課題解決を下支えする取り組み

デジタル田園都市国家構想では、現時点で100万人と試算するデジタル推進人材を新たに230万人育成するなど多様な取り組みが推進される。地方の取り組みを下支えする施策を見ていきたい。

海底ケーブル網を拡充し地方データセンター拠点を整備

デジタル田園都市国家構想では、デジタル実装による地方の社会問題解決と併せ、「ハード・ソフトのデジタル基盤整備」、「デジタル人材の育成・確保」、「誰一人取り残されないための取り組み」が推進される。
ハード・ソフトのデジタル基盤整備では、①デジタルインフラの整備、②マイナンバーカードの普及促進・利活用拡大、③データ連携基盤の構築、④ICTの活用による持続可能性と利便性の高い公共交通ネットワークの整備、⑤エネルギーインフラのデジタル化が図られる。

デジタルインフラの整備で掲げられる目標は以下のようになる。
・光ファイバー世帯カバー率を2027年度末までに99.9%にする。
・5G人口カバー率を2023年度末までに95%、2025年度末までに97%、2030年度末までに99%にする。
・十数か所の地方データセンター拠点を5年程度で整備する。
・日本を周回する海底ケーブル(デジタル田園都市スーパーハイウェイ)を2025年度末までに完成させる。

中でも注目したいのは、データセンター・海底ケーブルの再整備である。背景にあるのが、デジタルインフラの集中と偏在だ。国内データセンターの約6割が東京圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)に集中している現状は、経済安全保障の観点からも問題は大きい。日本周辺の海底ケーブルについても事情は同じだ。敷設が太平洋側に偏るうえ、陸揚局が房総半島に集中する現状は、大災害発生時のレジリエンス(回復力)に不安が残る。
構想では今後5年を目安に数十か所の地方データセンター拠点の整備を示すとともに、日本を周回する海底ケーブル「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」の2025年度末までの完成と陸揚局の分散が打ち出された。データセンターについては既に百以上の自治体が誘致に手を挙げ、今後事業者の募集、補助金の公募が行われることになる。

デジタル人材の育成・確保では、2026年度末までにデジタル推進人材230万人育成を目指す。その数字は、デジタル社会の実現において最低限必要と考えられるビジネスアーキテクトやデータサイエンティスト等の人数を330万人に設定し、現在の情報処理・通信技術者100万人との差から算出された。構想では、①デジタル人材育成プラットフォームの構築、②職業訓練のデジタル分野の重点化、③高等教育機関等におけるデジタル人材の育成などを通し、2024年度末までに年間45万人育成する体制整備を目指す。併せて、地域企業への人材マッチング支援、地方公共団体への人材派遣、企業支援・移住支援を通し、デジタル人材の地域への還流が図られる。
誰一人取り残されない取り組みでは、①デジタル推進委員の展開、②デジタル共生社会の実現、③経済的事情等に基づくデジタルデバイドの是正などが図られる。デジタル推進委員は、高齢者などが身近な場所で身近な人からデジタル機器・サービスの利用方法を学ぶことができる「デジタル活用支援」事業を担う人材で、2022年度中に2万人以上の体制を整えるとともに、今後、全国津々浦々に展開できるよう、更なる拡大を図る。青年経済団体や携帯電話会社の従事者から先行して募集が開始され、今後、応募受付システムの準備が整い次第、一般受付が開始される予定だ。

パートナー様のビジネスチャンスとしては、エンドユーザー様が取り組むデジタル実装計画への直接サポートはもちろんだが、それらを下支えするインフラ整備への協力、さらには人材の提供や育成への協力など多岐にわたる。パートナー様の得意分野を生かす形で、物販やサービスの提供を中心に営業戦略を構築したい。

2050年の未来が求める人材像から今日の雇用と教育を考える

~未来人材ビジョンの衝撃から

今年5月に経済産業省が公表したレポートが話題になっている。今後の人材政策などを検討するために設置された未来人材会議の提言をとりまとめた「未来人材ビジョン」がそれである。近未来の日本社会において求められる人物像をもとに、これからの雇用・人材育成と教育のあり方について検討を行うレポートの内容をダイジェストしたい。

競争力強化に求められるのはよりオープンな組織への変革

レポート冒頭で示されるのが、近未来における労働市場の変化だ。AIやロボットの進化は、すでに米国で高スキル職と低スキル職の両極化として表れるなど、労働市場に大きな影響を与えはじめている。同会議では人の能力を56項目に分類したうえで、2030年、2050年に各能力がどの程度求められるかを試算し、そこから職種別・産業別の従事者数を推計するという取り組みを行っている。その結果浮かび上がったのは、2050年には産業分類別に見た労働者数が3割増~5割減するというドラスティックな変化だった。

また2015年には「注意深さ・ミスがないこと」「責任感・まじめさ」が重視されたのに対し、2050年には「問題発見力」「的確な予測」「革新性」が求められるという各能力に対する需要の変化に関する指摘も興味深い。こうした労働市場の変化から浮かび上がるのが、近未来に必要とされる能力を備えた人材育成を産業界と教育界が一体となって今から取り組みはじめることの大切さだ。その方向性と当面の具体案を指し示すことが、同レポートの骨子になる。

まずは企業の雇用・人材育成から見ていきたい。終身雇用や年功型賃金に代表される従来の日本型雇用システムに代わるものとして提言されるのが、人材を資本と捉え、その価値を最大化することで中長期的な企業価値向上を図る「人的資本経営」に基づく、メンバーが出入りすることを前提としたよりオープンな組織への移行である。レポートでは、その効果を以下のように表現する。
「人的資本経営という変革を通じて、日本社会で働く個人の能力が十二分に発揮されるようになれば、(中略)多様な人材がそれぞれの持ち場で活躍でき、失敗してもまたやり直せる社会へと、転換していく」

多様性の確立では、従来の新卒一括採用からの脱却も課題の一つだ。新卒一括採用を相対化していくうえで大きな役割を果たすことが期待されるのが、中途採用、通年採用、職種別採用、ジョブ型採用など、多様で複線化された入口の拡大である。
なお雇用の流動性を高めることに関連し、「退職所得課税をはじめとする税制・社会保障制度については、多様な働き方やキャリアを踏まえた中立的な制度へ見直すべきである」など一歩踏み込んだ社会デザインを提案するのも興味深い点だ。
次に学校教育への提言を見ていきたい。その前提となるのが、未来をけん引する人材は「育てられるのではなく、ある一定の環境の中で自ら育つ」という観点、つまり好きなことに夢中になれる教育への転換である。

実現には、答えのない本物の社会課題に向き合い、探求学習を始められる環境の整備が必要になるが、そこで大きな役割を果たすのがデジタルの活用である。場所や時間、年齢を問わず、世界に広がる社会課題に向き合えることと、知識の習得や反復的な演習を効率化し、探求型学習の時間の捻出が可能になることがその理由である。
そのうえでレポートでは、教育を「知識」の習得と「探求力」の鍛錬という二つのレイヤー構造として捉えなおすことを提言し、こうまとめる。
「知識を習得するレイヤーでは、デジタルを基盤に企業や大学等の教育プログラムを共通の知として整備することで、(中略)個別最適な学びを実現させるべきである。探究力を鍛錬するレイヤーでは、社会課題や生活課題の当事者として、課題の構造を見極めながら、自分に足りない知恵を集め、(中略)他者との対話を通じて、協働的な学びが行われるべきである」
さらにレポートでは、企業が教育に主体的に参画し、現場と二人三脚で教育改革に取り組むことの意義を強調する。
産学界の識者による提言は、直接的に政策に反映されるという性格のものではない。だが、今後雇用や教育を考えるうえで重要なヒントになることは間違いなさそうだ。

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