IoT・AI

企業の未来を変える「デジタルツイン」とは?

掲載日:2021/06/15

企業の未来を変える「デジタルツイン」とは?

昨今、「デジタルツイン」と呼ばれる概念が急速に注目を集めている。製造業を中心に導入が進むこの技術は、極めて広い分野で活用が可能だ。デジタルツインにどんなメリットがあり、どのように活用できるのかについて解説する。

デジタルツインとは

デジタルツインとは、リアル(現実、もしくは物理)空間に存在する情報を集め、サイバー(仮想)空間に再現する技術のことだ。現実の環境を全て仮想空間にコピーした世界のようなもので、「デジタルの双子」の意味を込めて「デジタルツイン」と呼ばれている。

デジタルツインの環境を活用することによって、リアル空間のモニタリングや、シミュレーションを行うことが可能だ。そのシミュレーションによって、現実世界の将来に起きる変化や事象を予測できる。

デジタルツインの概念はこれまでも存在したが、従来はリアル空間の情報をデジタル化するためには、入出力作業などに多数の人員が必要であった。その負担が大きかったことから、サイバー空間に入力されるデータ量はある程度限定されており、リアル空間をそのまま再現することは難しかった。広く注目が集まるようになったのはここ数年で、その裏にあるのはIoTやAIの飛躍的な進化だ。

IoTとは「Internet of Things(モノのインターネット)」の略で、インターネット経由でさまざまなモノが情報のやりとりをすることである。近年は家電や自動車、住居などさまざまなモノがインターネットと接続できるようになり、相互に情報をやりとりすることで利便性を高めている。これらから得たデータを収集し、そのビッグデータをAIによって分析することで、デジタルツインを成立させるための情報を構築することが非常に容易になったのだ。

デジタルツインのメリット

デジタルツインを取り入れることで、企業組織の業務改善に必要なデータをスムーズに収集・分析できる。これは、収集したリアル空間のデータを仮想空間に反映させることで、業務の「見える化」が可能になるためだ。

「見える化」により、業務改革のために必要なシステムの検討やコストの削減が可能な箇所が分かる。さらに、現実世界ではさまざまな制限が加わる難しい作業もサイバー空間なら容易に実行可能。また、データに基づき実際に改善したシステムを取り入れるとどうなるのかも仮想空間上でシミュレーションできる。

具体的な例を挙げると、製造業においてはデジタルツインの導入により以下のようなメリットが考えられる。

設備保全

製品の製造にはさまざまな工業用設備を配置し、これを常に保全することが必要である。これまでは目視による点検や製造ラインを止めてのメンテナンスを定期的に実施することが必要不可欠だったが、デジタルツインの導入により、サイバー空間上でのチェックがこれらの役割をほとんど担ってくれる。これは、リアルタイムで収集されるリアル空間の設備データによって、トラブルの想定、原因特定や改善をサイバー空間上でシミュレートできるためだ。

設備保全を全面的にデジタルツイン上で管理することはまだ安全面で不安が残るものの、日常的なチェックなどをこれに置き換えることで、大幅な工数削減が期待できる。

リスク低減

これまでの製造業において新製品を製造する場合は、開発時におけるリスクが不明のまま実作業をスタートしなければいけない部分が多数存在した。しかし、デジタルツインを導入することにより、サイバー環境上で新製品の製造工程をシミュレートし、精度の高い予想をしてから実作業に入ることが可能になった。

サイバー空間上のシミュレーションは、リアル空間上で行った際に比べ、工数削減に加え大幅なコスト削減が期待できる。サイバー空間では設備や人員をどのように配置しても費用を限りなくゼロに抑えられるため、コストを気にせず何度でもシミュレーションを繰り返せるのも大きなメリットである。このシミュレーション内容を生かし、十分に安心できる結果を実証してから実作業に入ることで、これまでに比べリスクを大幅に減らすことが可能だ。

コストダウン

リアル空間のデータを常に収集し分析することで、業務にかかるコストをサイバー空間で可視化し容易にその内容を把握できる。不要な設備や人員を削り、適切に再配置した状態をサイバー空間でシミュレートすることで、より適切な環境を整えることも可能だ。そのため、デジタルツインの導入は実作業が始まってからのコストダウンにおいても有効と言える。

また、製品開発における試作品製作のコストダウンも見込める。サイバー空間でリアル空間と同じ試作品を再現できるため、実際に作成するよりも安価に済む。加えてサイバー空間で試作した製品データは次の試作品にすぐさまフィードバックされる。そのため試作品の数を減らすことによるコスト削減も可能だ。

活躍の場を広げるデジタルツイン

デジタルツインは幅広い業種業態で実装されており、各分野の特色に応じて活用されている。

例えば、ある病院においてはスタッフや機器、患者等の情報をデジタルツインで再現し、急患に対応したり不要な機器を別部署に再配置したりするなどの業務効率改善に役立てているという。医療現場のように一刻を争う事態が発生し得る現場において、適切な情報収集とそれを生かしたシミュレートが容易に可能なデジタルツインは広く求められている技術だ。

また、デジタルツインは企業活動の効率化のみならず、スポーツの分析などにも用いられている。とあるスポーツの国際大会では、フィールド上の選手やボールの動きを分析し、サイバー環境上にリアルタイムで再現する試みが行われた。各国のスタッフはその情報をもとに試合中の選手交代や作戦変更に役立てたという。

国を挙げてデジタルツインの導入に取り組んでいる例もある。シンガポールでは国家戦略として「バーチャル・シンガポール」という都市そのものをデジタル化する試みがある。シンガポールは世界屈指の人口密度を誇り、都市開発が活発なため交通網の渋滞や建物の建設時の騒音が課題となっている。

こうした課題を解決するために、道路、ビル、住宅、公園などの3Dモデルを全てサイバー空間で構築し、そこにあらゆるリアルタイムデータを統合。サイバー空間でシミュレーションを繰り返すことで、最適な施策の検討が進む。これにより、インフラの整備や渋滞の緩和、アクセシビリティの改善につなげようとしているという。

日本でもシンガポールの取り組みに倣い、国土交通省がデジタルツインを活用した「国土交通データプラットフォーム」の構築を進めている。

このように、デジタルツイン技術は業種を問わず展開が期待でき、今後も活用規模が広がっていくと予想される。

コロナ禍による急速なデジタル化が進む今、デジタルツイン構築に必要なビッグデータがより集まりやすい社会になっていくと言えるだろう。IoT・AIとともに成長が著しい分野として注目することをお勧めする。