【連載】

ITトレンド解説「インダストリー5.0」(1)

スマートで効率的な未来を目指す「インダストリー5.0」とは

掲載日:2021/10/26

スマートで効率的な未来を目指す「インダストリー5.0」とは

今、製造業を中心に「インダストリー5.0(Industry 5.0)」という新しいコンセプトが注目されている。これは、高度なオートメーションと人とが協働することで、よりスマートで効率的な未来の工場を実現させる、というものだ。本連載では、我々のビジネスにも影響し得るインダストリー5.0について解説する。

インダストリー4.0の一歩先へ

インダストリー 5.0を理解するためには、まずベースであるインダストリー4.0を知る必要がある。2011年にドイツ政府が発表した国家戦略であるインダストリー4.0は、製造プロセスにデジタルテクノロジーを取り入れることで、生産の自動化や自律化を目指した。

このインダストリー4.0の中核となるコンセプトとして「スマートファクトリー(考える工場)」が挙げられる。スマートファクトリーは、IoT機器や情報システムといった設備をネットワークに接続し、それらから得られるビッグデータとAI(人工知能)やML(機械学習)などを組み合わせて、あたかも工場自体が自律的に考えているような高度なオートメーションを実現する、というものだ。

作業の再現性や一貫性が非常に高いスマートファクトリーは、同じ製品(あるいは似た製品)を効率よく生産するのに適している。また「マスカスタマイゼーション」と呼ばれる大量生産(マスプロダクション)と受注生産(カスタマイゼーション)との両方を柔軟にコントロールする仕組みの実現に取り組む企業も多かったが、少量多品種短納期での製品提供、多様なカスタマイズや高度なパーソナライズへの対応などは、やはり人の創造力・想像力・応用力などの能力が不可欠だ、という結論に行き着いたのだ。

そんなインダストリー4.0を一歩進めたのが、インダストリー5.0だ。高度なオートメーションと人を協働させることで、洗練された製品開発・市場のニーズに即応できる超短納期の製造・多様で高度なカスタマイズやパーソナライズなどの実現を目指している。

インダストリー5.0の実現イメージ

人と機械の協働を目指すインダストリー5.0には、製品企画や設計といった上流工程だけでなく、人と機械が同じ製造ラインで一緒に働く、ということも含まれている。しかし機械で高度に自動化された製造ラインでは、人の安全性を確保するためにロボットが隔離されたエリアで稼働していることが多い。そこで注目されているのが「コボット」と呼ばれる次世代型の軽量型協働ロボットだ。

コボットは製造ラインで働く人の存在や動作を検知して、一緒に製品を組み立てる・重い材料を運ぶ・ほかのロボットとの間を取り持つなど、さまざまな役割を持っている。小型で高速に動く、柔軟なコボットの導入はインダストリー5.0の発展に不可欠であることから、近年コボット市場は急速に拡大しており、産業機械メーカーが次々と参入している。

製造業以外でも期待できる、新しいビジネスチャンス

インダストリー5.0は、製造業以外にもさまざまな影響を与えるだろう。例えばインターネットからカスタマイズ可能な製品をオーダーした翌日に届けるサービスを実現した場合、製品を販売する小売業や製造した製品を利用するサービス業、そして物流にも影響を与えることになる。

さらに、工場に導入されるIoT機器やネットワーク機器、仮想現実(VR:Virtual Reality)や拡張現実(AR:Augmented Reality)を実現するゴーグルなどのデバイスに関連する企業、それらの企業に資材を納品する半導体メーカーなど、ハイテク分野の企業にとってもチャンスとなることが考えられる。

もちろん情報分析基盤を提供するクラウドサービスプロバイダーや、エッジコンピューティングやストレージを提供するITベンダーも無関係ではない。市場動向を注意深く観察し、新たに生まれたビジネスチャンスにいち早く対応できるよう普段から情報収集を心掛けることが重要だ。