データセンターの性能向上と省電力化を実現

私たちの社会が膨大なデータの利用を前提に動いている一方で、データを処理し、運び、保存するために必要な電力も急増している。特にデータセンターの消費電力の増加は大きな社会問題であり、性能向上と省電力化を同時に実現する新しい技術が求められている。そこで注目されているのが「光電融合技術」だ。
光電融合技術とは、コンピューターや通信機器の内部で行われる信号処理において、従来は全て「電気」で行われていたものの一部を「光」に置き換え、一つのチップや基板上で融合させる技術。光通信は、もともと長距離通信分野で使われてきた技術であり、光ファイバー通信は大容量、低損失、長距離伝送に強い。光電融合技術は、この光通信の利点をよりコンピューターの内部に近い領域へ持ち込もうとするものだ。
光電融合技術の中核にあるのが、シリコンフォトニクスやCPO(Co-Packaged Optics)である。シリコンフォトニクスは、半導体製造で使われるシリコン基板上に光導波路や変調器、受光器などの光回路を形成する技術。CPOは、プロセッサーやスイッチASICなどの近く(同一パッケージ内)に光と電気を変換する「光エンジン」を実装し、電気信号の伝送距離を数cm程度に短縮する技術として注目が高まっている。
CPOの研究は2010年代後半から始まったが、当時は通信速度への要求も低く、光の集積技術や実装技術が成熟していなかったため、基板上の伝送には従来型の銅線による電気信号を利用した方がコストや信頼性の面で有利であった。しかし近年、データセンターの高速化に伴い、電気信号による伝送損失などが無視できなくなったことから、シリコンフォトニクスやパッケージングの技術進化によってCPOの実用化が見え始めた。
CPOで先行しているのが、BroadcomとNVIDIAだ。Broadcomは、イーサネット向けのCPOスイッチを既に出荷しており、2026年のOFC(Optical Fiber Communication Conference and Exhibition:光通信に関する世界最大級の国際展示会)において、102.4T イーサネットスイッチ with CPO、400G/lane光DSP、200G/lane イーサネットリタイマーなどを展示し、「200T AI時代」に向けた接続技術群として訴求。CPOを“光部品の置き換え”ではなく、AIファブリック全体の消費電力と帯域を最適化するための実装技術として進めている。

光電融合技術の可能性

AIコンピューティング基盤全体を握るNVIDIAのCPO戦略は、GPUクラスターをつなぐネットワーク製品と強く結びついている。2025年に、シリコンフォトニクスを用いたCPOスイッチとして、InfiniBand向けの「Quantum-X Photonics」とイーサネット向けの「Spectrum-X Photonics」を発表。Quantum-X Photonicsスイッチは144ポートの800Gb/s InfiniBandに対応し、オンボードのシリコンフォトニクスを冷却するために液冷設計を採用した。前世代に比べ、AIコンピュートファブリックで2倍の速度、5倍のスケーラビリティを実現しているが、CPOをいきなりGPU間接続の全てに使うのではなく、まずネットワークスイッチ側から導入する姿勢を見せている。これは、GPU本体に光エンジンを直接組み込むには、信頼性や発熱、保守性、量産コストの課題がまだ大きいためだ。
日本では、NTTが提唱するIOWN構想の中で光電融合技術が重要な位置づけを持っている。IOWNはネットワークからコンピューティングまでを、光を中心に再設計し、高速大容量、低遅延、低消費電力を実現しようとする中長期的な構想。NTTは、光電融合デバイスを「PEC(Photonics-Electronics Convergence)デバイス」と呼び、IOWNの進展に合わせて段階的に実用化する方針を示している。IOWN 1.0ではネットワーク領域、IOWN 2.0ではサーバーボード間、IOWN 3.0ではパッケージ間、IOWN 4.0ではロジック半導体近傍へと、光接続の適用範囲を広げる構想であり、IOWN 4.0では消費電力を1/100にすることを目標としている。最近の具体的な成果としては、PEC-2を搭載した大容量・低消費電力の光電融合スイッチがある。NTTの強みは、CPOをデータセンター内の一技術にとどめず、オールフォトニクス・ネットワーク、AIコンピューティング基盤、通信インフラの省電力化と一体で捉えている点にある。
ビジネスマンにとって重要なのは、光電融合を単なる通信技術や半導体技術としてではなく、AI時代の事業基盤を左右するインフラ技術として捉えることだ。光電融合技術は、いかにデータを効率良く処理し、運ぶかという問題の答えの一つとして、これからの企業活動と社会インフラを大きく変えることになる。

従来型とCPO型の比較。CPOでは電気配線を短くすることが可能であり、消費電力を1/3以下に抑え、帯域幅の向上や遅延の低減が可能になる