CMRとSMR

PCのストレージとして、長らく主役を務めてきたのがHDDである。ここ数年、フラッシュメモリの容量増加ペースが著しく、ビット単価も急速に下がったことで、ノートPCを中心として、HDDよりもパフォーマンスが高いSSDを搭載する製品も増えてきたが、大容量が要求されるデータセンターやストレージシステムでは、依然としてHDDが多数採用されている。HDDは、磁気によって情報を記録するデバイスだが、書き込み方式の違いによって、CMRとSMRに大別できる。CMRとはConventional Magnetic Recordingの略で、従来からある書き込み方式である。それに対し、SMRはShingled Magnetic Recordingの略で、HDDメーカーのSeagateが2014年に実用化した、比較的新しい書き込み方式である。Shingleは、瓦という意味で、瓦磁気記録方式とも呼ばれる。

SMRが誕生した背景にあるのが、ストレージデバイスに対する果てない大容量化への要求である。HDDの面記録密度は、過去数十年にわたって向上してきているが、そのためにMRヘッドやGMRヘッド、TMRヘッド、垂直磁気記録といったさまざまな技術が開発されてきた。CMRもそうした記録密度向上のために考案された技術で、従来のCMRでは同心円状のトラックに重なり合わないようにデータを記録していくが、SMRではトラックを一部重ねて(その様子が瓦に似ている)、複数のトラックをブロックという単位で一括して書き込む。トラックを一部重ねることで、面記録密度は25%〜30%ほど向上する。

しかし、SMRでは書き込みがブロック単位となるために、あるトラックのデータを書き換える際に、重なっている他のトラックのデータが上書きされてしまうことがある。その場合、そのトラックのデータを他の上書き可能なトラック(必要なデータが記録されていないトラック)にコピーしてから、先ほどのブロックに書き込むことになる。こうした仕組みは、SSDの書き込み方式とも似ている。SSDでは、データを書き込む際、いったん消去する必要があるが、消去はブロック単位で一括して行うため、ブロックサイズ未満の書き換えは、バッファにブロック内のデータを全てコピーしてから、ブロックを一括消去し、バッファのデータと書き込むデータを統合してから書き込むという手順になる。

SMRのメリット

SMRのメリットは面記録密度が向上するため、同じ容量のHDDを実現するために必要なプラッタ枚数を削減でき、コストダウンに繋がることだ。しかし、SMRはCMRに比べて書き込みの際の手間が増えるため、CMRに比べるとパフォーマンスが低下するという欠点がある。特に、読み書きを何度も繰り返しているうちに、上書き可能なトラックが分散していくと、性能がより劣化していく。また、書き込みの際に何度もデータアクセスが発生するので、寿命も短くなりやすい。SMR方式のHDDは、CMR方式のHDDに比べてバイト単価は安くなるが、ランダムに細かいデータを書き込むようなデータベースや信頼性とパフォーマンスが要求されるファイルサーバーなどの用途で使うことはおすすめできない。逆に、監視カメラの画像を保存したり、動画を保存するビデオレコーダのように、連続して書き込みを行い、まとめて削除するような使い方ならSMR方式のHDDでも特に問題はない。

現在、HDDを製造している主なメーカーは、Westren DigitalとSeagate、東芝の3社だが、どのメーカーも、CMR方式とSMR方式の両方式のHDDを販売している。同じブランドのHDDでも、容量によってCMR方式とSMR方式を使い分けていることもあるので、注意したい。