IoT・AI

エッジコンピューティング
話題の理由とは?

掲載日:2021/08/03

エッジコンピューティング話題の理由とは?

近年、ネットワーク負荷の軽減・低遅延、セキュリティ強化を実現するテクノロジーとして、分散型アーキテクチャである「エッジコンピューティング」が注目されている。しかし、エッジコンピューティングには、コストやセキュリティ対策などさまざまな課題があり、これらを正しく理解してから導入に取り組む必要がある。ここでは、エッジコンピューティングの概要とメリット、および導入の課題などを解説する。

エッジコンピューティングとは

エッジコンピューティングとは、IoT端末などのデバイス自身、あるいはデバイスの近くに配置されたコンピューターでデータを処理する、分散コンピューティングの概念だ。「エッジ(Edge)」とは縁や端など境界を表し、工場機械の各種センサー、POSレジ、監視カメラ、コネクテッドカー、スマートフォンなど分散された場所(Edge)で、データのクレンジング・加工・分析などの処理を実行する。

一方、従来主流の「クラウドコンピューティング」は、インターネットを介し、デバイスから離れた場所にあるコンピューターを利用するものだ。しかし、エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングは排他的な関係にあるわけではなく、両方をうまく組み合わせて最適な仕組みを構築することが重要になる。つまり、デバイスから近い位置にあるエッジサーバーでデータを一次処理し、クラウドには必要なデータだけを転送することで、処理を分散し、データ転送量を削減できるのだ。

また、エッジコンピューティングは、工場や店舗などで活用する場合は「オンサイト型」、コネクテッドカーやスマートフォンなど広域ネットワーク内からデータを収集する場合は「広域ネットワーク内型」として区別することもある。

なぜエッジコンピューティングが注目されるのか

近年エッジコンピューティングが注目される最大の理由は、IoTの普及に伴ってネットワークに接続するデバイス数およびデータ量が急激に増加していることにある。

データが膨大になりすぎたことで、従来型のクラウドコンピューティングでは、ネットワークトラフィックの増大、レイテンシ(通信遅延)の増大、データベースやコンピューティングの負荷、データセキュリティなどさまざまな課題に対応しきれなくなっている。こうした課題を解決するため、エッジコンピューティングのニーズが高まっているのだ。

また、5Gのサービスがスタートしたことで、多数同時接続、超高速・大容量、超低遅延な無線通信が可能になったことも、エッジコンピューティング普及の要因となっている。

そのほか、エッジコンピューティングの注目ポイントは次のとおりだ。

分散処理による負荷分散とトラフィックの最適化

デバイスが生成する膨大なデータをクラウドに全て転送するということは、トラフィック増大によるネットワーク負荷だけではなく、パブリッククラウドへのデータ転送費用も増大させることになる。そこでエッジ側で分散させて処理を行うことでデータの転送量を削減し、データ転送にかかるネットワーク負荷やコストを削減できるのだ。

低レイテンシの実現

迅速なリアルタイム処理が必要とされる場合には、エッジだけでデータ処理を完結してしまうことも可能だ。例えば、工場の機械制御のためにデータを活用する場合、リアルタイムでの処理が必須になる。しかし、物理的に距離があるクラウドにデータを転送して処理する方式では、タイムラグが発生してしまう。工場内のエッジサーバーでデータを処理することで、低レイテンシで工場内の機械制御を行える。

データセキュリティの向上

エッジコンピューティングは、セキュリティにも効果がある。パブリッククラウドに個人情報などのデータを蓄積すると、外部からの攻撃による情報漏えいリスクが高まる。そこで、外部ネットワークを経由せずエッジのローカルデバイスでデータを処理することで、情報漏えいリスクを軽減できる。

BCP対策

物理的に距離があるエッジ(拠点)ごとに分散処理しているため、ネットワークやクラウドサービスで障害が発生しても収集したデータが失われることがない。それぞれが独立した仕組みであり、クラウド、ネットワーク、ほかのエッジがダウンしていても処理を継続できることから、システム構成によってはBCP対策にも効果が期待できる。

エッジコンピューティング導入の課題

製造、小売、自動車産業、公共などIoTを活用したい業界・業種は幅広く、エッジコンピューティングの導入を検討している企業も多い。しかし、エッジコンピューティングの導入は容易ではない。

エッジコンピューティング導入の大きな課題となるのは、一般的なクラウドコンピューティングと比較すると、コストが高くなりがちなことだろう。導入拠点や接続デバイス数が多くなるほど、ハードウェアコストは増大し、システムもより複雑になっていく。

例えば工場にエッジコンピューティングを導入する場合、「接続する機器の数」「収集できるデータの種類」「データの処理方法」「工場内の機械制御にデータを活用するか」「クラウドに転送するデータ形式」「データを工場内に蓄積するか」などの要件に沿って、システムを設計し、アプリケーションを開発しなければならない。処理が高度なものになれば、当然エッジサーバーのCPU、メモリー、ストレージなど要求仕様は高くなる。これは、既存のIoTゲートウェイをエッジサーバーに置き換えたいというケースでも同様だ。

セキュリティについても十分な検討が必要だ。近年、急速にIoTデバイスやその接続先であるエッジサーバーを狙ったサイバー攻撃が増加しており、データの盗難、システムダウン、ランサムウェアなどの被害が多数報告されている。データセキュリティを向上させるはずが、IoTデバイスやエッジサーバーの脆弱(ぜいじゃく)性によってサイバー攻撃の被害に遭うといったことにならないよう、十分なセキュリティ対策が必須となる。

こうしたエッジコンピューティングの設計・構築には、IT、エッジコンピューティング、セキュリティに関する高いスキルのほかにも、業界や業種における専門的な知識が必要になる。そのため、コンサルティングやシステムインテグレーションの費用も高くなりがちである。さらに、システム構築後の運用についても、各拠点でエッジコンピューティングのシステムを構築して運用することになるため、対応可能なエンジニアの確保などさまざまな課題がある。

今後も高まるエッジコンピューティングの需要

工場や店舗などの限られた場所だけでなく、駅、公園、病院、住宅などIoTデバイスは社会のあらゆる場所に設置されるようになりつつある。同時に、これらのデバイスから集められた膨大なデータは、AIや機械学習によって分析され、さまざまなシーンで活用されている。

AIや機械学習によるリアルタイム性の高いデータ活用は重要度を増し、データ処理の負荷分散、トラフィックの最適化、低レイテンシのデータ転送を求める声も大きくなっている。

エッジコンピューティングは、導入コスト面などに課題も多く、現時点ではハードルが高い仕組みと言える。しかし企業のDX推進、コネクテッドカーやスマートシティの増加、5Gの普及といった追い風によって、今後もエッジコンピューティングの需要はますます高まっていくだろう。