コロナ禍への対応とDXの対応がポイント2022年、パートナー様が提案すべきIT投資

かつての首相によって提唱された「健康でゆとりのある田園都市づくりの構想」。それが現代社会のDX推進の一環として再注目されている。政府が推進する重要政策「デジタル田園都市国家構想」とは何なのか?デジタル実装計画により、「にっぽん」が大きく変化する際、エンドユーザー様の動向に注力することでパートナー様はチャンスを得られるかもしれない。

まずはアウトラインを押さえたい

地方の課題を新たな成長のエンジンに転換することを目指すデジタル田園都市国家構想は、ITビジネスの観点でも注目したい岸田内閣の重要政策の一つ。まずはその概要を押さえておきたい。

●経緯

人口減少と少子高齢化、過疎化と東京一極集中、そして地域産業の空洞化は日本経済にとり喫緊の課題だ。昨年12月の所信表明演説において経済再生の要として岸田文雄首相が掲げた「新しい資本主義」の柱の一つとして打ち出されたのが「デジタル田園都市国家構想」である。2021年度補正予算と2022年度予算を合わせて5.7兆円が投入される同構想には、ITビジネスとしても注目していく必要がある。

なお、「デジタル田園都市国家」の初出は、2020年6月に自民党デジタル社会推進特別委員会が発表した政策提言「デジタル・ニッポン2020」にさかのぼる。事務局長の牧島かれん衆院議員はこのように提言をまとめている。

「大平正芳元首相は『都市の持つ高い生産性、良質な情報と、田園の持つ豊かな自然、潤いのある人間関係を結合させ、健康でゆとりのある田園都市づくりの構想を進める』と述べた。(中略)現代に置き換えると、デジタル技術によって働き方等が柔軟になり、どこにいても国民の生活の質は高く維持される『デジタル田園都市国家』が今後のめざすべき国家像となるのではないだろうか」

久方ぶりの宏池会出身首相が、かつての派閥領袖が遺した構想を掲げる巡り合わせに注目する向きも多い。

●目的

デジタルインフラの急速な整備と官民挙げたDX推進を通し、地方の社会課題を成長のエンジンに転換し、持続可能な経済社会を実現するとともに新たな成長を図ることが同構想の狙い。デジタル実装を通して解決すべき社会課題として、下記表の5項目を掲げる。

また、地方の社会課題解決を下支えするため「ハード・ソフトのデジタル基盤整備」「デジタル人材の育成・確保」「誰一人取り残されないための取り組み」が推進される。

●スキーム

地方自らが目指すべき社会の姿を描き、その取り組みを国が支援するというのが構想の基本的な考え方だ。2021年度補正予算デジタル田園都市国家構想推進交付金の場合、大きく以下の3タイプの対象事業に分けられ、国費上限1~6億円(補助率1/2~2/3)が補助される。

〈デジタル実装タイプ TYPE1〉
デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上に向けて、他の地域等で既に確立されている優良なモデル等を活用して迅速な横展開を行う地方公共団体の事業を国が交付金により支援する。

〈地方創生テレワークタイプ〉
サテライトオフィス、シェアオフィス、コワーキングスペース等の施設整備・運営・利用促進等の取組(施設整備・利用促進事業)を行う地方公共団体や、サテライトオフィス等に進出する企業と地元企業等が連携して行う地域活性化に資する取り組み(進出企業定着・地域活性化支援事業)を支援する地方公共団体を支援する。

〈デジタル実装タイプ TYPE2 / 3〉
データ連携基盤を活用し、複数のサービス実装を伴う取り組みを行う地方公共団体の取組を支援する。政府は2024年度末までにデジタル実装に取り組む地方公共団体1,000団体の達成を目指している。その実現に向け、広く取り組みやアイデアを募り、優れたものを総理が表彰する「夏のDegi田甲子園」がスタートしている。

経営に限らず、常識を疑うことは常に大きな困難が伴う。常識を疑い、新たな一歩を踏み出すことの意義は大企業も中堅・中小企業にも違いはない。
これまでもさまざまなITソリューションが大企業から中堅・中小企業へと浸透してきた。人材難やコストという課題を乗り越えることさえできれば、データ分析市場は確実に広がるはずだ。

補助対象事業から見えてくる方向性

デジタルは地方の課題をどのように解決するのか。それを知るには、既に採択が進む対象事業を見ていくことが効果的だ。ここでは2021年度補正予算で行われる対象事業の概要を見ていきたい。

TYPE1は行政DXをはじめ多彩なワンイシュー事業を採択

構想では、地方の取り組みを促す目的から、以下のようなイメージしやすいビジョンの類型を提示している。
①スマートシティ・スーパーシティ
②「デジ活」中山間地域
③産学官協創都市
④SDGs未来都市
⑤脱炭素先行地域
⑥MaaS実装地域

政府は今後、これらの類型を地域の実情に応じてカスタマイズしてもらうことでデジタル実装を促進する考えだが、ITビジネスの観点ではむしろ、既に採択済みの推進交付金事業を見ていった方がふに落ちるだろう。
今年3月に採択結果が発表されたデジタル実装TYPE1から見ていこう。採択件数は47都道府県の403団体705件で、採択金額は国費ベースで121.8億円。分野別では「行政サービス」「住民サービス」の行政DX関連事業が上位を占めている。具体的には、行政の対面窓口業務に支援システムを導入し、住民データを用いて行政職員が各種申請書を作成する「書かない窓口」や「オンライン申請」、防災情報や地域の暮らしに必要な住民サービスを一つのアプリに集約しスマホ等で提供する「地域アプリ」が挙げられる。

事業件数ベースでは、「母子健康手帳アプリ」を主なモデル・サービスとして例示する「健康・医療」、除雪・河川状況のモニタリングなどの「防災」、GIGAスクール構想推進に関連した「教育」など、既存行政サービスのデジタル移行が上位を占める。
それらに続くのが、「交通・物流」「農林水産」「しごと・金融」など、地方が直面する社会課題に対応した新たな公共サービスに関連する分野になる。その一例として、福井県敦賀市の「ドローンを活用したスマート物流構築事業」を見ていこう。

敦賀市南東の山間部に位置する愛発(あらち)地区は、近年地域唯一のコンビニエンスストアが閉店したことで、食料品をはじめとする買い物の困難さが地域の課題になっていた。同事業では、敦賀市郊外の物流倉庫を拠点に、ドローン配送を組み込んだオープンなプラットフォームを構築し、買い物代行、オンデマンド配送、医療品配送、異なる物流会社の荷物の一括配送などのサービスを提供する。オンデマンドドローン配送は、利用者が専用アプリで行った注文を受け、デポスタッフが商品をピックアップし配送用ドローンに商品を積載、自動飛行により指定のドローンスタンドに送り届ける。愛発地区は積雪も多く、ドローンを活用する同事業は雪国特有の積雪による交通網寸断への対策としても期待されている。

「農林水産」では、ドローン、自動操縦トラクタ、アシストスーツを活用した「スマート農業」や航空レーザー計測で森林解析評価を行う「スマート林業」がモデル事業として挙げられる。
「しごと・金融」では、中小企業のIT機器や業務管理システム等の導入を支援する「中小企業デジタル化支援」、デジタル地域通貨・ポイント発行で地域内の経済循環の活性化を図る「地域通貨・ポイント」などがモデル事業として例示され、全46事業、約7.7億円(国費ベース)が採択されている。
観光・文化は、観光客向けの観光マップや情報通知アプリを導入する「観光アプリ」、博物館展示資料等をデジタルアーカイブ化する「デジタルミュージアム」がモデル事業になる。

転職なき地方移住の促進を目指す「地方創生テレワークタイプ」は、コロナ禍に対応した「地方創生テレワーク交付金」の後継として、サテライトオフィス、シェアオフィス、コワーキングスペース等の施設整備・運営・利用促進等の取り組みを支援する。2021年度補正予算では101団体の事業が採択され、交付対象事業費は48億円(国費ベース30億円)。JR燕三条駅構内一角のサテライトオフィス改修事業(新潟県三条市)、重要伝統的建造物群保存地区の空き蔵のサテライトオフィス改修事業(福島県喜多方市)などが採択されている。

TYPE2/3はデータ連携基盤にひも付く多角的取り組みを支援

次にデジタル実装TYPE2/3を見ていきたい。今年6月に発表された交付対象事業は27団体27事業で採択金額は49.1億円(国費ベース)。データ連携基盤の構築・運用を前提とした先験的な取り組みを対象とするTYPE2/3の場合、サービス内容も多岐にわたることが多い。その一例として、ここでは福島県会津若松市の「複数分野データ連携の促進による共助型スマートシティ推進事業」を紹介したい。
>若年層の転出超過の抑制と地元で暮らし続けられるまちづくりを大きな目標とする同事業の取り組みは、「食・農業」「観光」「決済」「ヘルスケア」「防災」「行政」など12分野に及ぶ。その中核に位置付けられるのが地域産業基盤の強化とWell-Beingの向上という二つの課題である。また、データ連携基盤運用の観点では、購買から健康、位置情報にいたる多様なオプトイン情報の活用が同事業の特徴になる。

産業基盤の強化でまず注目したいのが、生産者と旅館・飲食店をつなぐ需給マッチングプラットフォームの構築である。販路拡大による農業生産者の所得向上と地産地消の促進を目指すこの取り組みは、将来的には規格外野菜の流通によるフードロス削減、オーガニック作物の高付加価値化による地球温暖化対策など、持続可能な農業・食品流通の基盤としても生かされる予定だ。
デジタル地域通貨にも注目したい。小規模事業者のキャッシュレス決済導入では、決済手数料負担や立て替え用資金の確保が大きな障害になっている。従来の手数料ビジネスとは一線を画す新たな決済手段を提供する取り組みは、地域のキャッシュレス化促進だけでなく、オプトインに基づく購買行動データの健康アドバイスサービスへの活用などのデータ利活用促進にも大きな役割が期待されている。

Well-Being向上で注目したいのは、PHR/EHR※を統合する医療DBの構築である。ヘルスケアに関連する情報には現在、電子カルテや各種検査情報を統合した医療機関によるEHRとウェアラブル血圧計などの情報をアプリで統合したPHRの2種類が存在する。それらを統合し、医療従事者がPHR/EHR情報を閲覧しながらオンライン医療サービス(健康相談/診療/服薬指導)を実施できるようにすることが同事業の狙い。また防災関連では、スマホの位置情報を活用した動的な避難誘導やリアルタイムの避難行動情報を提供するサービスも提供される。
なお、広範囲に及ぶデジタル実装計画を会津若松市がいち早く立ち上げることができた背後には、内閣府のスーパーシティ型国家戦略特別区域構想に対応したスマートシティの取り組みがある。両構想の関係について同市は「スーパーシティは規制緩和により取り組みを推進する手段、デジ田は地方からデジタル化を進めるための財政支援。どちらも上手に活用していくことが必要」と説明する。

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