PROFILE
感動ITビジネス講師/ドルフィア株式会社代表取締役
井下田 久幸 氏
1984年、青山学院大学卒業後、日本IBM株式会社に入社。以降、インフォテリア株式会社入社、インターネット・セキュリティ・システムズ株式会社、JBアドバンスト・テクノロジー株式会社など、IT業界一筋30年、SEからマーケティング、営業と幅広く経験を積む。現在は、ドルフィア株式会社の代表取締役として、経営や人財開発にも精通、また、世の中の流れやITの動向を踏まえながら、難しいITを分かりやすく、役に立つ情報として伝えるなど多方面で活躍中。
2025年、日本は4人に1人が後期高齢者となる。高齢化社会の最先端を走る日本の課題を解決する方法はあるのだろうか。感動ITビジネス講師として、難しいITを分かりやすく、役に立つ情報として伝える講演を全国各地で行うドルフィア株式会社 代表取締役の井下田久幸氏に超高齢化社会で生き残るためのヒントを聞いた。
現代のITを活用する勝利の方程式とは?
日本社会が抱える大きな課題として、超高齢化社会が迫っています。今後、ますます人手不足が深刻になる中で、中堅中小企業の皆様の経営課題をどのように解決すべきかのご意見をいただけないでしょうか。
井下田 久幸氏(以下、井下田氏):おっしゃるように日本は少子高齢化社会となり、しかも世界の最先端を走っています。日本の使命としては、これから各国が少子高齢化の波を迎えるにあたってどう乗り越えていくべきかを示すことだと思います。20世紀、日本の人口は増える一方でした。たくさんの需要が見込めたので、物を作れば作るほど売れました。また、この時代は欲しいものが分かりやすかったともいえます。例えば「家が欲しい」、「テレビが欲しい」、「車が欲しい」など、同じものを手に入れることがステータスでした。この時代のビジネスにおける勝利の方程式は、効率化を支援するITの使い方だったように思います。大量生産により、原価を下げて利益を上げるような仕組みです。
ところが、21世紀に入ると日本の人口は減少し始めます。高齢化社会を迎えて大きく変わったのは、作っても作っても売れない時代の到来です。当然、同じやり方で、ITを活用しても売り上げは増えません。同じものが同じような価格で大量にあふれている。その中で買ってもらうためには、何らかの価値が必要です。その価値を提案しないと生き残ることが難しい時代です。
今の世の中では、自分だけのオリジナルが好まれています。ですが、現代は情報過多の時代です。自分がどの情報を選んでいいか分からない。だから、誰かに選んで欲しいといった矛盾したことも現象として起きています。世の中が裕福になって、自分自身で何が欲しいかすら分かっていない。ニーズが見えなくなって、いわゆる潜在ニーズがビジネスチャンスとなる時代でもあります。本人も気づいていない需要を、ITの力を使って気づかせることがすごく大事だと思いますね。
求められる真のDXは、意識の改革で実現する
ITの活用の観点では、拡大再生産でうるおっていた昭和時代の感覚がまだまだ残っていると思います。今後、どのような意識改革が必要でしょうか。
井下田氏:これまでのITの活用方法は、POS(Point Of Sales)に代表されるように、誰が何を買ったかというデータの蓄積です。そのデータベースから需要予測を行うのですが、このデータからは、なぜ買わなかったかという理由はわからないんですね。例えば、あるお客様がパチンコ店に入ったとします。その方はAという台が好きでしたが、Aの台は混んでいて遊べません。仕方なく、Bの台で1時間ほど遊びました。そろそろAの台が空いたかなと思ってAの台を確認しても、まだAの台は空いていません。そのためCの台で30分遊んで帰りました。今までのITシステムだと、お客様は、Bの台で1時間遊んだあと、Cの台で30分遊んだ、という情報がデータベースに蓄積されます。このデータからの需要予測では、このお客様はBの台を好んでいるということで、Bの増設という計画が提案されます。ところが、お客様はAの台が好きなんです。それを知るために必要なデータは、その人がどう動いてAの台の周辺を歩いたかという情報が必要なのですね。
これからは「今までのITでは見えなかったデータを蓄積しないと、本当の需要は見えてこない」という理解が必要です。潜在需要が大事だと理解できていても必要なデータが足りないと、正しい結論を出せません。例えば、欲しいデータが入っていない、もしくはデータの精度が低いという場合です。なぜそうなるのかというと、今までは手作業でデジタルデータを入力していたからです。
今までのITというのは、入力した後のプロセスだったり、アウトプットの進化の歴史でした。入力については、あまり重要視されていなく、人力で入力するがゆえにボトルネックになっていました。これからは革新を起こすとしたら、入力方法から変える必要があります。例えば、センサー技術をうまく使って、手入力だけでなく機械による自動化を進めてどんどんデジタル化するような仕組みが必要です。その発想に至るには、業務を変える必要があると思います。経営者を含めて業務のあり方を抜本的に経営戦略から変えて、そこにツールとしてITを使う。それが真のDX化で、それをやることによって、潜在ニーズに気づける業務フローが実現するのだと思います。
社会が変わっていくにつれて、必要とされる人材にも変化があるのでしょうか。
井下田氏:これからのビジネスは、優秀なトップの言った通りに大量生産すれば売れる時代ではなくなりました。変化が激しく、激流の中で消費者が気づいていない潜在ニーズを見つけなくてはいけません。このような時代に求められる人材というのは、いかに能動的であるかどうかです。これまでは指示されたことを丁寧に実践する社員が優秀とされてきました。これからは、指示を待つのではなく、能動的に活動して自分で仕事を見つけられる人材が必要とされると思います。ところが、日本の教育システムは、まだ追いつけていない印象があります。それが日本の生産性の遅れに影響しているのだと思います。
では、どのような人材であれば生産性が高く、離職率が低いのでしょうか。それを見分けるためにはどうしたら良いのでしょうか。
井下田氏:この答えはある企業の調査文献にありました。5万人の人事データベースをビッグデータ分析をすることで、相関関係を見つけ出すという調査がある企業で行われていました。
例えば、学歴で差があるのか、もしくは持っている能力に傾向があるのか、または性格なのか、などです。このようにいろいろな切り口で、何か相関関係が出ないかと探したのですが、一通りやってもなかなか結果が出ません。ところが、ある一つだけ顕著な優位性のある相関関係を見つけたのですが、その答えは非常に奇妙なものでした。
そのキーワードとは「Webブラウザー」です。これを聞いてもまずは、何も理解できないと思います。その文献によると、IE(InternetExplorer:インターネットエクスプローラー)やSafari(サファリ)を使っている従業員よりも、GoogleChromeやFirefoxを使っている従業員の方が生産性は明らかに高く、離職率も低いという、明確な差があったそうです。これはどういうことかというと、IEやSafariは、PCやスマホを買うと導入されているWebブラウザーです。それに対してGoogle ChromeやFirefoxは自分で探して、ダウンロードしてインストールしないと使えません。
つまり、そのWebブラウザーの機能的な優位性ではなく、その裏側にある人間の真理が重要なのです。与えられたものをそのまま信じて、その通りに行動する人材なのか、世の中にはもっと良いものがあるかもしれないと「自分で最適解を模索する能動的な人材かどうか」、それが重要だったようです。確かにこれは自分の実体験でもすごく合致します。「能動的であるかどうか」これからすごく大事なのだと思っています。
少子高齢化社会を生き残る方法とは?
少子高齢化社会というのは、ネガティブな印象が強いイメージがあります。これからのビジネスについて、パートナー企業の中堅中小の経営者の方に向けて、元気が出るようなお話をいただけませんでしょうか。
井下田氏:確かに、少子高齢化社会は、働き手が不足することや事業承継の問題など、行き先に不安があると思います。ただ、これまでの日本の在り方を見ていると、状況に合わせた社会の仕組み、例えば、互助関係のような仕組みを、うまく構築できていたような気がします。4人に1人が後期高齢者の時代になっても相互に助け合ってうまく機能するような仕組みができたら良いと日頃から思っています。
そういう社会の中でもITにしかできないことがあると思いますし、そこに新しいビジネスの種があると思います。日本では、先人たちの努力の結果、欲しいものは何でも手に入る社会が実現しました。ところが現代社会は、消費者は何が欲しいかもわからない時代です。だからこそ潜在ニーズの見える化がすごく大事な時代なのだ思います。
よく言われることですが、物より「こと」を買う時代が来ていると思います。日本は、そこがすごく得意だなと思っていまして、いわゆるホスピタリティの高い民族性があります。「こと」の売り方に長けているのが日本人じゃないかな、という気がするんです。これからも物は消費されます。物を買う時の選択として、安さや機能よりも買うことに意義を感じたり、物に付随するストーリーを買ったり、思い出と一緒に買う、感動を買うといった時代が来ています。
日本にはいわゆる「三方良し」※のような文化があって、これがこれからの世界に求められると思います。「三方良し」や、人間の感情をくすぐるところにITの力を使う。この分野において、日本人は発想力が豊かだと思います。超高齢化社会に悲観するのではなく、ITの力を活用しながら、日本人ならではの互助関係の構築やホスピタリティを磨くことで、より良い社会を築けるのではないかと期待しています。
※「三方良し」とは:「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」のこと。売り手の都合だけで商いをするのではなく、買い手が心の底から満足し、さらに商いを通じて地域社会の発展や福利の増進に貢献できるのがよい商売であるという、近江商人(江州商人)の心得を表した言葉。
超高齢化社会に悲観するのではなく、ITの力を活用しながら、
日本人ならではの互助関係の構築やホスピタリティを磨く