最先端のメモリー技術がAIサーバーを支える

次に、AIデータセンターにおけるメモリー需要を掘り下げてみたい。既に触れたとおり、膨大なGPUをネットワークで結び、並列計算を行う際に問題になったのは、GPUの計算速度に見合ったデータ供給を行う仕組みの構築だった。メモリー側のI/O速度がGPUの処理のボトルネックになる状況を解消するうえで大きな役割を果たしたのが、複数のDRAMチップを垂直方向に積み重ねた次世代高性能メモリー「HBM(High Bandwidth Memory:広帯域幅メモリー)」だ。従来のワイヤーによるチップ結線に代わり、上下のチップを電極で接続する「シリコン貫通電極(TSV)」と呼ばれる新技術によって超高速データ転送を実現したことが、その特長である。今日、GPUパッケージにはHBMが直接統合され、メモリーアクセス時のレイテンシを最小限に抑えることでAIサーバーに求められる膨大なデータの超高速処理が実現されている。

HBMのイメージ

2026年7月時点でのHBMの最新規格は、2月に本格供給が始まった「HBM4」で、積層数は12~16層になる。バスインターフェイスが前世代の1,024ビットから2,048ビットに倍増し、帯域幅の大幅な拡大と電力効率の改善が図られている。次世代規格である「HBM5」の開発も進むが、AIデータセンターやスーパーコンピューターのニーズに応える飛躍的な処理能力向上と電力効率改善が期待される一方、高積層化に伴う深刻な発熱への対応が製品化の大きな課題になっている。

データ供給速度に関する課題を解消したHBMだが、積層化による発熱もあり、GPUパッケージに統合可能なメモリー容量には制約がある。そのためAIサーバーでは、HBMの補完を目的としてDDR5/LPDDR5X世代のDRAMも数多く搭載されていることが一般的だ。AIデータセンターや次世代PC向けに開発された最新メインメモリー規格であるDDR6世代の開発も本格的にスタートしている。DDR5の速度は4.8Gbpsからスタートし、8.8Gbpsまで引き上げられたが、DDR6は8.4Gbps程度から始まり、プロセスの成熟に伴って最大17.6Gbpsまで引き上げられる見通しだ。DDR6世代のDRAMは年内にもデータセンターへの納品が始まるとみられている。

一方、学習データの格納やKVキャッシュ運用を主な目的にするのが、電源を切ってもデータが消えない特長を持つ「NAND型フラッシュメモリー」である。HBM同様、NAND型フラッシュメモリーについても積層化が進み、最先端製品では300~400層のメモリーセル集積が実現されているが、その狙いは速さよりも大容量化にある。現在、1枚のSSDやデータカードでTBクラスの大容量が実現し、コスト削減や信頼性向上に大きな役割を果たしている。また、I/O速度に制約があるとはいえ、AIデータセンターにおけるHDD需要が失われたわけではない。超大容量・低速・低コストという性格は、膨大な学習データをデータレイクとして長期保存する際などに大きな役割を果たしている。

メモリー需給ひっ迫は2028年まで続く

ここでメモリー市場のプレーヤーを整理しておこう。HBM市場は韓国半導体大手SKハイニックスが首位を独走し、それをサムスン電子、マイクロン・テクノロジー(以下、マイクロン)が追う三つ巴の寡占化が進行中である。なお、マイクロンは2025年に一時出荷額でサムスン電子を逆転しているが、これは前世代の「HBM3E」の高評価によるもので、HBM4は量産化の開始が2026年後半からになるなど出遅れ感が否めない。

各社は現在、HBM4の生産能力増強に向けた投資を拡大しているが、髪の毛よりも薄い複数のDRAMチップを垂直に積み上げるHBM4の製造には、従来のDRAMの3、4倍の生産能力を必要とすることに加え、その技術的な難しさが歩留まりの低さにつながっている。こうした理由からAI需要の拡大に供給が追い付かない状況が続き、2026年の各社のHBM4の供給枠は年初には既に完売し、2030年までこの状況に変化はないと予測する報道も多い。

NAND型フラッシュメモリーはHBMと比べてプレーヤー数は多いが、韓国のサムスン電子、SKハイニックス、日本のキオクシア、米国のウエスタンデジタルとマイクロン、中国のYMTC(長江メモリー)による寡占化が進んでいる。AIデータセンター需要では縦方向にメモリーセルを積み上げる「3D NAND」が主流だが、積層数は数百層に及び、HBM同様、TSVの精度向上が大きな技術的課題になっている。

なお、NAND型フラッシュメモリーメーカーの中で、AI推論ニーズへの特化を最も明確に打ち出しているのがキオクシアである。フラッシュメモリー多層化の道を切り開いた「BiCS FLASH」に代表される技術力の高さが同社の強みであり、サンディスクの親会社であるウエスタンデジタルとの協業を進めている現在、両社を合わせたシェアは業界2位に相当する。YMTCは、中国・武漢に本拠を置く2016年設立の国有半導体メーカー。米国との対立を背景に中国政府の手厚い支援を受けてNAND型フラッシュメモリーの生産を急拡大し、コスト競争力を強みとしてキオクシアやマイクロンなどの競合を猛追するが、供給先はPCやスマートフォンなどの民生品市場が中心になっている。米国内市場への参入ハードルもあり、AIデータセンター需要にどこまで応えられるかは未知数と言える。中国政府の支援を背景にした設備増強というプラス材料があるものの、NAND型フラッシュメモリー不足は2027年まで続き、その解消はサムソン、SKハイニックス、キオクシア、マイクロンの新工場が稼働する2028年まで持ち越されるとみられている。

キオクシアの業績推移

安すぎたメモリー価格も高騰の要因に

最後に残るのが、AIデータセンターに特化したHBMや高積層NANDの需要がなぜ民生用メモリー価格の高騰につながったかという問題だ。その原因は、むしろこれまで民生用メモリー価格が安すぎたと考えることで理解できる。

装置産業である半導体産業には、生産設備増強と需要ピークのタイムラグが大きなジレンマとして存在する。設備投資後に需要が減速し、稼働率が低下すると一気に赤字に転落し、在庫の叩き売りにもつながる。半導体市場の景気変動は「シリコンサイクル」とも呼ばれ、これまでも3、4年周期で繰り返されてきた。2017年に東芝の半導体事業を分社化して設立されたキオクシアの決算書からも、シリコンサイクルの影響を明確に読み取ることができる。

半導体メーカーが利益率の高いAIデータセンター向けに生産リソースを振り向ける背景には、在庫増によって失われた価格決定力を回復する狙いもある。メモリー需給のひっ迫は各社新工場が稼働する2027~2028年まで続くと予想されている。波こそ高いものの、そのサイクルは3、4年というシリコンサイクルに収まる。AIデータセンター投資については、収益化に疑問を投げかける声も少なくない。景気変動に伴う、半導体価格の波はこれからも繰り返されると考えておくべきだろう。

前のページへ