従来の電力供給の課題

2023年6月5日、Intelは開発中の「Intel PowerVia」のテスト結果を公表した。Intel PowerViaは、従来のようにシリコン基板の表面から電力を供給するのではなく、裏面から電力を供給する技術である。従来のトランジスタ技術では、トランジスタの動作に必要な電力を供給する電力線と信号をやり取りする信号線は共にシリコン基板の表面に設けられていたが、プロセスルールの微細化が進むにつれ、電力線と信号線が互いに場所を取り合うような形になってきた。CPUの集積度が上がり、性能が向上したことによって、動作に必要な電力も増える傾向にあるが、従来の表面から電力を供給する方法では、信号線と干渉するため太い電力線を通すことができず、細い電力線を数多く設けることになる。電力線が細くなると抵抗が大きくなるため、発熱や電圧降下が大きくなってしまう。また、信号線も電力線を迂回するように配線することになり、信号遅延の原因となる。

そうした問題を根本的に解決する方法として、複数の半導体メーカーが電力線をシリコン基板の裏面に移す「裏面電源供給技術」(Backside Power)の研究開発に取り組んでいる。裏面電源供給技術では、信号線は表面に、電力線は裏面に配置されることになり、相互の干渉を抑えられため、消費電力を抑えつつより高いパフォーマンスを実現できる。裏面電源供給技術は、半導体性能向上の切り札として期待されているが、製造工程が大きく変わるため、量産における歩留まりや信頼性の確保、冷却方法などいくつもの課題がある。

左が従来の表面からの電源供給(一番上の金色の部分から下に伸びている金色の線が電力線)、右がIntel PowerViaによる電源供給(下から上に電力線が伸びている)

Intel PowerViaの可能性

Intelは、数年前から「Intel PowerVia」と名付けた裏面電源供給技術を開発してきた。Intel PowerViaは、電力線とトランジスタ層との接続に微細なシリコン貫通電極であるNano TSVを利用するものだが、他の半導体メーカーに先駆けていち早くテストチップを完成させ、その結果が公表されたのだ。テストチップは、2023年後半発売予定の次世代CPU「Meteor Lake」(開発コードネーム)のEコアにIntel PowerViaを導入したもので、Intel 4と呼ばれるIntelの次世代プロセスで製造されている。このテストチップでは、Intel PowerViaの導入によって、パフォーマンスが6%向上し、電圧低下が30%抑制されたという結果が得られた。Intelは、このテスト結果を次のように評価している。「より少ない電力で作業を早く完了できるようになるという観点で、『ムーアの法則』を再び実現できる」。「ムーアの法則」とは、Intelの共同創業者の一人であるゴードン・ムーアが提唱した経験則で、「集積回路のトランジスタ数は2年ごとに2倍になる」というものだが、2020年頃にはムーアの法則に限界が来たといわれるようになり、CPUの性能向上ペースもやや低下した。しかし、Intel PowerViaによって、再びムーアの法則に沿った集積回路の性能向上が可能になると、Intelは表明したのだ。Intel PowerViaは、2024年に登場予定の次々世代プロセス「Intel 20A」で採用される予定だが、Intel 20Aでは、Intel PowerViaだけでなく、トランジスタの構造も一新され、従来のFinFETに代わってRibbonFETと呼ばれる3Dトランジスタが採用される。RibbonFETは、チャネルの4面全てをゲートで取り囲むGAA FET(Gate All Around FET)の一種であり、リーク電流を減らし、パフォーマンスをより向上できるとされている。Intelは、Intel 20Aによって台湾の大手ファウンドリであるTSMCに追いつき、2025年登場予定のIntel 18AによってTSMCを追い越し、半導体製造技術で世界のリーダーになるというロードマップを発表しているが、Intel PowerViaはそのためのキーとなる技術なのだ。

実際には、Intel 20Aでの性能向上、さらにそこから再起動するムーアの法則に従った「2年で2倍」という性能向上は、Intel PowerViaとRibbonFETという二つの新技術の相乗効果によると思われるが、ここ数年、低下していたCPUの性能向上ペースが再び以前のように向上するというのは、半導体業界だけでなく、IT業界にとっても非常に明るい話題と言える。