医療

シュナイダーエレクトリックがワクチン保管用フリーザーを通じて見据える、UPSの未来

掲載日:2021/10/26

シュナイダーエレクトリックがワクチン保管用フリーザーを通じて見据える、UPSの未来

これまで主にサーバーへの電力供給用途で知られていたUPS(無停電電源装置)だが、情勢の変化によって新たな活用法が求められている。その一つが新型コロナウイルスのワクチンを保管するフリーザー向けのUPSだ。本記事では、斬新な活用に至った背景とそこから見えるUPSの今後の動向について、シュナイダーエレクトリック株式会社(以下、シュナイダーエレクトリック)に話を伺った。

UPS市場の変化

近年、UPS市場に大きな変化が起きている。

これまでUPSは、サーバーにアタッチするというビジネスモデルを中心に展開してきた。しかし、最近はそれが厳しい状況にある。コロナ禍により多くの企業が経済的に影響を受け、サーバーの設置が延期されるという事態が続いているためだ。さらに2019年末頃から世界中で慢性的に続いている半導体不足も重なったことでサーバーの出荷量減少に拍車がかかり、結果としてUPSの需要も減少している。

サーバーレス案件の模索

今田 晴大氏
パートナー営業本部
第一営業部
アカウントマネージャー 
今田 晴大氏

世界的な電機メーカーであるシュナイダーエレクトリックでは、これまでとは異なるUPSの活用法を模索していた。そこでたどり着いた先は、サーバーに頼らない製品でUPSを活用するという手段だ。

「情勢の変化により、UPSを取り扱う他企業のサーバー事業の売上は昨年対比で減少すると伺っております。しかし、当社ではサーバーレス案件に力を入れることによって昨年対比プラス成長を維持する事ができました」と語るのは、シュナイダーエレクトリック パートナー営業本部 第一営業部 アカウントマネージャーの今田 晴大氏である。同社はPCやワークステーション、IoT機器向けのUPSを推し進めたことにより、本年度の売上は昨年比で二桁成長を記録するなど好調を維持している。

一方で今田氏は「コロナ禍前の2019年度と直近の売上を比べた場合、やはりもう一歩分数字が及ばない状況にありました」とも語る。そこでシュナイダーエレクトリックが新たにアプローチしたのが、新型コロナウイルスのワクチン保管用フリーザー向けUPSだ。

新しい発想「ワクチン保管用フリーザー向けUPS」

現在主流となっている新型コロナウイルスのmRNAワクチンは、超低温での保管が必要だ。各医療機関や自治体では、専用のフリーザーを用意してワクチン保管に利用している。しかし、フリーザーの電源が切れるなどして多くのワクチンが廃棄されたというトラブルも少なくない。フリーザー用のUPSは、そのような状況で求められるようになった。

しかし、実際に医療の現場で使われているフリーザーはメーカーも規格も多種多様であり、簡単にUPSを活用できるものではない。そこで、シュナイダーエレクトリックでは主要なフリーザーを調査してUPSの組み合わせを検証。フリーザーごとに最適な構成を編み出し、商品としての展開を可能にしたのだ。

現場の要求に対応できる拡張性の高さ

今田氏は、ワクチン管理の現場でシュナイダーエレクトリック製のUPSが選ばれる理由は「拡張性の高さ」にあると分析する。

「ワクチン保管において考えられるトラブルは『自然災害や人為的なトラブルによって発生する停電といった電源トラブルによって温度維持ができず適切なワクチン保管ができない』というものです。このような事態に対応するためには長時間の電源喪失に対応できるUPSの設置が必要不可欠となります」(今田氏)

その点において、シュナイダーエレクトリック製のUPSは最大10個の拡張バッテリーを増設でき、求められる環境に合わせてバックアップ可能な時間の延長が実現する。実際、同社がUPSを提供する際には約26時間以上のバックアップが可能な構成で製品を紹介している。

この拡張性の高さは、蓄電池との差別化においても機能している。蓄電池はその性質上、大容量であるほど物理的な大きさが必要になり、現場での取り回しが容易ではない。対して拡張性の高いUPSであれば状況に応じてバッテリーのスケールアウトが可能なため、イニシャルコスト上も都合が良く導入のハードルが低いというメリットがあるのだ。

タイムラグの発生に対する優位性

シュナイダーエレクトリックが提供するUPSは長いタイムラグが発生することがないという強みがある。さらに、同社のUPSは、もともと工場の精密機械などのバックアップで使われていたものを転用しているため、電源喪失から供給までをゼロ秒でまかなえる優れものだ。

多方面・他分野への展開に期待

既に大きな反響があるフリーザー向けUPSだが、今後も需要が続くことが予想できる。

「最近はワクチンの職域接種も浸透し、フリーザーを自主的に調達する企業も増えています。また海外情勢を見る限りだと、3回目のブースター接種が必要になることも考えられるでしょう。インフルエンザワクチンのように、今後は定期的な新型コロナワクチンの接種が必要になる可能性もありますし、フリーザーとそれに付随するUPSの需要は今後も続くと考えられます」(今田氏)

ワールドワイドな展開の可能性

なお、フリーザー向けにUPSを活用するという考え方は世界に先駆けて日本で発案されたものだという。シュナイダーエレクトリック パートナー営業本部 第一営業部 部長の古畑 浩章氏は「海外でもワクチンの管理に苦労しているという事情に変わりはない。国土が広い国や電力事情に苦しい国もあるので、海外でも存分に需要があると考えます」と語っている。

ワールドワイドな規模で事業を手掛ける企業なだけに、今後は海外にも同様のソリューションを展開することを期待したい。

フリーザーをきっかけとしたUPS活用の拡大

同社としては、フリーザー向けの活用をきっかけにして、より幅広い分野でUPSの有用性を知ってほしいと考えている。

そんな中シュナイダーエレクトリックが見据えているのは、UPSのさらなる省スペース化だ。今田氏は、一般のオフィスにも気軽に設置できるようにより小型化に対応したいと語っている。

「私個人としては、UPSがドライブレコーダーのように一般的な存在になってくれることを期待しています。20年前はドライブレコーダーを利用している人がほとんど存在しませんでしたが、現在は保険代わりにもなる製品として多くの人に活用されています。UPSも、今のところ企業内のITに強い方にしか認知されていないことが多いという状態ですが、多くの方々に知っていただき、安心を感じられる製品としてご活用いただきたいですね」(今田氏)

「フリーザー向けUPSの展開は、これまでのサーバーに依存したUPSの活用とは異なる道としての活路を開いたと思います。パートナー様にも、アップセルのための周辺機器としてぜひご提案いただきたいです」(古畑氏)

ワクチン保管に関するさまざまな報道によって、フリーザー向けUPSへの注目度は一気に加速している。これをきっかけに、フリーザー向けのものに限らずともUPSの重要性について考える企業も増えているだろう。多方面からの需要が考えられる、UPSの提案をあらためて検討したい。