PROFILE
嘉悦大学ビジネス創造学部 教授 株式会社政策工房 代表取締役会長 高橋 洋一 氏
1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。
1980年、大蔵省(現・財務省)入省。理財局資金企画室長、内閣府参事官、総務大臣補佐官、内閣参事官などを歴任。
2007年に財務省が隠す国民の富「霞ケ関埋蔵金」を公表。『さらば財務省!官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)で山本七平賞受賞。
リモートワークを中心とする“働き方”の変化や、“新しい生活様式”の定着によって、IT製品やソリューションのニーズも急速に様変わりしている。そうした変化の中で、どうすれば顧客のニーズにかなった提案が行えるのか。『コロナ大不況後、日本は必ず復活する』(宝島社)など多数の著書があり、自らも「リモートワーク中心の仕事と生活に完全に切り替わった」という経済学者で嘉悦大学教授の高橋洋一氏に、提案のヒントと、今後の日本経済の見通しについて聞いた。
対面に慣れ切った業種ほどオンライン化が進みにくい
在宅ワークからオフィス勤務に戻す企業が増える一方、高橋さんはテレワークを続けているそうですね。
高橋氏: 在宅中心のワークスタイルに切り替えて半年近くになりますが、まったく不便を感じません。むしろ、なるべく在宅で仕事を済ませたいので、講演や取材、打ち合わせなどは、「オンラインでできるんだったら、それでお願いします」と頼んでいます。この取材も、オンライン取材でしたので、お受けすることにしました(笑)。
大学での教鞭は、週に何日かは通わなければならなかったのですが、新型コロナウイルスの影響で講義がすべてオンラインに変更されたので、今年に入ってからは、大学にも一度も行っていません。それでも、
それでも在宅からオフィスワークへと“働き方”が元に戻っているのは何が原因なのでしょうか。
高橋氏:
いろいろな理由が考えられますが、
例えば、よくお受けする講演やセミナーなどの企画・運営会社は、講師を会場に招き、人を集めるというスタイルがありますが、それらをオンラインに置き換えるということに慣れていないようです。今では、リアルな講演やセミナーの代わりに、
Web会議システムなどを使って講演内容を配信する
この仕組みなら、講師も自宅にいながら講演やセミナーをできるはずなのに、多くの企画・運営会社は、その会社の会議室やスタジオわざわざ出向いてきてほしいと言う。同じことは、大学についても言えます。
そもそも大学教育は、教室に学生を集めて教えるというのが前提になっており、文部科学省による大学の設置認可でも、何人の定員に対して教室がいくつある、といったことが重要なポイントになっているほどです。
大学の先生たちも、対面を前提とした講義を行ってきた人が多いので、いきなりオンライン講義に変えてほしいといわれても、スライドの資料をいくつも用意して、それを見せながら話を進めるというスタイルにまったく慣れていません。
先生がそんな状況では、学生たちも学ぶのに苦労しそうですね。
高橋氏: ついでに言えば、新型コロナの感染拡大以降、大学の教授会もオンラインで行われるようになりましたが、先生の中にはPCやスマートフォンの操作に不慣れな人も多く、そうした人は、わざわざ大学に行って教授会に参加しています。こんな例は学校以外にもいくらでもあって、医療の分野でも、新型コロナの影響でようやく認められたオンライン診療がまったく進んでいませんよね。
“需要側”が本当に求めているものを提案する
大塚商会のビジネスパートナーの皆さんには、そうした業種にこそセールスチャンスが広がっているとも言えそうですね。
高橋氏:大切なのは、メーカーやディストリビューターといった“供給側”の論理ではなく、デバイスやサービスを利用する
例えば、リモートワークではWeb会議を頻繁に行うので、法人のお客さまに社員が在宅で使用するPCの大量導入を勧めるディストリビューターもいらっしゃると思います。
でも、
スマートフォンはそもそも“電話”なので、スピーカーとマイクは聞き取りやすく、話しやすいように基本設計されており、わざわざヘッドセットを使う必要がありません。
しかも、ほとんどのスマートフォンは、動画を高画質で視聴できるように設計されているので、
ほとんどの日本人は、すでにスマートフォンを持っているので、Web会議用にわざわざパソコンを導入する必要はありません。
“供給側”の論理ではなく、「真のニーズ」にかなった提案をすべきだということですね。
高橋氏:
例えば、スマートフォンでWeb会議に参加すると、PCよりも不便な点もあるわけです。何と言っても、資料は鮮明に見えるけれど、画面が小さいので、細かな文字は読みにくい。
これを解決するため、スマートフォンのほかにタブレット端末でも会議に参加し、資料はタブレットで見るようにしています。
このように、実際の利用シーンや困りごとなどに想像力を働かせれば、PCやヘッドセットを無理やり売り込むよりも、タブレットを勧めたほうがいいのではないかというユーザー視点の提案が浮かぶはずです。