インテルCoreプロセッサーの基本仕様

インテルのCPUといえば、誰もがCore iシリーズを思い浮かべるだろう。現在のCore iシリーズの第1世代となる製品は、2008年11月に発表されたNehalem(開発コード)である。その後、Coreプロセッサーは、ほぼ1年ごとに世代が更新されており、現時点での最新製品が2023年10月に発表された第14世代Coreプロセッサーとなる。世代が新しくなるたびに、マイクロアーキテクチャが改良されたり、プロセスが縮小されたりすることで、性能が向上してきたが、中でもドラスティックな変化が2021年10月に登場した第12世代Coreプロセッサーである。第11世代までのインテルCoreプロセッサーは、下位モデルから上位モデルまで全て基本的に同じコアを採用しており、上位モデルではコアの数を増やしていたのだが、第12世代Coreプロセッサーでは、インテル製CPUとして初めて2種類のコアを組みあわせる設計を採用した。こうした構成のマルチコアCPUを一般にヘテロジニアスマルチコアと呼ぶが、第12世代Coreプロセッサーでは、性能重視のPコア(Performanceコア)と電力効率重視のEコア(Efficientコア)の2種類が搭載されており、負荷に応じて動的に利用するコアを変えることで、性能と電力効率を両立させているのだ。スマートフォンなどに搭載されているARMベースのCPUでも、big.LITTLEと呼ばれるヘテロジニアスマルチコア構成を採用し、やはり性能と電力効率の両立を実現している。

CoreプロセッサーのPコアは、1つのコアで2つのスレッドを同時実行可能なハイパースレッディングテクノロジーをサポートしているが、Eコアは1つのコアで1つのスレッドしか実行できない。例えば、Core i7-12700の場合、Pコアが8つ、Eコアが4つ搭載されており、同時に実行できるスレッド数は8×2+4=20となる。2022年9月には第12世代Coreプロセッサーの後継となる第13世代Coreプロセッサーが発表されたが、基本的に第12世代Coreプロセッサーの改良版であり、PコアとEコアの2種類のコアを搭載することは変わっていない。さらに、2023年10月に登場した最新の第14世代Coreプロセッサーも、第13世代Coreプロセッサーの正当進化といえる製品だ。

Core i3-13100Tを搭載した日本HPの「HP Elite Mini 800 G9」。容積1Lの超小型PCだ

Pコアのみ搭載した下位モデル製品が登場

このように第12世代Coreプロセッサー以降のインテル製CPUは、PコアとEコアの2種類のコアを搭載するのが基本なのだが、実は第12世代Coreと第13世代Coreの一部の製品では、Pコアしか搭載されていない(つまり第11世代Coreまでと同じような設計)。
具体的には、第12世代では、Core i3-12300/12300T/12100/12100F/12100TとCore i5-12600/12600T/12500/12500T/12400/12400F/12400Tの合計12モデルがPコアのみ搭載(Core i3は4コア、Core i5では6コア)、第13世代では、Core i3-13100/13100F/13100Tの3モデルがPコアのみ搭載となっている(第13世代のCore i5はすべてPコアとEコアを搭載)。第14世代については現時点ではPコアのみ搭載した製品は発表されていないが、第12世代や第13世代のときも後からPコアのみ搭載した製品が追加されたので、来年にも追加される可能性がある。

現在、Core iシリーズは上位からCore i9/i7/i5/i3の4シリーズがあるが、Pコアのみ搭載した製品は下位モデルに限られる。Pコアのみ搭載したCore i3やCore i5は、価格的にも上位モデルより安いため、コストパフォーマンス重視のデスクトップPC、特にビジネス向けのSFF(スモールフォームファクター)と呼ばれるコンパクトな製品に採用されることが多い。また、型番の最後がTで終わっているモデルは、TDPが通常の約半分の35Wに設定されているため発熱が小さく、SFFの中でも特に筐体が小さい製品に採用されている。例えば、日本HPの「HP Elite Mini 800 G9」は、Core i3-13100Tを採用し(他のT型番のCPUも選べる)、容積1Lという超小型サイズを実現している。2種類のコアを採用することによって電力効率が向上し、平均消費電力を下げることができるため、特にモバイルノートPCにおいては、バッテリー駆動時間を延ばすことに貢献する。しかし、デスクトップPCではそこまで消費電力を下げなくても、業務に十分な性能があればいいという考え方も成り立つ。インテルはそうしたニーズに対応するために、PコアのみのCore iプロセッサーをリリースしたのであろう。