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アフターGIGAにおけるICT活用の展望

掲載日:2021/03/16

アフターGIGAにおけるICT活用の展望

新型コロナウイルスの感染拡大により社会構造が大きく変化しているが、未だICT化が進んでいない業種・分野もあり、多くの企業が新しい就労様式を模索している。その一方で、教育分野ではすでに電子化が大きく進み、コロナ後の時代を見据えた取り組みが加速している。「GIGAスクール構想」を経て、「アフターGIGA」へのアプローチを進める教育現場の現状はどんな姿なのだろうか。

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GIGAスクール構想の現状

GIGAスクール構想とは、「Global and Innovation Gateway for All」の略で、「全ての児童生徒に世界と改革への入り口を提供する」という意味だ。このプロジェクトを実現するため、文部科学省は1人1台端末の学習者用PCと高速ネットワーク環境などを整備する5カ年計画を進めている。

2018年からスタートしたGIGAスクール構想だが、実際に計画を進めるうえではさまざまな問題が発生し、スムーズな導入ができない点も目立った。しかし、2020年に新型コロナウイルスが感染拡大したことにより状況は大きく変化。在宅学習という文化が急速に浸透したことにより、大幅に機材や環境の整備が推進している。

さらに文部科学省は、当初はGIGAスクール構想の実現を2023年に想定していたものの、新型コロナウイルスの感染拡大による休校措置を受け計画の前倒しを決定。実現期限を2021年3月末までに再設定した。

文部科学省の発表によると、GIGAスクール構想実現のためのICT端末の全国自治体納品完了率は2020年8月末時点では2%に留まっている一方、同年度末には99.6%が納品完了予定となっており、このことからも急速に整備が進んでいることが分かる。

アフターGIGAで求められるICT活用

一方で、すでにGIGAスクール構想が実現した後を見据え、「アフターGIGA」という概念も生まれている。これは、1人1台端末が行き届いた状態で、教育においてどのようにICTを活用するかという考え方だ。アフターGIGAにおいては、これまでのICT教育のさらなる発展が求められている。

例えば、生徒や児童の端末から学習データを読み取ることで、個々人の習得状況に合わせた学習方法を計画したり、適切な学習量を算出できる。これらのデータを生かすことで、より効率的な学習指導が期待できるというわけだ。

また、アフターGIGAにおいては「ICT教育だからこそ発生する問題をどのように解決するべきか」という課題の解決も求められる。有害なサイトの利用制限や個人情報の保護なども重要なポイントだ。

では、具体的にアフターGIGAで発展・活用が見込まれる分野を見ていこう。

無線LAN

ICT教育が十分に浸透した場合、動画教材をふんだんに利用したり、遠隔授業が大幅に増えることが予想される。このような状況でスムーズな教育を進めるために必要なのが、十分な速度を確保した無線LANの拡充である。

特に、コンピューターに不慣れな児童・生徒でも容易に学習環境を整えられるよう、シンプルかつ高速のネットワーク環境を構築することが必要だ。また、Wi-Fi環境の未整備な自宅でも満足な通信ができるよう、安価な4Gや5G通信網を供給することも重要である。

セキュリティ

生徒や児童が利用する端末は、インターネット上のトラブルを未然に防ぐためのセキュリティ環境を整備する必要がある。有害サイトへのアクセスを遮断するWebフィルタリングを設定することはもちろん、コンピューターウイルスの感染を防止するセキュリティソフトのインストールも重要だ。

また、学習に利用するコンテンツがスムーズに利用できる状態を保つため、サーバーへのサイバー攻撃などに備える必要もある。

教育関連ツール

1台端末のメリットを最大限に引き伸ばすため、動画教材や学習ソフトなどを充実させる必要がある。紙のテキストでは説明が難しかった分野も、動画やアニメーションなどを利用した教材を生かすことで、分かりやすく伝えることができる。

また、これらの教育関連ツールはWeb上で無料公開されているものもあるため、低コストで幅広い分野の学習に活用できる点も魅力だ。

例えば、東京都では独自の英語学習用動画教材を制作し、Web上で公開している。これは小学生から高校生までを対象に、段階別の英語学習を支援すべく制作されたものだ。都内在住の学生以外も無料で視聴可能なため、全国の児童・生徒が無料で英語の勉強に役立てることができる。

さらに、これらの教材を最大活用するための電子黒板や、プロジェクターもアフターGIGAにおいて重要となるICT機器だ。電子黒板には画像・動画の表示やタッチペンでの書き込みに加え、板書をそのまま保存できるものもあり、授業後の復習などにも活用が期待できる。

PC・タブレット関連製品

PCやタブレットを利用した学習においても、児童や生徒が手書きで文字を入力する作業が必ず発生する。そのため、鉛筆やシャープペンシルのような精密さを持つ高性能なタッチペンの導入が必須である。

また、これまでのICT教育では学校で端末を保管する例が多かったのに対し、アフターGIGAでは端末を持ち運び、学校でも自宅でも自由に勉強する環境が理想とされる。そこで、端末を運ぶ際に破損が起きないよう、取り回しが楽で十分な保護が可能なケース・カバーを準備する必要もある。

さらに、端末の充電が足りず学習機会が失われることは望ましくない。充電器やケーブルは各教室や家庭に必要な数が行き渡ることが求められる。

高校へと拡大したGIGAスクールの商機

結果的に、新型コロナウイルスに後押しされる形で導入が進んだGIGAスクール構想だが、文部科学省は2020年度第三次補正予算で、国公立・私立高校等でのPC端末整備のための補助金として161億円を計上している。

さらに、2021年度予算案では「GIGAスクールにおける学びの充実」に4億円を計上。小中学校での1人1台端末導入後のさらなるICT活用を促進するとともに、高校へのGIGAスクール拡大を目指している。

2021年はアフターGIGAでのICT活用はもちろん、高校や私学、教職員へのPC端末導入にも商機が期待できる。さらにビジネスチャンスが広がる教育分野に今後も注目したい。