業務改善

マイクロソフトが目指す
Azure Stack HCIの未来図【2】

掲載日:2021/04/13

マイクロソフトが目指すAzure Stack HCIの未来図【2】

2021年2月、サブスクリプションによる新たなAzure Stack HCIが国内でもプレス発表された。それに伴いMicrosoft HCIは今後、好評だった従来製品の機能を継承するWindows Server HCIと新Azure Stack HCIが並走することになった。両製品は何が違い、Microsoftは新たな取り組みを通し、何を目指しているのだろうか。Azure Stack HCIの開発パートナーでありソリューションパートナーであるレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ合同会社(以下LES)の米津 直樹氏にHCI市場におけるMicrosoftの施策について伺った。全三回のうち二回目は、Azure Stack HCI誕生の経緯とファミリーにおける位置づけについて見ていきたい。

マイクロソフトが目指すAzure Stack HCIの未来図【1】はこちら

新Azure Stack HCIの背景にあるMSの狙いとは?

Microsoftは2020年12月、Windows Server 2019の標準機能として提供されるAzure Stack HCIの名称を引き継ぐ形で、HCI専用OSとして新世代のAzure Stack HCIをローンチした。それに伴い、従来のWindows Server 2019ベースのAzure Stack HCIは「Windows Server HCI」または「S2D」(Storage Spaces Direct)と呼称されることになった。

Azure Stack HCIの呼び方を再定義

「MicrosoftのHCI製品が2種類あることは、確かに分かりにくいかもしれませんが、両者には大きな違いがあります。国内では今年2月25日にプレス発表された新Azure Stack HCIの特長は大きく2点。一つはSDSに関する機能を切り出したHCI専用OSであること。もう一つが月額課金のサブスクリプションで提供される点です。それに関連し、Microsoft Azure連携を前提とすることも従来のWindows Server HCIとの大きな違いになります。なおWindows Server HCIは今後消滅するわけではなく、並行して提供を続けますのでご安心くださいというのがMicrosoftのスタンスです」とLESソリューション・アライアンス本部 Microsoftアライアンス担当の米津 直樹氏は説明する。

では、なぜMicrosoftは市場の混乱を厭うことなく、Azure Stack HCIの名称をそのまま引き継ぐ形で新OSの提供を開始したのだろうか。その背後には“Azure Hybrid”という新たな施策がある。

Azure Hybridの概念図

Microsoftは昨年、Azure Hybrid の名のもと、Microsoft Azureでハイブリッドクラウド環境やマルチクラウド環境、オンプレミス環境を統合的に管理できるコンテナベースのコントロールプレーンAzure Arcの提供を開始した。

それによりAzure上のリソースしか管理できなかった従来のAzure Portalと異なり、Azure はもちろん、AWS や GCPなどのパブリッククラウド環境、オンプレミス環境のリソースをAzure Arcで一元管理することが可能になった。

「ハイブリッドファーストという言い方こそしていますが、彼らが目指しているのがクラウドファーストであることは間違いありません。ただし、前回も触れたようにクラウドに完全移行したユーザーは10%強に過ぎず、まだまだ少数派です。こうした状況を受け、まずはクラウド・レディに向け、コンテナベースによる運用やMicrosoft Azureによるオンプレミスも含めた管理一元化など、地道な取り組みを続けているのがここまでの流れです。Microsoft Azure連携を前提にしたHCI専用OSも、その枠組みの中に位置づけることができるはずです」

またAzure Arcの管理対象に、今後成長が期待できるIoT、エッジコンピューティングまで含まれる点にも注目する必要がある。

「Microsoftにとって、Azure Arcをベースに自社の芝生を拡大することが重要な課題の一つであることは間違いありません。それと共に注目したいのが2020年夏のグローバルテクニカルカンファレンスMicrosoft Ignite以降、Azure Stack HCIを推す動きが目立っている点です。Surfaceという例外を除けば、これまでハードウェアをこれほど大きくクローズアップすることがなかったことを考えると、エッジコンピューティング、IoTという新たな芝生を獲得する取り組みの核にAzure Stack HCIを位置づけているといえそうです」

米津 直樹氏
レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ合同会社
ソリューション・アライアンス本部
Microsoftアライアンス担当 米津 直樹氏

オンプレ側のニーズに対応した仮想化基盤を提供

芝生を広げる狙いは、新Azure Stackがオンプレミス(エッジ)側のニーズに対応するファミリーとして提供されることからもうかがうことができる。

「Azure Stackファミリーは、Azure Stack Hub、Azure Stack HCI、Azure Stack Edgeの三つの製品群から構成されますが、その中で、これまでAzure Stackと呼ばれていた製品に対応するのがAzure Stack Hubです。ファミリーの中で最も高額で、一口にいえば、クラウドのSaaSやPaaSをオンプレミスでも動かしたいというニーズに対応する仕組みになります。極論するなら、製品がラックにマウントされた状態で手元に届き、電源をオンすれば即座にSaaSやPaaSが稼働するというイメージですね。Azure Stack HCIは、PaaSまでは不要で、コンテナが確実に動かせればよいというニーズに対応します。価格面でもより安価で、Microsoftも『大部分のユーザーにはこちらを推奨します』というスタンスを取っています」

ではもう一つのAzure Stack Edgeはどのような立ち位置になるのだろうか。

「こちらはMicrosoft Azureとのデータ共有を前提にする従来のAzure Data Box Edgeに対応します。具体的には、Azureポータルで契約すると、1Uサイズのサーバーが手元に届くというのが利用の流れになります。冗長化に関する機能は備えず、サポートはセンドバックになるため、冗長構成が必要な場合は2台契約し、1台をコールドスタンバイする必要があるなど、制約も多く、国内のエンタープライズユーザーには難しい製品と言えるかもしれませんね」

なお、Azure Stack EdgeのハードウェアベンダーへのOEM提供については、現時点では未定だという。いずれにせよ、多くのHCI案件においてAzure Stack HCIが重要な役割を果たすことは間違いない。

Azure Stackのポートフォリオ

二つのHCIを今後も並行して提供

機能という観点で、Azure Stack HCIとWindows Server HCIに違いはあるのだろうか。

「ストレージ階層化や重複排除が標準機能として提供されることや、最小構成2ノードで3ノードまではスイッチレスで対応でき、最大16ノード構成が可能など、現時点では基本的な機能に大きな違いはありません。またWindows Server HCI とWindows Admin Canterとの連携も継続して行うこともMicrosoftは明言しています。今年3月にオンライン開催されたMicrosoft IgniteではWindows Server 2022の話題も出ましたが、そこでもWindows Server HCIのサポートを継続する姿勢が打ち出されています」

その一方で、HCI専用OSになったことに伴う変化にも注目する必要があるだろう。

「フルスペックOSであるWindows Server HCIは処理オーバーヘッドが比較的高かったのですが、GUIなどの機能を持たないHCI専用OSであるAzure Stack HCIは、メモリー負荷も少なく、これまで以上にパフォーマンスに集中できるようになります。それによりServerスペックを問わず高速処理が可能になった一方、従来のWindows ServerのUIに慣れ親しんだユーザーの反発を招く可能性がある点には注意する必要があるでしょう」

現時点では双方の機能に大きな違いはないが、HCI専用OSとしてサブスクリプションで提供される新Azure Stack HCIは随時、機能強化が図られていくことになる。次回はAzure Stack HCIの特長についてさらに一歩踏み込んで見ていきたい。