誤差数センチ級の測位を実現する準天頂軌道衛星

私たちの日常生活に、もはや欠かせないものなっているのがGPS(Global Positioning System)だ。カーナビもスマホのナビアプリも、すべてGPSを利用したサービスであり、ポケモンGOなどの位置情報を利用するゲームも人気だ。GPSは、もともとアメリカ国防総省が開発した衛星測位システムであり、地球の周りを周回する約30基の衛星から発信する電波によって、世界中のどこにいても現在地の測位が可能だ。GPSと似た仕組みの測位システムは、他にもロシアのGLONASSや欧州のGALILEOなどがある。GPSでは、最低4基の衛星から電波を受信できれば測位を行えるのだが、高精度で安定した位置情報を得るには、より多くの衛星からの電波を受信することが望ましい。しかし、GPS衛星は静止衛星とは異なり、常に地上から見える方角が移り変わっていくため、都市部や山間部ではビルや樹木などに電波が遮られてしまい、測位精度が落ちてしまうことがある。

そこで考案されたのが、GPSを補完する準天頂軌道衛星である。準天頂軌道とは言葉通り、天頂(頭の真上)にできるだけ近い位置に衛星が滞在するような軌道であり、衛星からの電波がビルや樹木などに遮られにくい。日本の準天頂衛星システム「みちびき」は、日本を含むアジア地域と南半球のオセアニア地域で利用するように設計されており、該当地域では常時3基以上の衛星が準天頂に位置する仕組みだ。一般的に、GPSだけでの測位誤差は10m程度といわれているが、GPSとみちびきの両方の衛星を合わせて利用することで、誤差1m以下での測位が可能になる(誤差1m以下を実現するにはL1Sと呼ばれる信号への対応が必要)。さらに、みちびきからは、誤差数センチ級の測位を実現するためのL6信号と呼ばれる信号も送信されている。ただし、L6信号を受信するには大きなアンテナや専用受信機が必要になるため、主に車載や測量機材での利用が想定されている。

「みちびき」に期待される活用法

みちびきは、2010年に先行して初号機が打ち上げられた。その後2017年度に2号機から4号機までが打ち上げられ、2018年11月から4基体制で正式運用を開始した。2021年10月26日には初号機の後継機が打ち上げられたが、2023年度には5号機から7号機までの打ち上げが予定されており、2023年度末には7基体制に強化される。みちびきが実現する高精度測位は、ドローンの自動操縦や農業分野、自動運転などへの活用が期待されており、実証実験も進められている。さらに、海洋土木工事などでの利用も考えられる。すでにソフトバンクは、みちびきの高精度測位情報を活用した「準天頂衛星対応トラッキングサービス」の提供を開始している。人や物の位置情報を高精度にトラッキングできるため、バスやタクシーの経路最適化や運送業の物流管理、鉄道車両管理、高齢者の見守りなど、さまざまなニーズに対応できる。

みちびきに対応した製品は、スマートフォンや腕時計をはじめ、カーナビ、GPS航法装置、GPSモジュールなど多岐にわたるが、製品によって対応する信号には違いがある。ここ1、2年位内に発売されたスマートフォンの多くがみちびきの信号を受信できるが、L1Sには対応していないため、誤差1m以下での測位ができるわけではない。L1Sに対応し、誤差1m以下での測位が可能な製品としては、GarminのGPSゴルフウオッチ「Approach S62」「Approach S42」や古野電気のGPS航法装置「GP-170」などがある。今後は、スマートフォンやタブレットなどでも、L1Sに対応し、より高精度な測位を実現した製品が登場することが予想される。5Gの利点である「高速大容量」「低遅延」「同時接続数の増加」とみちびきによる高精度測位を組み合わせることで、これまでになかった便利なサービスや製品が誕生するだろう。