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デジタル庁の現状報告

掲載日:2021/05/18

デジタル庁の現状報告

コロナ禍により社会のデジタル化が急速に進行する中、デジタル庁の設置が2021年9月に迫っている。日本の行政、そして社会のIT化に大きな影響を及ぼすと期待されているデジタル庁だが、何を目的とした機関であり、現在どのような状況に直面しているのだろうか。

デジタル庁新設について

デジタル庁の目的

2020年9月に発足した菅内閣。その看板政策が、デジタル庁の設置である。デジタル庁とは、各省庁に分散するIT関連政策をとりまとめ、国全体のデジタル化を推進することを目的とした機関だ。

そもそも日本の行政は、デジタル化が遅れていることがたびたび指摘されていた。国連の経済社会局(UNDESA)が2020年に発表した世界電子政府ランキングによると、日本は14位と先進国の中では下位となっている。

この状況を打破するためにも、デジタル庁の設立を求める声は以前より国内で根強く存在した。今回のデジタル庁設立は、こういった声に応える政策としても大いに期待されている。

現在、デジタル庁は2021年9月の設置を目標にしており、人材確保を中心に各種準備が行われている。設置後は行政システムの標準化やマイナンバーカードの普及促進、行政手続きのオンライン化に向けて、500人規模で動き出す予定だ。

デジタル庁の課題

2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大は、社会に大きな変革をもたらした。このコロナ禍において、行政におけるさまざまな分野がデジタル化に対応できておらず、多くの課題が浮き彫りになっている。

例えば、2020年4月に閣議決定された特別定額給付金事業の実施については、感染対策のためオンラインでの申請手続きが推奨された。

しかし、オンライン申請に必要なマイナンバーカードの普及率が、当時は約16%と低く、広く一般に利用されているとは言いがたい状態だった。この事態が発生した原因の一つは、マイナンバーカードが総務省の主導するサービスとして運営されており、他省庁や自治体による横展開や広報活動が十分ではなかったためだという指摘もある。

マイナンバーカードに限らず、行政のデジタル化が未整備なために起こるトラブルは数多く存在する。

このような事態の具体的な解決法としては、システムの集約的な整備によってノウハウを蓄積し、行政サービスの抜本的な質を向上させることが上げられる。

また、国・地方・民間との間でのプラットフォームの共通化やシステム連携の強化などを実行し、各省庁が独自に対応してきたデジタル関連施策の運用を標準化することが求められている。

デジタル庁の現状について

2021年4月現在、デジタル庁創設を柱としたデジタル改革関連法案が国会に提出されており、5月中に成立する見通しだ。この法案が成立すれば予定どおり9月にデジタル庁が設置される。

デジタル改革関連法案は、デジタル庁設置法案ほか5種の計6種の法案からなり、行政サービスの抜本的向上や、国民の諸手続き負担の軽減を目指すものだ。

前述のマイナンバーカードについても、現在所管する総務省などからデジタル庁に移管され、より国民へ利用の推進を強める意向だ。

菅総理は就任時の所信表明演説においてマイナンバーカードを2022年度末までにほぼ全国民へ行き渡らせることを表明しており、特別定額給付金事業実施時のような混乱が起きない社会になることが見込まれている。

また、各省庁が運用するシステムにおいてもデジタル庁が統括・監理する方針だと発表されており、これまで以上にスムーズな対応や他省庁との連携が期待できる。

設置に向けた新たな課題と企業・個人への影響

多大な期待を寄せられるデジタル庁だが、設置予定の9月は目前に迫っており、その準備は進んでいるのかという点に注目が集まっている。

不安視されていた人材確保については、民間から約100名を採用する方向で動き出している。4月には35名が先行採用された。応募総数は1,432人と発表されており、倍率は40倍以上。

しかし、今後も本当に優秀な人材を採用できるという保証はなく、職員確保・育成には不安が残る。情報処理推進機構(IPA)の「IT人材白書2020」によると、ここ数年IT人材不足に悩まされる企業は8~9割に及んでおり、行政においても同様の課題が想像できる。

一般企業との提携・外注なども視野に入れて、今後もフレキシブルな人材登用が必要になるだろう。

また、日本の行政において原則的に「省」は「庁」より上位にあり、デジタル庁の干渉により各省から反発の声が上がることも予想されている。

デジタル庁の設立が各省庁へ効果的に機能するよう、慣習を乗り越えて統括・監理を行うための十分なすり合わせが必要だろう。

さらに、デジタル庁における個人情報の管理・保護に対しても不安の声が多く上がっている。デジタル庁の情報の管理責任は、一般企業と比べて遥かに大きい。これまでにないリスク対策が期待される半面、これを機に国民のITセキュリティに対する認識が向上する可能性も考えられる。

このように、デジタル庁設置が民間に及ぼす影響は良くも悪くも大きいものになるだろう。

デジタル庁設置後は、セキュリティ面に限らず、デジタル社会の実現に向けて多くの企業・個人が動き出すことが予想できる。

インフラ構築やシステム導入、そしてセキュリティ対策に向かう流れをとらえ、民間の事業者においてもビジネスチャンスを逃さないようにしたい。