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マイクロソフトが目指す
Azure Stack HCIの未来図【1】

掲載日:2021/04/06

マイクロソフトが目指すAzure Stack HCIの未来図【1】

2021年2月、サブスクリプションによる新たなAzure Stack HCIが国内でもプレス発表された。それに伴いMicrosoft HCIは今後、好評だった従来製品の機能を継承するWindows Server HCIと新Azure Stack HCIが並走することになった。両製品は何が違い、Microsoftは新たな取り組みを通し、何を目指しているのだろうか。Azure Stack HCIの開発パートナーでありソリューションパートナーでもあるレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ合同会社(以下LES)の米津 直樹氏に、HCI市場におけるAzure Stack HCIの動向について伺った。第一回はHCIを再整理することから話を始めたい。

サーバー仮想化が生んだ新たな課題とは?

Azure Stack HCIについて見ていく前に、まずはHCI(Hyper-Converged Infrastructure)について簡単に整理しておきたい。1台の物理サーバー上で複数の仮想的なサーバーを運用するサーバー仮想化は、多くの企業が直面するITシステムの効率的な開発・運用の切り札としてすでに広く普及している。

だが仮想化ソフトウェア(ハイパーバイザー)やCPUの高性能化、メモリーの大容量化による高密度なサーバー統合は、課題解決に貢献する一方で、新たな課題にもつながった。

仮想化ソフトウェアは、仮想化基盤の可用性を高める観点から、物理サーバーの障害発生時に別の物理サーバーで仮想マシンを自動復旧(HA)したり、仮想マシンを稼働したまま別の物理サーバーに移動(ライブマイグレーション)する機能を備えている。

この仕組みを動かすには、データを物理サーバーのローカルディスクではなく、複数の物理サーバーからアクセスできる共有ストレージに収納する必要がある。一般化したのが、「物理サーバー」、「SAN」(Storage Area Network)、「共有ストレージ装置」の3層からなる3Tier(スリーティア)構成だった。だが3Tierは、仮想化基盤の可用性向上に貢献する一方、システム構築・運用の煩雑さにつながった。

その改善のために新たに登場したのが、CI(Converged Infrastructure)だった。これは、あらかじめメーカー側で動作確認を行った物理サーバー、SAN、共有ストレージ装置をパッケージ化したもので、「垂直統合型システム」とも呼ばれる。

サーバーラックに搭載された状態で提供されることも多いCIは、新規構築の効率化を実現したものの、運用・増設の煩雑さという観点では既存3Tierと大差ないというのが実情だった。

従来の3層インフラストラクチャとHCIの比較

ローカルディスク共有化で急成長を続けるHCI

この課題解決に大きな役割を果たしたのが、SDS(Software-Defined Storage)と呼ばれるストレージ仮想化技術だった。SDSとは、複数の物理サーバーのローカルディスクを仮想的に共有ストレージ化する技術。それにより外部ストレージ装置なしで仮想化基盤の冗長化が実現する。

仮想化基盤に必要なハードウェアは物理サーバーとイーサネット用L2スイッチのみで、配線もイーサネットと電源のみという極めてシンプルな運用が可能になる。つまり、SDSにより大幅に簡素化されたシステム構成をパッケージとして提供するのがHCI(Hyper-Converged Infrastructure)という位置づけになる。

レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ合同会社 ソリューション・アライアンス本部 Microsoftアライアンス担当の米津 直樹氏はそのメリットをこう説明する。

「HCIにはデプロイメントの迅速化やスケーラビリティ、データセンターのスペース削減など多様なメリットがありますが、中でも特にエンドユーザー様が注目しているのがハードウェア簡素化によるコストカットや管理省力化という側面です。その強みは極めて大きいと考えられ、当社の場合、2015~2020年のHCI製品の売り上げは平均成長率40%を記録するなど、急成長を続けています」

ストレージ仮想化とは?

HCIソリューションの棲み分けは?

HCIを理解するうえでもう一つ重要になるのが、複数ベンダーが提供するHCIの各方式の特長を把握することだ。LESは現在、Nutanix、VMware、MicrosoftのHCIアプライアンスを提供しているが、それらの棲み分けはどう考えているのだろうか。

「HCIのパイオニアでもあるNutanixの第一の特長として挙げられるのは、CPU世代を跨いだノード追加にも対応できる点です。将来的なノード追加を想定しているならNutanixによるHCIがその答えになるでしょう。ただし世代を跨いたCPU運用では、システム全体の処理能力が低スペックCPUに引き寄せられる傾向があるため、CPU世代を跨いだノード追加は一長一短があることを頭に入れておいた方がよいと思います。VMwareについては、仮想化ソリューションの実績が最大の強みです。特にvCenter Serverを運用し、その取り扱いに慣れ、『新しいことは学びたくないよ』という方であれば、VMware一択だと思いますね」

では、最後発のMicrosoft HCIの特長はどこにあるのか。それを考えるうえで重要なキーワードになるのが「クラウド・レディ」という考え方だ。

LESのHCIアプライアンスの特長

クラウド移行に向けたHCIの選択

「近年のサーバー導入・移行案件は、将来的なクラウド全面移行まで視野に入れる傾向があります。全面的なクラウド移行を終えたユーザーは1割強に過ぎませんが、残り9割のユーザーがクラウドは不要と考えているかというと決してそんなことはありません。将来のクラウド移行を前提にした際に大きな意味を持つのがアプリケーション仮想化です。実は、その基盤が最も安価に構築できるのがMicrosoftのHCIなのです」

その理由は大きく二つ。一つは、ネットワーク仮想化や管理ツールがWindows Server OSの標準機能として提供される点だ。例えばVMwareのネットワーク仮想化ツールであるVMware NSXはかなり高額だが、Microsoft HCIであればそのコストは不要だ。

もう一つが、最小構成が2ノードで、3ノードまで10Gスイッチが不要という特長だ。それにより、最も低コストでHCI構成が可能になるのがMicrosoft HCIという位置づけになる。

「アップル・トゥ・アップル(同一条件)の比較ではありませんが、当社のHCI製品の例でいうと、ハイスペック製品からより低コスト領域まで、最も幅広い領域に対応可能なのがMicrosoftのHCIになります。そのためコストコンシャスな案件については、『Microsoft HCIがいいのでは』というお話をさせていただいています」

米津 直樹氏
レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ合同会社
ソリューション・アライアンス本部
Microsoftアライアンス担当 米津 直樹氏

特に中小企業のHCI導入では、コストの壁が存在してきたことは否めない。その壁を乗り越えるツールとしてMicrosoft HCIに注目すべきであることは間違いない。

ところでMicrosoftのHCIはAzure Stack HCIが有名だが、今回あえてMicrosoft HCIと表記したことには理由がある。2021年3月現在、Windows Server 2019の標準機能に基づく従来製品とAzure Stack HCIの名称を継承した新ソリューションが並走していることがその理由だ。次回はMicrosoft HCIを軸に、LESのHCIの取り組みに迫りたい。

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