流通・小売業

「インボイス制度」導入開始までのチェックポイント

掲載日:2021/07/06

「インボイス制度」導入開始までのチェックポイント

2023年より「インボイス制度」が導入される。これは、事業者が消費税を納める際に大きな影響を与える制度だ。消費税を納付する課税事業者はもちろん、免税事業者やフリーランスにとっても重要なこの制度の概要や、実際に必要な手続き、そして、各方面に生じる影響についてまとめる。

インボイス制度とは

インボイス制度の概要

「インボイス」を日本語に直訳すると、「適格請求書」。すなわちインボイス制度とは、取引内容や消費税率、消費税額などの記載要件を満たした請求書などの発行・保存が求められる制度だ。

インボイス制度が導入される理由は、2019年10月に消費税率が引き上げられたことにある。このときの増税では、消費税および地方消費税がそれまでの8%から10%に引き上げられた。ただし、飲料食料および新聞については一部を除き軽減税率の対象となり、引き続き税率8%に設定されている。2021年現在は2種類の税率が並行して運用されている状態であり、このような税率の差による会計の複雑化が問題となっているのだ。

そこで、取引の透明性を高めつつ正確な経理処理を行うために、政府が2023年からの導入を決定したのが「インボイス制度(正式名称は適格請求書等保存方式)」である。

インボイス制度が与える影響

インボイス制度が開始されると、多方面に影響が生じることが予想される。その中でも最も大きな影響として考えられるのは、インボイスがないと仕入税額控除を受けられなくなるということだ。

仕入税額控除とは、消費税の課税売上にかかる消費税から課税仕入にかかる消費税を控除すること。控除が受けられた場合、課税売上と課税仕入から計算した消費税の差額を納税する。小売業のように売上高のほとんどが課税売上になる業種は、この仕入税額控除の有無によって大きく納税額が変わることになる。したがって、多くの事業者にとってインボイスは絶対に無視できない存在になるだろう。

なお、このインボイスは、課税事業者のみが発行でき、免税事業者は発行できない。したがって、課税事業者が免税事業者との取引で支払った消費税は仕入税額控除を受けられない。この場合、支払った消費税分は、課税事業者が自腹を切って納税する必要がある。このような事態を想定し、仕入れ先が免税事業者だと損をすると考える企業も多くなるだろう。免税事業者との付き合いを控える企業も増えると予想される。そのため、現在の取引を継続させる目的で、課税事業者へシフトする免税事業者も出ることが考えられる。

インボイスを発行するには

インボイスを発行するためには、適格請求書発行事業者となる必要がある。そのためには、2021年10月より開始される登録申請の手続きが必要だ。具体的にインボイスを発行するまでの手続き方法は事業者の形態によって異なるので、以下をご参照いただきたい。

課税事業者の場合

課税事業者がインボイスを発行するためには、所轄税務署に登録申請書の提出を行い、審査を受ける必要がある。審査通過後に税務署から登録番号の交付を受けると、以降はインボイスの発行が可能になる。

免税事業者の場合

免税事業者については、まずは消費税の課税事業者になることが必要だ。そのため、まず課税事業者選択届出書を所轄税務署に提出する必要がある。こちらの提出が完了して以降の手続きについては、課税事業者の場合と同様である。

新規開業の場合

新規開業した事業者が事業を開始したその日から適格請求書発行事業者となる場合については、特例が設けられている。この特例は、新規開業の事業者は事前に必要書類を提出することができないため、課税事業者選択届出書と登録申請書の提出を猶予するというものだ。これを利用すると、事業を開始した課税期間の末日までに課税事業者選択届出書と登録申請書を提出することで、課税期間の初日に登録されたものとみなされる。以降は税務署に交付された登録番号を用いてインボイスを発行する流れとなる。

なお、インボイスを発行する必要がない場合は、必ずしも適格請求書発行事業者に登録する必要はない。しかし注意が必要なのは、適格請求書発行事業者に登録しなかったとしても、消費税を納付する義務はなくならないということだ。

インボイス制度によるビジネスチャンス

このように、インボイス制度の導入によって課税事業者である企業にはさまざまな手続きが求められる。また、登録申請の手続きに限らず、業務フローやシステムの見直しも見込んだスケジュール調整も必要だと言える。

インボイス制度が導入開始されるのは、2023年10月1日。制度当日からインボイス発行が可能な環境を整えるには、この日までに社内の体制を整えることが必要となる。そのため、インボイス制度の導入に合わせ、多くの企業が経理処理を含めた業務環境の効率化を図ることが予想される。その場合はインボイスに対応したITシステム、会計ソフトなどへの注目度が一層上がるだろう。これらの需要を見極め、ベンダー各社は早めの準備をしておくことをおすすめしたい。