多様な業務へのチューニングが実現するオフィスワークでのAI活用の新たな可能性

オフィスワークにおけるAI活用の課題はまだまだ多い。注目したいのが、業務への最適化を通し、より優れたユーザー体験を提供するという観点だ。ここからは、既にAIが実装されたツールの機能検証を通し、その可能性を考えていきたい。

いち早くAIを実装したNotion AIはフォーマットへの柔軟な対応が特長

オフィスワークにおけるAI活用を考える上で大きな意味を持つのが、米国Notion社が2023年2月に提供を開始したNotion AIだ。2022年11月にプライベートアルファ版として提供がスタートした同サービスの最大の特長は、オフィスワークを前提にしたLLM利用の最適化が図られている点にある。

Notion AIの説明についてはほかに譲りたいが、メモやタスク、Wiki、データベースなどの機能を一元的に提供するアプリに実装されたAIの諸機能は、Microsoft 365 Copilotの可能性を考えるうえで大きな意味を持つはずだ。

早速その機能を試してみたい。Notion AIによる文章生成は、「アイデアのブレインストーミング」「ブログ投稿」「プレスリリース」などの用途を選択することから始まる。

Notion AIは用途に応じてドキュメントを生成

手始めに仮想の新製品のプレスリリースを作成してみよう。お題として用意したのは、「株式会社海千が上着に組み込むウェアラブル空気清浄機を発売した。花粉やほこりを除去でき、3時間の充電で12時間動作する」という情報だ。結果は以下のとおりだった。

株式会社海千、ウェアラブル空気清浄機を新発売
株式会社海千は、上着に組み込むウェアラブル空気清浄機を新発売いたしました。この空気清浄機は、花粉やほこりなどの微粒子を除去し、3時間の充電で12時間動作します。
日本では花粉症の方が多いことから、海千はこのウェアラブル空気清浄機を開発しました。上着に取り付けることで、外出先でも快適な空気環境を維持することができます。
海千の代表は、「このウェアラブル空気清浄機を使って、花粉やほこりなどの微粒子を取り除き、健康な生活を送ってほしいと思います。」とコメントしています。
このウェアラブル空気清浄機は、今後ますます需要が高まることが予想されます。海千は、今後もさまざまな商品を展開していく予定です。(Notion AIにより作成)

いかがだろうか。文章としては可もなく不可もなくといったところだが、興味深いのは、「花粉症」という製品開発の背景が付け加えられている点だ。代表者のコメントが挿入されるなど、いわゆるビジネスセンテンスに基づいた文章が自動生成されている点も注目したい。これらは、プレスリリースというフォーマットを前提に文章を生成していることが見受けられる。

文字数の関係もあり例文の製品情報は最小限にとどめたが、Notion AIの場合、インプット情報量を増やせばそれに応じて読みやすさを維持したまま、プレスリリースにその情報が反映される。ビジネス文書をゼロから書き起こすために必要な工数を考えれば、文書作成のたたき台としては既に必要十分な水準に達しているように感じた。

なお、Notion AIには、「トーンの変更」という機能も実装されている。次に「フォーマル」「カジュアル」「率直」「堂々とした」などのトーンから「フレンドリー」を選択してみた。

こんにちは! 花粉の季節がやってきましたね。多くの人が花粉症に苦しんでいるこの季節に、新しいアイテムが登場しました。それは、ウェアラブル型モバイル空気清浄機です!

この空気清浄機は、上着に装着して使用できるので、外出先でも手軽に利用できます。そして、小型なので、どこでも設置できます。花粉はもちろん、PM2.5や空気中のウイルスなども効果的に除去することができる、高性能なフィルターを搭載しています。また、充電式なので、コンセントがない場所でも使えます。

花粉症対策には、このウェアラブル型モバイル空気清浄機が大変役立ちます。健康に良いことをするために、ぜひお試しください! (Notion AIで、フレンドリーにて作成)

親しみやすい文体になっただけでなく、構成自体も変更されている点に注目したい。ここからもNotion AIがあらかじめチューニングされたフォーマットを前提に動作していることがわかる。また「SNSへの投稿」を選ぶと、Twitterを想定したハッシュタグを含む短文が自動生成される。

文章のトーンも調整できる

Notion AIの出力形式には、既に紹介した形式のほか「職務記述書」「営業メール」「求人募集メール」「創作ストーリー」などが用意されているが、出力できるのは不特定多数の読者を想定した文章だけではない。
次に「アイデアのブレインストーミング」を試してみよう。
「ユーザーエクスペリエンスを重視したウェアラブル空気清浄機のWebマーケ施策」で質問すると、以下の回答を得た。

・インフルエンサーとのコラボレーションキャンペーンを実施する。
・健康ブログやSNS上での空気清浄機の重要性を訴求する記事を配信する。
・ウェアラブル空気清浄機の実際の効果を実感できる体験会を開催する。
・汚れた空気を取り込んで清潔な空気を出す過程を映像化したプロモーションビデオを制作する。
・カラフルなデザインや機能性をアピールした広告を公共交通機関や駅などに掲示する。
・空気清浄機の購入者には、特典として別売りのフィルターを割引価格で提供する。
・オンラインストアでウェアラブル空気清浄機を購入すると、使い方やメンテナンス方法がわかる冊子をプレゼントする。
・ウェアラブル空気清浄機を着用したまま、外出先での写真をSNSに投稿すると、割引クーポンがもらえるキャンペーンを実施する。
・健康に関するイベントやフェアに出展し、ウェアラブル空気清浄機の展示と販売を行う。
・ビジネスマンをターゲットにした広告を、オフィス街やビジネスホテル周辺に掲示する。
(Notion AIによる回答)

販売施策は、組織や担当者のナレッジやノウハウに基づき立案されることが一般的だ。その結果、ともすると代わり映えしないアイデアに基づき、施策が実行されることも珍しくない。それだけに簡単な操作でベーシックなアイデアが網羅されることには一定の意味があると思えるがいかがだろうか。「勘」と「度胸」に頼るほかなかった判断に一定のベンチマークが得られることの意義は決して小さくないはずだ。また各項目をドリルダウンにより深掘りしたり、ToDoリストの作成により実現の手順を可視化することも可能だ。

なおNotion AIには文章の要約やリライトといった機能も備わるが、その品質はChatGPTと大きな違いはないように思えた。

AIが実現するデータドリブン経営

表計算におけるAI活用の方向性は大きく二つ考えられる。一つはAIによる作業の省力化である。その一例として、「GPT Workspace」(Googleスプレッドシート)、「ChatGPT for Excel」(Microsoft Excel)の名称で提供されるアドインに注目したい。双方の機能はほぼ同様で、GPT Workspaceであれば「=GPT」(結果をセルに反映)、「=GPT_LIST」(結果をリスト化して表示)などの関数式が利用できるようになる。試しに徳川家康の有力な忠臣武将のリスト化を指示したうえで、各武将の生没年と簡単な経歴をまとめた表を作成してみた。内容が正しいかはかなり怪しいが、例えば「〇〇県の全自治体をリスト化し人口を表示する」など、用途によっては作業の省力化も可能だろう。

表計算アドインは使い方次第では省力化につながるだろう

また対応言語は英語のみになるが、「電話番号をフォーマット化し、市外局番に基づき住所を表示する」「顧客レビューを評価が高い順に表示する」など、よりオフィスワークに即した関数式を提供するアドインも登場している。ITビジネスの観点では、アドインとRPAの連携についても注目する必要があるだろう。

もう一つの方向性は、Microsoft 365 Copilotでも触れたデータ分析の自動化や大幅な省力化という観点だ。社内に蓄積されたデータ活用はDXの観点からも重要な課題だ。データ分析と聞くと専用データ基盤に蓄積されるビッグデータを連想しがちだが、必ずしもデータの規模が分析精度に反映されるわけではない。第三者によって収集・公開されたセカンダリーデータと組み合わせることで、多様なデータ分析が可能になる。一方で、高度なデータ分析には、統計学やプログラミングの専門知識を有する人材が必要ということもあり、特に中小企業のデータ活用には課題も少なくないのが実情だ。Copilot in Excelには大きな期待が寄せられている。

コンテンツ需要急増と画像生成系AIの関係

デザインやビジュアライズの領域で注目したいのが、早くからAdobe Senseiと名付けたAI開発を行ってきたAdobeの取り組みだ。同社がこの3月に発表した画像生成AI「Adobe Firefly」の第一の特長は、AIの学習リソースをコントロールし、著作権上の問題をクリアにする点である。現時点では一般公開されていないこともあり評価は難しいが、自然言語による指示で夏の風景を冬の風景に変えるなど、クリエーターの意図に臨機応変に対応する使い勝手の良さもその特長だ。

クリエーターの権利保護はAI活用の課題だが、その一方で、今日のマーケティング施策で言われる「パーソナライズされたユーザー体験」に求められるコンテンツ制作への人力による対応はもはや不可能になりつつあるのが実情でもある。

Adobe Fireflyは著作権をクリアした画像生成を実現

我々が目にするGoogle検索画面の見出し文字のブルーは、何十種類もの青色に対するユーザーの反応を分析した結果定められたというのは有名な話だ。今日のマーケティング施策において求められるバリエーションのニーズはそのレベルにとどまらない。「背景を冬景色に変えて反応を試したい」「都会的なイメージと田園的なイメージの反応を比較したい」など、ビッグデータと組み合わせた市場分析を行ううえでは、これまでと比較にならないほど多様なコンテンツ制作が必要になる。こうしたニーズに応えようとするなら、AI活用は避けて通ることができない。

自然言語による指示で画像は自由に変えられる

オフィスワークでもそれは同じだ。定型業務の省力化を通し生産性向上を図ろうとするならば、AIはその福音になるはずだ。ただし一方で、AI本格導入はオフィスワーカーのスキルセットの再編成にもつながるはずだ。LLMの急速な進化を受け、アメリカでは会計士の失業が懸念されていると言う。AIが導く未来図はいまだ不透明だが、いずれにせよ、オフィスワークは大きく変わっていくはずだ。

AIはオフィスワーカーの福音か?それとも競合相手なのか?その結論を出すには時期尚早であるものの、日本社会では比較的好意的に受け入れられているように感じる。パートナーの皆さまも競合や対立という関係ではなく、特性や問題点を理解しながら協業する、といった関係がビジネスを拡大する近道なのではないだろうか。

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