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ECの次のステージ「OMO」とは?

掲載日:2021/02/22

ECの次のステージ「OMO」とは?

「オンラインとオフラインの融合」という意味を持つ新たなマーケティング概念が誕生したのは、スマートフォン決済によるキャッシュレス社会がいち早く実現した中国でのことだった。スマホ決済が一般化したことで、日本においてもその注目度は急上昇している。また、OMO とAIを組み合わせることで、サービスの最適解を効率よく求められるようにもなる。

OMO(Online Merges with Offline)とは?

OMOはOnline Merges with Offlineの略語。直訳すると、オンラインとオフラインの融合という意味を持つマーケティング概念である。

これまで企業のマーケティングでは、オンラインとオフラインは分けて考えることが一般的だった。こうした状況を大きく変えるきっかけとなったのが、スマートフォンを基盤にした決済手段の急速な普及だ。それによりオフラインの消費行動をデータとして把握し、オンラインの消費行動と共に一つのIDに紐づけて管理できるようになったことが理由である。

一人一人のユーザーにひも付けられた多様な情報を分析し、その消費行動や好みなどを理解し、より良い顧客体験を提供するOMOは、こうしたITの進歩を背景に成立したマーケティング概念ということができる。

早くからスマホ決済が浸透し、公共料金の支払いや交通機関、一般商店、さらには屋台の支払いまでスマホ一つあれば決済できる中国市場でOMOの概念が生まれたこともこうした事情が深く関係している。

OMOの提唱者は、元GoogleチャイナCEOでもある台湾出身のベンチャー投資家、李 開復(リ・カイフ)。2017年12月の英経済誌「The Economist」の年末特集号に寄稿したコラムで、シェアリング自転車やタクシー配車、デリバリーフードなど、当時、中国で現れはじめていたオンラインとオフラインの融合に関する新たな動きを「OMO」という言葉で定義したことで広く知られることになった。そしてQRコード決済をはじめとするモバイル決済が広く普及した今、その基盤は、日本を含め世界に広がっている。

O2O(Online to Offline)からOMOへ

OMOに似た言葉にO2Oやオムニチャネルがある。それらとOMOの違いを整理しておこう。O2OはOnline to Offlineの略語。日本語では「オンラインからオフラインへ」で、その言葉通り、オンライン施策を通して顧客をリアル店舗に誘導する、またはその逆の施策が基本的な考え方になる。

例えば、リアル店舗で使用できる割引クーポンをECサイトのユーザーに発行したり、入荷情報やセール情報をSNS等で発信するなどの施策が挙げられる。ここからも分かるように、O2Oの目的はあくまでも店舗への誘導であり、そこにはオンライン・オフラインの垣根を超えた顧客体験の実現という視点は含まれない。

オムニチャネルは、店舗やECサイト、通販カタログやコールセンターなど、あらゆる販売・流通チャネルをシームレスに融合することで、多様な顧客との接点を確保することがその基本的な考え方だ。

百貨店のECサイトで購入した商品がコンビニエンスストアで受け取れるサービスが分かりやすい。会員IDや在庫情報を一元管理することで、消費者にとっては購買チャネルを意識することなく商品を購入し受け取れるという利便性があるが、O2Oと同様垣根を超えた顧客体験の実現という観点はそこには含まれない。

OMOとO2O、オムニチャネルの違いを一口でいうなら、OMOは企業目線ではなく、顧客目線でより良い顧客体験を提供する取り組みであると位置づけることができる。

「アフターデジタル」とAIの活用に注目

OMOが実現するより良い顧客体験とはどのようなものなのだろうか? 李氏がOMO概念を提唱した記事では、シェアリング自転車のビジネスモデルが紹介された。同様のサービスは日本でも普及が進んでいるが、サービスの可能性はそれだけにとどまらない。

OMO発生の前提として、いくつかの条件が必要なようだ。李氏が挙げるのは以下の4条件だ。

1.モバイルネットワークの普及
2.モバイル決済浸透率の上昇
3.多様な高品質なセンサーが安価で入手可能かつ遍在していること
4.自動化されたロボット、AIの普及

これら四つの条件が満たされることで、「リアルチャネルであってもオンラインで常時接続し、その場でデータが処理されてインタラクションすることが可能になるため、オンラインとオフラインの境界は曖昧になり、融合していく」と李氏は説明する。

1と2はともかく、3と4については多少補足が必要だろう。3については幅広い種類のセンサーが遍在することで、現実世界の動作をリアルタイムでデジタル化し、活用することが可能になると李氏は指摘する。

また個別化されたニーズにきめ細かく応えるうえでは、4のAIを活用した物流(サプライチェーンプロセス)自動化をはじめとする省力化が重要な意味を持つ。

こうした中、特に注目したいのがOMOにおけるAIの意義だ。これまで消費分析におけるAI活用はPCやスマホを介して収集されるデータに限られていた。しかしIoTの普及や画像認識技術の向上は、こうした前提を大きく変えていくと考えられる。

極論すれば、飲食や買い物だけでなく、「誰がいつ、どこで、何を行ったか」まで追尾することまで可能になるからだ。それによるオンライン・オフライン融合の意義はマーケティングだけにとどまらない。

その一例が、製造業における意義である。ものづくりの現場では今日、ノウハウの伝承が重要な課題になっている。しかし、各種センサーとAIを組み合わせることでこれまでマニュアル化が困難だったノウハウをデータ化し把握、伝承することも可能になる。

もちろん小売業において、顧客の行動や嗜好に基づいたよりきめ細かな施策が行えることも重要なポイントだ。

OMOと日本人の意外な相性

世界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、GAFAM(ガーファム:Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの頭文字を取った略語)に代表されるグローバル企業がイニシアチブを取った。その挽回にOMOが大きな意味を持つと指摘する声が多い。

オンラインとオフラインを融合し、有意な体験を顧客に提供するには、きめ細かな心配りが求められる。判断はAIが行うにせよ、その仕組みの構築にはまだまだ人間の力が必要になる。「おもてなし」に代表されるきめ細かな心配りは、まさに日本人が得意としてきたところだ。

GAFAMが整地した後の農地に、何を植え育てていくかという話に例えると理解しやすい。製造業におけるノウハウ移転も含め、OMOの可能性にはぜひ注目していきたい。