サービス業

外食ビジネスにおけるコロナ禍のIT活用を考える

掲載日:2021/02/09

外食ビジネスにおけるコロナ禍のIT活用を考える

新型コロナウイルスの流行により、全国的に「新しい生活様式」が広まっている。一方で、感染拡大を防ぐため、さまざまな社会情勢が変化した結果、外食ビジネスは大きな困難にぶつかることになった。そんな非常に苦しい状況の外食ビジネスに向け、ITの活用による新たな解決法を提案する。

外食ビジネスの現状

コロナ禍において、ステイホームの徹底や「3密」の回避は社会的な常識となった。全国的にテレワークの導入が勧められ、不要不急の外出を控えることも推奨されている。そのため、外食ビジネスにとっては来店客の絶対数が減り、大きな打撃となってしまった。さらに、2021年1月には2度目となる緊急事態宣言が発令され、一都三県の飲食店の営業時間短縮が改めて求められている。

一般社団法人日本フードサービス協会の調査によると、全国的に緊急事態宣言が発出されていた2020年5月は、1世帯あたりの実質外食支出が前年同月比に比べ59.6%減少している。また、同調査によると、同時期の外食ビジネス売上高は前年同月比で32.2%減少したという。このことからも、一般的に外食する機会・金額が減ったことが、外食ビジネスの売上高減少につながっているといえる。

また、感染拡大が進む地域においては、夜間のアルコール提供自粛・営業時間の短縮なども求められている。前述の調査によると、2020年5月の外食ビジネス売上高を業態別に見た場合、パブ・居酒屋が前年同月比で90%減少している。他業態に比べ減少率は群を抜いており、アルコールの提供と夜間の営業が主体の店舗にとっては極めて苦しい状況といえよう。

また、外食ビジネスの動向を専門的に取り扱うリサーチ会社の調査によると、飲食店利用者の多くが店舗における感染予防対策に気を配っているとのことだ。飲食店を選ぶ際の注意事項として、「席の間隔が開いているか」「きちんと換気がされているか」等の項目が上位を占めており、感染予防対策の優れた店舗に需要が高まっていることが分かる。

DXで感染予防と業務改善を両立

現状はコロナ禍が劇的に改善されない限り上向くこともなく、外食ビジネスにおいては今後も苦しい状態が続くことが予想される。そこで注目されているのが、外食ビジネスのDXだ。最新のIT機器を導入してデジタル化を進めることで、コロナ禍における重要課題を満たしつつ、直面した諸問題を解決に近づけることが可能になる。代表される例を見ていこう。

キャッシュレス化で接触を減らす

紙幣や硬貨を受け渡す接触型の決済は、顧客と店員が現金を手渡しする必要がある。そのため、現金に付着したウイルスにより感染拡大を引き起こす恐れがある。そこで、注目されているのはクレジットカードや電子マネーを用いたキャッシュレス決済だ。

近年コンビニエンスストア等では、会計の際に読み取り機に顧客が直接クレジットカードを通すタイプのレジスターの導入が進んでいる。顧客から直接手渡された現金やクレジットカードを店員が受け取る必要がないため、物理的な接触を防ぐことが可能だ。当然、ICカードやスマホをかざすだけで決済ができる電子マネーやコード決済の読み取りに対応することで、より大きな効果が期待できる。

セルフオーダーとロボットで飛沫拡散を防止

飲食店においては、セルフオーダーを導入することで、店員と顧客の接触を減らすことが可能だ。セルフオーダーとは、タブレット端末や座席に備え付けたタッチパネルなどから顧客が直接必要な品を選んで注文する方式。店員が口頭で注文を受ける必要がないため、飛沫拡散を防止できる。また、フロア担当者としてロボットを導入することも同様の理由で注目されている。

これらの対策は、感染拡大の防止だけではなく、フロア担当者の人件費削減や、注文のスピードアップという点でも魅力的だ。

スムーズな体温チェックでトラブルを未然に防ぐ

新型コロナウイルスの特徴として、感染者の体温上昇が挙げられる。そのため、飲食店内での感染拡大を防ぐ意味でも、入店前の検温は大きな効果がある。一方、来客に体温計を貸し出して検温してもらうのは時間的にもコスト的にも困難だ。

そこで、店舗入口にサーマルカメラとサイネージを組み合わせた機器を配置してはどうだろうか。スピーディーかつ簡便な検温が可能になる。数秒間で体表面温度を計測するサーマルカメラの測定結果をサイネージに表示することで、どんな来客にも分かりやすく客観的な情報を提示し、場合によっては入店を断ることで感染防止対策ができる。

実績から見るDXの成功例

実際にこれらのIT活用を推し進めた結果、感染症対策を果たしつつ業績の回復につなげた例を紹介する。

例えば、飲食店を経営するA社では、2020年6月から店舗にセルフオーダーを導入した。結果、店員と顧客の接触を減らすことはもちろん、売上面でも好成績を伸ばしたという。これは、セルフオーダーを導入したことにより、顧客が店員に注文するために必要だった時間を飲食に費やすようになったためだ。結果的に6月の月商が昨年同月比でプラスになったという。

また、経済産業省委託の社団法人キャッシュレス推進協議会が2020年6月に発表した調査によると、キャッシュレス決済を導入した事業者のうち40.1%が「非常に効果があった」「効果があった」と回答している。さらに、同調査によると、消費者の83.8%がキャッシュレス推進協議会のポイント還元事業終了後もキャッシュレス決済を利用したいと回答している。そのため、飲食店利用者の多くがキャッシュレス決済を利用可能な店舗を求めていると考えられる。

コロナ禍においても、顧客が飲食店を利用したいと思う気持ちは失われていない。安心安全な環境づくりを心がけ、来店の機会を逃さないように準備することが、現状打開の糸口となるだろう。