製造業

設計の可能性を広げる
「ジェネレーティブデザイン」とは

掲載日:2021/03/16

設計の可能性を広げる「ジェネレーティブデザイン」とは

現在、PC上で製品をデザインする作業は製造業では一般的なものとなっており、3Dデザインやモデリング、電子設計などをデジタル環境でこなすケースは非常に多い。一方で、製造業の設計においては専門的な知識や高度な技術が求められることも多く、人材育成の点で課題が残っている。そのような課題を解決する、「ジェネレーティブデザイン」を紹介しよう。

AI搭載のデザイン提案機能「ジェネレーティブデザイン」

ジェネレーティブデザインとは、Autodesk(オートデスク)社が提供している3D CAD/CAM/CAEソフト「FUSION 360」に2018年末から追加された機能である。ソフトウェア内にAIが搭載されており、自動的に設計を補佐してくれることが特長だ。

設計目標や機能、材料、製造方法などを入力すると、AIがそれぞれを加味して最適な設計案を数百パターン解析してくれる。設計者は、この数百パターンもの設計案の中から最も適したものを選び、さらに細部の設計に進むことが可能だ。あらかじめ何パターンかの雛形を自動生成してくれるため、設計者がそれらを見比べつつ最適なものを選択することができる。

ジェネレーティブデザインのメリット

ジェネレーティブデザイン最大のメリットは、設計作業に必要な時間を大幅に削減してくれる点だ。AIが自動的に雛形を生成してくれるため、作業を開始してすぐに大まかな設計の方向性を決めることができる。また、ジェネレーティブデザインは素材や製造方法まで考慮して解析してくれるため、これらの条件を個別に計算する必要がなく、手間の削減とともに人的ミスの防止にもつながる。

さらに、最終的な完成までの期間を入力することにより、設計日程も自動的に計算し、提案してくれる。これらの提案機能により、人間だけが考えるよりも効率的な設計が実現できるというわけだ。

もちろん、自動で生成される雛形を参考にすることで、初心者でも簡単に設計ができるというメリットもある。ある程度の経験や技術がなければ発想できない部分もAIが作ってくれるため、手が出しづらい未経験の素材や複雑な構造にも比較的容易にチャレンジできる。

これらの機能では、主に「トポロジー最適化」という手法が生かされている。トポロジー最適化とは、AIが必要なデータをもとに設計したい空間にどのように材料を配置すれば最適な構造になるのかを提案してくれる手法だ。具体的には、製品の利用シーンで想定される条件をもとに、シミュレーションを繰り返すことで効率的な解探索を行っている。

必要な条件を満たすデザインを機械的に解析するため、条件を満たしつつ人間が想像できない斬新な雛形を生み出してくれる。そのため、「従来の設計手段にないデザイン」かつ「設計者の経験にないデザイン」を、機能的に問題なく無駄を省いた状態で生成できる。初心者にとっては入門のお供になり、高度な技術者にとってはより発展的なデザインの手助けになるのだ。

なお、ジェネレーティブデザインを利用する際は、クラウドクレジットの消費が必要である。クラウドクレジットとは、先払い式で購入できる専用の利用料金だ。ジェネレーティブデザインで生成する雛形の複雑さに応じてクラウドクレジットの消費量が変化する。ただし、FUSION 360では解析の前に必要となるクラウドクレジットの量を計算してくれるため、利用後に想定以上の出費が発生しないこともメリットだ。

事例で見るジェネレーティブデザインの活用方法

実際にジェネレーティブデザインが活用されている事例は多岐に及ぶ。例えば、自動車業界においてはコンポーネントの軽量化や、パーツの一体化といった分野でこの機能で生成されたデザインが採用されている。AIが算出した無駄のない設計が、シンプルで機能的なデザインを生み出す助けになっているようだ。

また、とある電気機器メーカーでは、高性能な卓球ロボットを製作した際にジェネレーティブデザインを生かしてパーツを解析したという。ジェネレーティブデザインが解析した設計は製作者の想定するものとは大きく異なったものであったため、当初はその突飛さに驚いた人もいたそうだ。しかし、実際にそのデザインで製造した所、問題なくロボットで利用可能だったうえ、製作者がアート性すら感じる美しさまであったというから驚きだ。

実際、ここ1、2年にジェネレーティブデザインを活用した企業が生産した製品は、アート性の高いものが多い。例えば、細い構造物を組み合わせてシャーシを設計した自動車の模型や、複雑にパーツが重なり合う外装のドローンなどは目を引く美しさがある。これは、ジェネレーティブデザインが必要最低限の素材で十分に性能を担保するデザインを解析できるためである。家具や靴、建築物といった、機能性と見た目の両立が求められる分野においてもジェネレーティブデザインはアート性を誇っており、高い汎用性を発揮している。

魅力的な製品を作る際は、機能性を高めることはもちろん、デザインの美しさも重要だ。優秀なプロダクトデザインを生み出す際は、高い専門性と独自の美的センスを持つデザイナーが必要だが、こういった人材はなかなか巡り会えない。そんな時、ジェネレーティブデザインを活用すれば優れた製品を目指せる。

このように幅広い可能性にあふれるジェネレーティブデザインだが、今後のアップデートによっては、より便利でより独創的な方向の雛形を生成できるようになることが予想されている。将来的なアプローチの多様化を期待しつつ、製品提案の足掛かりとして存分に利用していこう。