中国はAIによる社会混乱の回避を重視

各国の取り組みは、拘束力を持つハードローと拘束力を持たない規範としてのソフトローに二分される。個人情報の保護についてはEUと足並みをそろえる一方、自律的システム開発や運用の包括的な規制を行わないことを明言する英国では、ソフトローによる法整備が進む。2023年10月にバイデン前大統領が「AI の安心、安全で信頼できる開発と利用に関する大統領令」を公布した米国では、ソフトローとハードローの組み合わせによるAI規制が進むとみられていたが、トランプ大統領が就任一日目に同大統領令を撤回したことで今後の動きが見えない状態が続いている。

こうした中、ハードローを含むルール整備を積極的に行うのが中国だ。中でも注目したいのが、「レコメンデーション・アルゴリズム規定」「深度合成アルゴリズム規定」「生成AI弁法」と名付けられた生成AIを対象にした規定である。

生成AIサービスの提供に先立ち、アルゴリズム提出を求める中国のルール整備は、AIによる社会の混乱リスクを特に重大視したものということができる。またAIと生物学、AIと医学という倫理的な側面におけるAI利用ルールの整備が進む点にも注目したい。

AIアルゴリズムによって規制する中国

イノベーションとの両立を図る日本のAI法案

最後に、日本におけるAI規制法の状況を見ていきたい。政府は2025年2月、AIの開発・活用の促進や悪用リスクへの対処を定めた「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」(以下、AI法案)を閣議決定し、国会に提出した。これはAIに特化した日本で初めての法案である。

日本におけるAI運用ルールについては、これまで、2024年4月に経済産業省・総務省が公表した 「AI事業者ガイドライン」に代表されるようなソフトローによるイノベーション促進を前提としてルール整備が進んできた。その方向性をさらに一歩進め、国のAI振興の役割を明記すると共に、国際水準のリスク対応推進を図ることがAI法案の第一の特徴といえる。そのポイントとしてまず注目したいのは、研究開発や施設の維持、人材育成、教育に至るまでの役割を、民間と共同で国が担うことが明記された点である。同様に、AI関連技術の基礎研究から実用化に至るまでの一貫した研究開発の推進や、技術を国の機関から民間に移転するための体制の整備、地方自治体や民間と協力したAI教育の推進など、AIによるイノベーション促進における国の役割が明示された。

国会に提出されたAI法案の概要

同法案は、6月22日までの第217回国会で審議中だが、人権侵害等に対しては指導による改善を求めるソフトローとなる見通しだ。

企業価値を向上するうえで、生成AIをはじめとするAIの活用は、企業にとって避けて通ることができない課題だ。だがその一方で、企業市民としてAIの台頭に伴う社会的なリスクについても正しく理解する必要がある。各国で整備が進むAI法は、リスクを理解し、対策を考えるうえでも大きな意味を持つに違いない。

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