金融業

金融機関のクラウド活用最前線

掲載日:2021/03/23

金融機関のクラウド活用最前線

金融機関のIT化は、他業種に比べて早い段階から取り入れられてきた。しかし、クラウド化においては高度なセキュリティが必要なこともあり、まだあまり進んでいないのが実状だ。金融機関がクラウド化するにあたっての要件や日本の金融機関システムにクラウドがどのくらい使われているのかを見てみよう。

金融機関のクラウド化の現状

日本銀行金融機構局が発表している『金融システムレポート別冊』 や『ITを活用した金融の高度化』によると、現在、システムの一部でクラウドを利用している金融機関は、都銀・信託銀行で100%、地方銀行、第二地方銀行で8~9割となっている。

一方、金融全体のクラウド活用で見た場合は、利用率は5割強で留まっており、特に基幹業務系システムでは、銀行の導入が約1割、生保・損保・証券・クレジットで約5割弱となっている。

クラウド化が進まない理由としてセキュリティに起因する次の2つの懸念点が挙げられる。

一つは金融機関の勘定系システム構築には堅牢なセキュリティを求められるために開発期間・費用がかかり、古いシステムのまま固定化されてしまっていること。もう一つの理由がクラウドの特性によるセキュリティリスクへの懸念だ。

金融機関のシステムの安全性は、金融庁の監督指針・検査マニュアル、さらに金融情報システムセンター(FISC)の『金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書』を基準としている。

従来のFISCはオンプレミス基準だったが、「金融機関におけるクラウド利用に関する有識者検討会」が行われ、クラウドでのシステム構築の安全基準も盛り込まれるようになった。

メガバンクのクラウド化

三大メガバンクのクラウド化は、業務系システムや顧客用アプリシステムなどから徐々に進めている段階だ。勘定系システム刷新には各銀行ともに数千億円かけてきた経緯もあり、まだ先のことになりそうだ。

三菱UFJ銀行

2017年1月に、三菱UFJ銀行(MUFG)はAWSの採用を発表。約1,000保有するシステムの半分を10年間でクラウドに移行する予定だ。

しかし、2020年時点でのシステム移行は約100と進捗が遅れている。その理由の一つがセキュリティの問題だったが、対策の道筋は描けているという。勘定系システムのクラウド化は具体的にはなっていないものの、移行の可能性は否定していない。

三井住友銀行

自社拠点のプライベートクラウド、ベンダー拠点のプライベートクラウド、パブリッククラウドの3種で2015年秋から順次移行している。

自社プライベートクラウドはインターネットバンキング、与信、ワークフロー、ベンダー拠点クラウドでは顧客向けスマートフォンアプリシステム、パブリッククラウド(Microsoft Azure)は、Windows 10 Mobile端末の業務システムに利用。

みずほ銀行

みずほグループ共通のプライベートクラウド基盤、「みずほクラウド(IA)」で約1,000台の物理サーバー、約3,500台の仮想サーバーを稼働中。銀行業務については、市場系・情報系を中心に約120システムが本番稼働している。

また、みずほ銀行の個人用スマートフォン向けバンキング「みずほダイレクトアプリ」をはじめとする約60システムをAWSのパブリッククラウドに移行中。

地銀・ネット銀行ではオールクラウド化も

世界に目を向けると、残高照会・振込などを外部のアプリ開発会社に提供する「オープンバンキング」が浸透しつつある。

銀行のサービスを業務単位でクラウド基板上から提供する業態を「Banking as a Service(BaaS)」と呼ぶ。

地方銀行やネット銀行では、勘定系システムにBaaSを用いるケースやBaaS型ビジネスを打ち出すところがある。

ソニー銀行

金融機関の中で早くからクラウド化を進めていた。2013年からAWSで銀行業務システムと銀行業務周辺系システムを段階的に移行。2019年には、勘定系を含む全システムのAWS移行を決定し、2022年の本格稼働を目指して構築を行っている。なお、クラウド勘定系には、富士通のFUJITSU Banking as a Service(FBaaS)の導入検討が進められている。

北國銀行

Microsoft Azureで動作する、日本ユニシスの勘定系システム「BankVision」を2021年に稼働させるべく開発している。最初は、IaaSとして稼働するが、段階的にパブリッククラウド移行してPaaS化する予定だ。パブリッククラウドでのフルバンクシステムは国内初となる。

みんなの銀行

ふくおかフィナンシャルグループが2021年5月に開業予定のインターネット専業銀行。勘定系システムの基盤にはGoogle Cloud Platformを採用している。外部事業者との提携で、Banking as a Service(BaaS)型ビジネスの実現を掲げる。

りそな銀行

りそなグループアプリをアジャイル開発で成功させた。基盤には日本IBMの「金融サービス向けデジタルサービス・プラットフォーム(DSP)」を採用。これはクラウドでオープンに提供するソリューションだ。

生保、損保、証券、クレジットのクラウド化

金融機関の中で、クラウド化が進んでいるのが生保・損保・証券・クレジット会社だ。三井住友海上火災保険は保険金請求不正検知システム、損害保険ジャパンはナレッジマネジメント・プラットフォームにMicrosoft Azureを採用、住友生命保険はシステム・アプリケーションをMicrosoft Azureに移行している。

また、第一生命は、マイクロソフトの「FgCF(Financial-grade Cloud Fundamentals)」ベースのクラウド基盤「ホームクラウド」をMicrosoft Azureで構築している。

金融機関クラウド化のこれから

クラウドのメリットは、導入期間の短縮やコスト抑制、拡張性や柔軟性など枚挙にいとまがない。

各クラウドベンダーが順次FISCに対応していることもあり、今後金融機関のクラウド化は勢いがついていくとみられている。

小規模の金融機関でない限り、オールクラウド化はまだ難しいが、業務単位でシステムを切り分けての導入が進んでいくだろう。

個人融資の審査にAIが使われるなど、金融機関のシステムにも新しい技術は取り入れられている。

また、キャッシュレスが定着すれば、金融機関のあり方も変わっていくかもしれない。クラウド化とともに、金融関係のさまざまなシステムに注目していきたい。