昨年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の5類感染症移行にともない、日本の経済活動は明らかに活性化した。長く続いた半導体不足は、IT機器に関しては回復したといってよいだろう。2024年の注目キーワードは、「AIビジネスのマネタイズ」で間違いない。PCやサーバーといった物販はもちろん、データビジネスについてもAIは必ず関連してくる。ここでは、2024年の、パートナー様が押さえておくべきポイントについて解説する。

Windows Server 2012 EOSなど昨年のITビジネスを振り返る

2023年は、さまざまな変化の兆しが見えた1年だった。まずは昨年のITビジネスのトピックを振り返っておきたい。

●オフィス回帰とハイブリッドワーク

5月8日の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の5類感染症移行をもって、3年以上続いたコロナ禍は一区切りつくことになった。こうした中で目立ったのは、企業のオフィス回帰の動きだ。一方では、多くの企業において在宅勤務が定着化し、ハイブリッドワークの一般化が進んだ。こうした流れを受け、フリーアドレスやリモート商談に対応した個室ブースなどのオフィス什器が注目された。

ハイブリッドワークが当たり前の時代になった
ハイブリッドワークが当たり前の時代になった

●オンプレミスの再評価

40万台以上の物理サーバーで稼働するWindows Server 2012/2012 R2サポート終了(EOS)を受けたマイグレーションは、昨年の重要な商機だった。当初、EOSを機にクラウド移行が進むとみられたが、オンプレミスのサーバー出荷はメーカー各社で好調だった。

その背景にあるとみられるのが、コロナ禍で在宅勤務に軸足が移る中で急速に進んだ「とりあえずクラウド」の動きへの反動である。カスタマイズ自由度の低さや既存社内システムとの連携、オンプレと比較して割高な運用コストなどのクラウドの問題点を指摘する声は少なくない。こうした中進んだのがクラウドとオンプレミスを臨機応変に使い分ける動きだった。

またエンタープライズ企業を中心に膨大なリソースが必要になるAI学習・分析基盤としてのプライベートクラウド運用が本格的に開始されたという事情もその背景にはある。

●PC出荷の回復

2021年以降、半導体不足の影響もあり、PC出荷台数は低下し続けている。2023年の法人向け出荷台数は横ばいになり、世界的インフレによる価格上昇もあり、売上ベースではようやく上昇に転じたとみられる。

●バズワード化した生成AI

2022年のIT業界の最重要ワード「メタバース」を完全に駆逐したのが、LLM(大規模言語モデル)や画像生成AIといった生成AIだった。なかでも注目されたのが、Microsoft Copilot for Microsoft 365(以下、Copilot for Microsoft 365)、Adobe Fireflyなど、法人を主要ターゲットにした製品の登場である。ホワイトカラーの生産性向上を考える上で生成AI活用は避けて通れない課題だ。その意義がいよいよ今年、問われることになりそうだ。

生成AIマネタイズ元年 ビジネスの観点で注目したい

2024年、まず注目したいのが生成AI関連商材であることは間違いない。
代表格がMicrosoft 365プラットフォーム上で提供される『Copilot for Microsoft 365』である。以前からテスト運用が行われてきた『Copilot for Microsoft 365』が『Microsoft 365 E3』『Microsoft 365 E5』ユーザーを対象に正規提供を開始したのは2023年11月のこと。マイクロソフトは、すでに『Microsoft 365 Business Standard』『Microsoft 365 Business Premium』へのアドオン提供を開始することを表明し、SMB市場でも一般提供されると発表したことに加え、2024年1月16日の発表では、Office 365 E3およびE5へのアドオン提供もできるようになった。

年契約時の料金は、年/¥45,000(月換算/¥3,750)で提供される。かなり強気な料金設定だが、それもマイクロソフトの自信の表れといえるのかもしれない。

『Copilot for Microsoft 365』の第一の特長は、すでに知られる通り、Word、PowerPoint、Excel、Outlook、Teamsなどの既存Officeツールとの親和性の高さにある。

例えば、生成AIとPowerPointによる効果的なプレゼン資料作成はCopilotならではのものだ。だが注目したいのはそれだけではない。『Copilot for Microsoft 365』のもう一つの特長は、企業内に蓄積された多様なデータに基づき、生成AIが自律的な学習を行う点にある。例えば、自社フォーマットに対応した提案書や稟議書が自動作成されたら、それを下書きとして利用するだけでも確実に業務は省力化するはずだ。

生成AIは、実用化のためのルール決めが急務
生成AIは、実用化のためのルール決めが急務

ちなみに、『Copilot for Microsoft 365』が取り込む資料データは、Microsoft 365のクラウド(OneDriveやSharePoint等)で保管されるデータに限られる。エンドユーザー様への提案では、データのクラウド移行に関する提案・アドバイスも重要な課題になるだろう。

画像生成AIのマネタイズで注目したいのが、Adobe Creative Cloudの新機能『Adobe Firefly』である。AIが生成した画像の商業利用はこれまで、クリエーターの著作権侵害リスクが大きな障害になっていた。画像生成AIの多くがインターネット上の画像をもとに学習を行うことがその理由である。

『Adobe Firefly』は、自社のストックフォトサービス『Adobe Stock』を学習材料として利用することでこの問題を解決。数億点を超えるロイヤルティフリー素材を擁する『Adobe Stock』の検索用タグが利用できることもその強みだ。

また『Adobe Creative Cloud』では、以前からAdobe Senseiと名付けられたAIが各種操作をサポートしている。その機能を活用することでノンクリエーターによる販促ツール制作の内製化が可能になる点にもぜひ注目したい。デジタルマーケティングでは今日、複数のペルソナに応じた顧客コミュニケーションのパーソナライズが強く求められているが、特にSMBの場合、その仕組みを外注によって回すことは、コストと時間の両面で現実的ではない。AIが支援するクリエーティブツールの登場は、マーケティングチームや営業チームによるクリエーティブ内製化という新市場の開拓に大きな役割を果たすことが期待されている。

Fireflyで「浅草、裏通り、人混み」で自動生成。用途によってはそのまま使えそうだ in Windows
Fireflyで「浅草、裏通り、人混み」で自動生成。用途によってはそのまま使えそうだ

AI PCにも注目したいWindows 10移行市場

次に注目したいのが、2025年10月のWindows 10サポート終了にともなうマイグレーション需要だ。当初移行先はWindows 11一択になるとみられていたが、ここにきて新たな移行先候補として急浮上したのは2024年下半期リリースが噂される新しいWindowsである。

マイクロソフトはWindows 11に組み込まれるCopilot in Windowsをすでにリリースしているが、その機能は対話形式による設定変更などに限られていた。それに対し、新しいWindowsでは「OS全体に取り込まれ、統合されたAI体験」が大きな特長になるとみられている。

Copilot for Microsoft 365はOfficeツールとAIの連携を実現
Copilot for Microsoft 365はOfficeツールとAIの連携を実現

その一例が対話形式によるファイル検索の実現である。「1週間ほど前に〇〇さんから送られてきた、△△の売上に関するドキュメントを探して」と入力するだけで目的のファイルを探し出せるようになるようだ。こうした話を耳にすると、Windows 11をスキップして新しいWindowsに移行するという選択が増えることも予想されるが、その際にはハードスペックに注意が必要になりそうだ。新しいWindowsに組み込まれるCopilotは、その性質上、常時バックグラウンドで動作し、ドキュメントの分析やコンテキストの理解を行うことが予想される。そのため一定基準以下のPCのスペックではAI関連機能の多くが利用できなくなる可能性が高いことがその理由である。

対話形式で画面設定などが行えるCopilot in Windows
対話形式で画面設定などが行えるCopilot in Windows

この話題と関連してぜひ注目したいのが、PCハードの今年のトレンドになることが予想される「AI PC」である。生成AIでは機械学習、推論処理というプロセスで大きな負荷が生じるが、基本的にこれらの処理はクラウド側で行われてきた。だが、スマートフォンの画像処理のように端末側でAIが走る例も少なくない。

AI PCとは、機械処理や推論処理といったプロセスへの対応を前提としたNPU(Neural Processing Unit)を端末側で実装するPCを指す。NPU搭載CPUはIntel、AMDなどが生産を開始し、NPU搭載PCの発売もすでにPCメーカー各社がアナウンスしている。おそらくこれらの製品は、新しいWindowsの新機能への対応を前提に開発されたとみられる。

いずれにせよエンドユーザー様の多くは、既存ハードスペックでも対応可能なWindows 11を選ぶべきか、機能をフルに利用するにはAI PCが必要になる新しいWindowsを選ぶべきか、という難しい選択が迫られることは間違いなさそうだ。

マイグレーションでは、周辺環境の見直し提案にも注目したい。特に注目したいのが、サブスクリプション移行需要の掘り起こしだ。例えば、広く普及するPDF編集ツールであるAdobe Acrobatの場合、今も相当数の永続ライセンスが稼働中だ。その移行市場はクロスセル、アップセルの観点からも注目したい。

多くの企業にとり、DXが引き続き大きな課題であり続けている。道筋はそれぞれ異なるはずだが、サイロ化したデータの連携とその活用が重要なポイントになることは間違いない。こうした課題解決に大きな役割を果たすことが期待されるのが、kintoneなどのノーコードツールによる現場レベルでのデータ利活用の取り組みである。しかし、実際のシステム構築には、ノーコードとはいえある程度の知見が求められることが一般的だ。ノーコードツールについては開発のみ手掛け、設定変更などの実運用はエンドユーザー様自身に委ねるという手離れのいいビジネスモデルの構築、という観点からも注目したいところだ。

アフターコロナのハイブリッドワーク観点では、「ゼロトラスト」に代表されるネットワーク環境の見直しも重要な課題の一つであり続けている。そのポイントは、WSUS(Windows Server Update Services)やEDR(Endpoint Detection and Response)によるエンドポイントレベルのセキュリティ管理とSD-WANによる柔軟なトラフィックのコントロールにある。ファイアウォールの限界が指摘される中、セキュリティの強化は今後も避けて通れない課題になるはずだ。

2024年4月からは、介護施設における事業継続計画(BCP)策定が義務付けられる。自治体によって条件は異なるが、一定条件を満たすことで緊急時用の自家発電装置・蓄電池、データ保全のための仕組みや従業員の安否確認システム、非常食の備蓄などで補助金が受給できることもあり、今年の商機の一つとして注目したい。