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HDDマイニングで大容量HDDに購入制限?

掲載日:2021/06/01

HDDマイニングで大容量HDDに購入制限?

ここ最近、新興の仮想通貨の影響により急激にHDDの需要が高まっている。一見すると仮想通貨とHDDの需要増とは何の関係もなく感じられるが、その裏には新たな技術の浸透によるHDDの思わぬ利用方法があった。この奇妙な現象と、仮想通貨業界に注目すべき理由についてまとめる。

大容量HDD購入制限のワケ

2021年4月下旬から、ネットワークHDD(NAS)向けの大容量HDDの需要が激増している。まとめ買い目的の顧客が殺到し、一律に購入制限を設けるショップも出始めた。これほど大勢の顧客がショップに詰め掛ける理由は、仮想通貨「Chia」をマイニングするためである。

PoW によるマイニングの特長とその欠点

Chiaについて詳しく説明する前に、これまで一般的だった仮想通貨のマイニング方法について理解する必要がある。

以前より、Bitcoinなどブロックチェーンを技術基盤とした仮想通貨のマイニングにはCPUが利用されていた。その際に用いられる合意形成アルゴリズムを「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」と呼ぶ。このアルゴリズムは、マイニング時にP2P通信でネットワークを形成し、各端末のCPUの計算量に応じて発言権を与えるもの。したがって、ネットワークに偽の情報を受け入れさせようとしても接続されたCPUの半分以上にあたるCPUパワーが必要になるため、データの改ざんが行われないというわけだ。

このようにPoWはネットワークに対する攻撃に強く、偽造情報を回避する点で優れているという利点があるものの、多数の端末を運用する必要があるため、莫大な電力が求められるという欠点もあった。

Chiaの誕生によりマイニングの消費電力を大幅に削減することが可能に

マイニングの概念が広まり、電気需要の押し上げや電力価格の高騰が問題になった頃に登場したのが、ストレージの空きスペースを使って暗号通貨をマイニングする技術で「プルーフ・オブ・スペース(PoS)」と呼ばれている。これはHDDやSSDを用いて、その中でPoWに代わる作業を行うもの。多数の端末によるネットワークの形成を必要としないため、従来に比べて大幅に消費電力を抑えることが可能なのだ。

その応用として2018年に登場したのがChiaである。Chiaは、ストレージを利用してマイニングすることが可能な仮想通貨であり、消費電力を抑えることを目的に開発されている。例えば、従来マイニング(採掘)と呼ばれていた作業はChiaにおいてはファーミング(耕作)と呼ばれており、ネーミングレベルで意識に変化があるといえよう。

Chiaを開発したのは、BitTorrent社の共同設立者であるブラム・コーエン氏だ。コーエン氏はP2Pプロトコルおよびソフトウェアとして広く利用されているBitTorrentの開発者でもあり、ブロックチェーン業界に強い影響力を持つ技術者である。Chiaはそのコーエン氏が新設したChia Networkという企業の中心プロジェクトであり、従来の仮想通貨に比べセキュリティ面が強化されていることなども魅力的であるため、今後も注目が集まると予想される。

ファーミングで求められるのはSSDかHDDか

Chiaのファーミングは従来のマイニングに比べて必要時間が長く、効率的に作業するためには、PoS環境として読み書き速度が高速なSSDを整備することが最適だ。ただし、各SSDは総書き込み容量(TBW)が定められており、これを超えて利用した場合はメーカーの保証を受けられない。そのため、長い目で見るとファーミングにHDDを利用することが望ましいといえるだろう。

Chiaのファーミング向けとしておすすめされるのは耐久性の高い大容量HDDだ。前述のHDD需要が急増した際にも、10TB以上のモデルに人気が集中している。

今後の仮想通貨の動向と製品需要の変化

2021年4月下旬のHDD需要激増は、3月17日にChiaの1.0が正式にリリースされたことがきっかけとなった。その後、Chiaは取引の開始時期が未定となっていたが、 5月4日から開始されている。そのため、HDDの品薄は今後も続き、これまで以上の需要増加が見込まれると予想されている。

仮想通貨のマイニングが影響して製品が品薄状態となるのは、今回のHDDが初めてではない。過去にもグラフィックボードやGPUなどが品薄状態になり、結果的に価格が高騰したことはたびたびニュースになっている。報道によると、マイニング用途の需要増によりグラフィックボードの平均単価が2020年2月から2021年2月にかけて66%も上昇したという。HDDの需要が急増した際と同様に、この頃もショップでのグラフィックボードの購入に制限がかけられたそうだ。

移り変わりが激しい仮想通貨業界だからこそ、常に情報をチェックして製品需要を見極めることが求められるだろう。