AI専用チップが続々と登場 しかしNVIDIAの天下は続く
AI向け半導体市場で、NVIDIAのシェアは90%近くを占めている。ここまでNVIDIAが圧倒的な地位を獲得している理由は、AI開発に用いられるフレームワークの多くが、NVIDIAのCUDA(Compute Unified Device Architecture)と呼ばれる並列演算処理プラットフォームに最適化されているため、世界中のAI開発者がNVIDIAのGPUを使ってAIを開発しているからだ。AMDやインテルもAI向けGPUやAI専用チップを開発・販売しているが、AI分野におけるCUDAの資産は膨大であり、性能では見劣りしなくても、NVIDIAのGPUの代わりになるのは難しいのだ。AI処理は、知識をAIモデルに覚えさせる学習と、学習済みのAIモデルを使って結果を得る推論に大別できるが、学習のほうが推論に比べてはるかに必要な計算量が多くなる。ChatGPTなどは、推論もクラウド上で行っているサービスだが、Copilot+ PCを代表とするAI処理性能が高いPCが増えており、ローカルでLLMなどの推論を行うことも今後は増えてくるであろう。

NVIDIAが躍進を遂げた最大の理由は、生成AIの学習に使われるAI向けGPUの需要が爆発的に増加したことだが、生成AIブームはオフィスや家庭で使われるクライアントPCにも大きな影響を与えている。従来は、AIに対して質問を投げかけ、その回答を得るプロセスである推論も、クラウド上で行うことが一般的であったが、セキュリティや応答速度、コスト面においては、クライアントPCなどのローカルで推論を行うほうが有利である。ローカルでのAI処理性能を高めるために、CPUメーカーが取り組んでいるのが、NPU(Neural Processing Unit)のCPUへの統合である。PC向けCPUで初めてNPUを統合したのは、2023年1月にAMDが発表したノートPC向けCPU「Ryzen 7040シリーズ」であり、統合されているNPUの性能は10TOPSであった。TOPSとは、1秒間に実行できる演算の数を表す単位であり、1TOPSなら1秒間に1兆回の演算ができることになる。続いて、クアルコムが2023年10月に、45TOPSという高性能なNPUを統合したノートPC向けCPU「Snapdragon X Elite」を発表。さらに2024年4月には、廉価版の「Snapdragon X Plus」(NPU性能は45TOPS)を発表した。インテルは、2023年12月にNPUを統合した「Core Ultraプロセッサー」を発表したが、NPUの性能は11.5TOPSとクアルコムには及ばなかった。

実践ソリューションフェア2025のインテルブースにて展示
2025年は「AI PC」「Copilot+ PC」の存在感が増す
2024年のPCハードウェア業界で話題となったキーワードが、「AI PC」と「Copilot+ PC」である。まず、インテルが2023年12月に、新CPU「Core Ultra」の発表にあわせてAI PCという概念を発表した。AI PCとは、AI処理が得意なPCのカテゴリーであり、当初は「NPUを搭載=AI PC」というかなり緩い規定であった。その後、2024年2月に、インテルとマイクロソフト社が共同で定めたAI PCの要件が発表された。それは「Copilotに対応」「Copilotキーを搭載」「NPUを搭載」の3つであり、Windows 11搭載でCopilotキーを備え、NPUを搭載したPCなら、基本的にAI PCの要件を満たすといってよい。前述したように、2023年末までに、インテルとAMD、クアルコムがNPU統合CPUをリリースしており、それらを搭載したAI PCが各社から発表された。さらに、2024年5月にはマイクロソフト社が、「Copilot+ PC」という新たなAI PCのカテゴリを発表した。Copilot+ PCでは、2024年2月に発表されたAI PCの要件よりも、厳しい要件が規定されている。AI PCは、NPUを搭載していればその性能は問わなかったが、Copilot+ PCでは、40TOPS以上のNPUを搭載していることが要件とされている。つまり、AI PCでのカテゴリーの中で、さらにAI処理性能が高い製品がCopilot+ PCとなるのだ。ここで注意したいのは、Copilot+ PC発表時点で40TOPS以上のNPUを統合したCPUは、クアルコムのSnapdragon X Elite/Plusしか存在しなかった。そのため、2024年夏商戦に登場したCopilot+ PCは、すべてSnapdragonを搭載していた。マイクロソフト社がCopilot+ PCを見切り発車ともいえる段階で発表したことで、インテルやAMDも、40TOPS以上の性能を持つNPUを統合したCPUをリリースすることが急務となった。AMDは、Copilot+ PC発表の翌月である2024年6月に、50TOPSのNPUを統合したノートPC向けCPU「Ryzen AI 300シリーズ」を発表。

AMD Ryzen AI 7 PRO 360 プロセッサー搭載
インテルもAMDからは少し遅れたが、2024年9月に「Core Ultraプロセッサー シリーズ2」を発表した。Core Ultraプロセッサー シリーズ2では、統合しているNPUの性能が48TOPS/40TOPSに向上しており、Copilot+ PCの要件を満たすようになった。AMDやインテルからもCopilot+ PCの要件を満たすCPUが発表されたことで、2024年年末商戦や2025年春商戦向けに、AMDやインテルのCPUを搭載したCopilot+ PCが各社から登場し、量販店などにもAI PCやCopilot+ PCのコーナーが設けられるようになった。

インテル Core Ultraプロセッサー シリーズ2を搭載
2024年のCopilot+ PCは、まだ顔見せ的な部分が多く、価格的にも高価であったため、PCの出荷台数に占める割合はそれほど高くはなかったが、2025年では市場におけるCopilot+ PCの存在感が増すことが予想される。例えばASUSは、2025年2月に開催された新製品発表会において、「2025年は出荷台数に占めるCopilot+ PCの割合を30%まで高めたい」と表明し、超軽量Copilot+ PC「Zenbook SORA」をはじめとするCopilot+ PCを多数発表した。
NPU搭載CPUで先行したクアルコムは、2024年9月に45TOPSのNPU性能を保ったまま、さらに価格を下げた「Snapdragon X Plus 8-core」を発表した。Snapdragon X Plus 8-coreの登場によって、より低価格でCopilot+ PCを投入することが可能になる。2025年後半には、次世代のSnapdragon Xシリーズが登場する予定であり、Copilot+ PCの本格的な普及が始まるだろう。

Snapdragon X Elite搭載のCopilot+ PC
Windows 10のEOSがCopilot+ PCの普及を後押し
2025年のPCハードウェア業界を占う上で、重要なポイントとなるのが、Windows 10のEOS(End of Support:サポー ト終了)である。Windows 10 EOSは2025年10月14日であり、これ以降はセキュリティアップデートなどの基本的なサポートが終了する。サポートが終了してしまうと、新たに見つかった脆弱性などへの対処ができなくなるため、EOS以降もそのPCを使い続けるということは大きなリスクとなる。そのため、2025年春から夏にかけて、Windows 10搭載PCからWindows 11搭載PCへのリプレース需要が増加することが予想される。
企業で使うPCは、一度リプレースすると4~5年使い続けることが一般的である。そのため、今使えればいいというのではなく、5年後も現役として快適に使えるスペックのPCを選ぶべきだ。そうした観点から、Windows 10 EOSのタイミングでリプレースするPCとしてCopilot+ PCを選ぶというのは、理にかなった選択といえる。Copilot+ PCは、NPUを統合した最新CPUを搭載し、メモリーも16GB以上であることが要件となっているので、AI処理以外の作業も快適に行える。また、最新CPUは省電力性能も非常に優れており、バッテリー持続時間も従来のノートPCに比べて格段に長くなっている。確かに、Copilot+ PCではない通常のノートPCに比べると価格差は多少あるが、5年後も快適に使えるのならかえって安い買い物といえる。
前述したように2025年後半は、Copilot+ PCの選択肢がさらに広がり、価格的にもリーズナブルな製品が増えてくる。Windows 10 EOSは、Copilot+ PCの普及を後押しする、絶好の追い風となるだろう。
AI機能がアプリケーションに搭載されることで業務効率が向上
Copilotとは、マイクロソフト社が提供しているAI技術の総称である。Windows 11やMicrosoft 365にもCopilotが搭載されており、OSやOfficeアプリケーションからシームレスにAI機能を活用できる。法人向けのMicrosoft 365に統合されるMicrosoft 365 Copilotを利用するには、有償サブスクリプションへの加入が必要だが、最新の生成AIを活用した機能が次々に実装されており、上手に活用することで多くの業務の効率を向上させることができる。現状のCopilotは、基本的にクラウド上で推論を行うサービスであり、Copilotを利用する際に、Copilot+ PCのNPUが活用されているわけではない。Copilot+ PCでは、過去のコンテンツを検索できるリコールやビデオ通話中にエフェクトを適用できるWindows Studioエフェクトなど、NPUを活用するCopilot+ PC専用機能が利用できる。そのため、従来のPCでも、Copilot自体は問題なく利用できる。しかし、社内のセキュリティポリシーによっては、外部のクラウド上で動作するLLMなどを使うことが禁じられている場合もある。また、レイテンシーやコストなどの面でも、ローカルでLLMを実行するほうが有利なことが多い。そのため、今後はローカルでLLMや画像生成などの推論を行う場面が増えてくることが予想され、NPUの存在価値がさらに高まる。
また、サードパーティー製アプリケーションにおいても、現時点ではCopilot+ PCのNPUを活用するものはごくわずかしかないが、Copilot+ PC対応アプリケーションを作成するために必要なWindows Copilot Runtimeの提供がようやく2025年1月にスタートしたため、2025年後半からNPUを活用するサードパーティ製アプリケーションが増えてくることが期待される。Copilot+ PCはハードウェアが先行して登場したものの、対応アプリケーションが少ないことがウィークポイントであったが、2025年後半からその真価を発揮できるシーンが増えてくるだろう。もちろん2026年以降もCopilot+ PCへのシフトが進むことが予想される。現時点では先行投資的な色合いもあるが、業務に使うPCを新たに導入するならCopilot+ PCが有力な選択肢となる。
3つのCopilotに「Copilot+ PCについて」聞いてみた
「Copilotキー」で起動したCopilot


