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遠隔医療最前線

掲載日:2021/01/12

遠隔医療最前線

コロナ禍で遠隔医療に注目が集まっている。多くの患者が病院に押し寄せると医療機関が逼迫するうえに、病院でクラスターが発生しかねない。基礎疾患のある人は、病院で新型コロナウイルスに感染する可能性も高く、持病や軽症での通院は避けたいだろう。そんな課題を打破し、さらには高齢化社会への対策としても期待される遠隔医療の最前線を見ていく。

対患者だけではない遠隔医療

遠隔医療は、もともと医師不足の過疎地向けに始まった施策だ。2008年には「遠隔医療の推進方策に関する懇談会」により、ICTを活用した遠隔医療の推進が発表されている。

遠隔医療には大きく分けて2つある。1つはDtoD(Doctor to Doctor)、もう1つはDtoP(Doctor to Patient)だ。

DtoD:医師対医師。当直医の少ない病院などで、他の専門医のアドバイスを受けながら診療・治療を行ったり、CTなどのデジタルデータを遠隔の医師に共有して読影を依頼したりする。

DtoP(医師対患者):PCやスマートフォン、タブレットを用いて、医師が患者を診療したり、受診勧奨、遠隔健康医療相談に応じたりする。

なお、オンラインで服薬指導を行い、薬を配送する「遠隔服薬指導」も2020年2月に厚生労働省から認可されている。

遠隔医療と広く認識されている「オンライン診療」もDoPの一つである。次に、オンライン診療についてさらに解説していく。

オンライン診療の現状

厚生労働省は「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で、オンライン診療を次のように定義している。「遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」

つまり、オンライン診療では、ビデオ(テレビ電話)での診察が主とされ、文字・写真・録画動画のみでのやりとりで完結してはならないことになっている。

そのため原則としてオンライン診療ツールを使用するか、ビデオ会議システムなどを用いる必要があるのだが、新型コロナが拡大している状況を踏まえ、2021年1月現在、時限的に電話診療も認められている。また、オンライン診療の適用は再診のみだったが、特例として初診も行ってよいこととされている。

オンライン診療について厚労省の行った調査では、2020年6月の初診で電話診療3,536件、オンライン診療1,659件、不明566件となっており、オンライン診療が定着しているとはいいがたい。(出典:厚生労働省「令和2年4月~6月の電話診療・オンライン診療の実績の検証について」)

しかしながら、オンライン診療ツールは着実に導入数を伸ばしており、代表的なツールを見ると、「curon(クロン)」は2019年12月から現在にかけて導入医療機関数が約2.6倍に増え、「CLINICS(クリニクス)」は2020年2月から4月にかけて新規登録患者数が9倍以上に伸びたという。

時限的としていたオンラインでの初診適用の恒久化も検討されており、今後は電話からオンラインに移行していく医療機関も増えていくとみられる。

まだオンライン診療に踏み切っていない医療機関は、その原因として診療報酬が安いこと、初診をオンラインで行うことの難しさ、ハードなど機器がそろっていないことを挙げるようだ。

診療報酬や診察については解決が難しいが、機器の面では医療機関に提案できる場となる。
医療関係者はITのプロフェッショナルではないうえ、特に小さな診療所ではシステム担当がいるわけでもない。オンライン診療でどんな機器が必要か、何があればよりよい診察につながるのか、見極めていきたい。

オンライン診療に勧めたいツール

厚労省は、オンライン診療で最低限厳守する事項として、音声が聞き取れない/ネットワークが不安定であり動画が途切れる等がないことを挙げている。ネットワーク環境や、ICT機器の精度も求められているといえる。

患者側は、手持ちのスマートフォンにアプリをインストールして使うのみだろうが、医療機関側ではさらに環境を整える必要も出てくるだろう。ここでおすすめのアイテムを紹介しよう。

その1 ヘッドセット

患者の声をきちんと聞くためには、雑音が入らないようにヘッドセットを使うことを勧めたい。

ノイズキャンセリングの付いたタイプなら、よりクリアに患者の声を聞き取れる。

その2 Webカメラ

PC付属のカメラを使用すると、受診する際に、患者は医師から見下ろされている印象になる。適切な位置に医師の視線がくるように、Webカメラも別途設置したほうがいいだろう。

その3 タブレット・スマートフォンスタンド

医師側がタブレットやスマートフォンを用いて診療を行う場合は、スタンドも必須となってくる。セキュリティ付きタイプなら、タブレット・スマートフォンの盗難防止にも有効だ。

また、オンライン診療で懸念されていることに、個人情報保護とネットワークのセキュリティがある。個人情報保護については、各医療機関によるものも大きいが、セキュリティについてはパートナー様がアドバイスできることも少なくないはずだ。

オンライン診療の今後

コロナ禍はいずれおさまるだろうが、オンライン診療はまだこれから需要は延びていくとみられる。1947~49年生まれのいわゆる団塊の世代が後期高齢者となる2025年問題。地方によっては医師不足が深刻になり、オンライン診療のメリットが生きてくる。

その頃には、デジタル機器への抵抗がなくなる人も増え、導入が今より手軽になることも期待できる。

対面医療がなくなるわけではないが、持病での定期的な通院等がなくなれば、医療機関、患者双方にとって負担が減る。

兵庫県養父市では、2020年冬、自宅でインフルエンザの検査ができる「自宅完結型インフルエンザオンライン診療」の市民モニターを募り、実証事業が行われる。また、愛知県蒲郡市では、診療・服薬・決済をオンラインで行う実証実験が実施されている。

自治体単位での実験が実を結べば、さらなるオンライン診療への道が開けていくだろう。