必要になる(一部の端末では700MHz帯には非対応)。

5G転用の大きな問題

5G転用は、5Gエリア拡大の切り札のように思えるが、実は大きな問題がある。確かに、5Gで規定された通信方式で繋がるため、「低遅延」というメリットは享受できるが、利用可能な周波数幅が狭いため、速度的な面ではほぼ4Gと変わらない。いわば「なんちゃって5G」である。また、現時点では4G端末のほうが数が圧倒的に多いため、転用といっても周波数帯すべてを5Gで利用することはできず、同じ周波数帯で4Gと5Gが同居することになる。転用で5Gに大きく周波数幅を割くと、4Gの周波数幅が足りなくなり、4Gユーザーにしわ寄せがいってしまう。DSS(Dynaic Spectrum Sharing)と呼ばれる端末からの要求に応じて、4Gと5Gに割り当てる周波数幅を動的に変化させる技術を使うことで、周波数帯を効率良く利用できるが、制御信号が増えるため、4G、5Gともに速度が多少低下してしまう。

5G転用では速度は4Gと変わらない(ドコモ作成)
5G転用では速度は4Gと変わらない(ドコモ作成)

ドコモは、KDDIやソフトバンクに比べて5G転用にやや消極的な立場を取っており、「制度化には賛同する」が、現時点では5G転用の数値目標などは明らかにしていない。ドコモは、国内の携帯電話事業者で唯一、5G用新周波数帯として3.7GHz帯と4.5GHz帯と28GHz帯の3つの周波数帯を割り当てられているため(他の事業者は3.7GHz帯と28GHz帯のみ)、5G基地局の展開がしやすいことも、ドコモが5G転用に消極的な立場を取っている理由の一つとして挙げられるが、ドコモが恐れているのは、いわゆる「優良誤認」である。ユーザーが高速・大容量を期待して5G対応端末を買ったにもかかわらず、実際の速度が4Gとほとんど変わらないのであれば、ユーザーを騙したことになるからだ。そうならないために、新周波数による高速通信が可能な5Gエリアと通信速度は4Gとほぼ同じ5G転用エリアを区別すべきだというのが、ドコモの主張だ。ドコモでは、2021年度末に5G基地局を約2万局に増やすというロードマップを公開しているが、基地局の数だけを比べると、KDDIやソフトバンクに比べると見劣りしてしまう。