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「まるごと未来都市」を実現
スーパーシティ構想の現状とは

掲載日:2021/11/09

「まるごと未来都市」を実現スーパーシティ構想の現状とは

高齢化社会やエネルギー問題など、現在の日本が解決すべき問題は多い。これに際し、最先端技術を活用してより暮らしやすい未来都市を実現する「スーパーシティ構想」が立ち上がった。新型コロナウイルスの影響などでスケジュールが延期され、あまり動きがないように感じられたこの構想だが、いよいよスーパーシティの対象区域指定が目前になったという。再注目されているスーパーシティの概要や、その現状について説明しよう。

スーパーシティとは

2020年5月「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律(スーパーシティ法)」が成立した。これは政府が推進する「スーパーシティ構想」を実現するための法案であり、日本の抱える諸問題を解決するアプローチとして大いに注目を集めている。

スーパーシティ構想とは、規制改革などを行って最先端の技術を活用し、未来の生活を先行実現するための取り組みだ。「まるごと未来都市」を目標に掲げ、日本が抱えるさまざまな社会問題をテクノロジーの力で解決に導くための構想である。

現在、国内の多くの地域では高齢化社会や人材不足といった問題が深刻化しており、それによって住民に大きな負担がかかるケースも少なくない。そこでデジタル技術が社会の根幹を担い、問題の解決に役立っているケースも多く見受けられる。その一方で、現在の法令では自由に利用できない技術や、さらに実証を重ねることで安全かつ効率的な活用方法を見つける必要がある技術が多いのも事実だ。

スーパーシティ構想においては、自治体ごとにそれぞれの先進技術を最適な形で活用し、先進的な社会のショーケースの実現が求められている。将来的にはスーパーシティを参考に全国の自治体が同様の技術活用を進め、国全体でより良い未来社会を実現することが期待されているのだ。

スーパーシティ構想のコンセプト

スーパーシティ法案が成立する以前にも、国内では複数の自治体でテクノロジーを活用し、諸問題を解決するための実験が行われたことがある。

例えば、ある自治体では高齢化社会対策として期間限定で自動運転技術の実証実験が行われた。その際は路線バスの自動運転を実証しており、道路交通法を緩和して実際に公道を使った実験が行われている。その後も各地の自治体において自動運転技術のさまざまな実証実験が取り組まれているが、いずれも特定の技術を限られた期間内で試す内容にすぎなかった。

一方、スーパーシティ構想の対象都市においては、こういった前例とは大きく異なる形でさまざまな実験が行われる予定である。中核を担う基本的なコンセプトは以下のとおりだ。

複数のテクノロジーを長期的に活用する

スーパーシティ構想においては、これまで目立っていた部分的な取り組みとは異なり、幅広く生活全般をカバーする内容の実証実験が行われる。例えば、決済の完全キャッシュレス化・遠隔教育・遠隔医療・再生可能エネルギーの利用など、複数分野のテクノロジーを自治体の各分野で同時に活用することが予定されている。

また、スーパーシティ構想における実証実験は長期的なものと想定されている。一過性の実験ではなく、継続して住民が利用できる制度設計が求められることが特長だ。

住民目線の未来社会を目指す

スーパーシティ構想と類似した取り組みは、諸外国でも同様に行われている。しかし一部海外の都市では、供給者や技術者の考えを優先したために住民の不安を増長させ、混乱を招いた例も存在する。こういったケースを踏まえた結果、スーパーシティ構想においては住民の目線を第一に、未来社会の実現を図ることが目標となった。

スーパーシティ構想の現状

国はスーパーシティ型の国家戦略特区として「スーパーシティ型国家戦略特別区域(以降、スーパーシティ)」を選定することを目的とし、全国の自治体を対象に参画事業者を公募することとした。当初は2020年内のスーパーシティ指定が予定されていたが、新型コロナウイルスの影響を考慮しスケジュールが数回延期されている。

結果的に2021年春の締め切り時点で応募があったのは31団体。2021年夏の段階で、この応募団体の中から5地域程度がスーパーシティに指定される予定だったものの、制度設計が不十分であることを理由に指定をさらに延期することが発表されている。内閣府の発表によると、当該回の応募に対し、大胆な規制改革の提案が乏しいことが懸念されたとのこと。各団体には、スーパーシティ制度を活用する必要性があるのかを含めた提案の見直しと、再提出が求められた。再提出は2021年10月に締め切られたため、本格的な動き出しは冬ごろになりそうだ。

スーパーシティ構想実現に向けた課題と今後

期待が寄せられるスーパーシティ構想だが、実現に向けての課題も上げられている。

まずは、スーパーシティ構想実現についての地域住民の合意だ。例えば、自治体が前向きな意志を示していたとしても地域住民の合意をどのように得るか、という問題が存在する。スーパーシティ構想においては住民や所在企業からビッグデータを収集し、それを活用することが想定されている。しかし、個人情報保護の問題やビッグデータを望まない形で活用されることの懸念などを理由に、反発の声が上がることも予想される。

さらに、規制緩和について上げられる声への対応も課題となるだろう。複数分野の規制を一括で緩和し、技術革新の促進や各種サービスの利便性を高めようとするのはスーパーシティ構想の大きな特長であるものの、トラブルが発生した場合、これまでを遥かに上回るレベルで事業や生活に悪影響を及ぼすことが不安視されている。制度設計や規制緩和の度合いについての説明が求められる。

このように懸念すべき問題は多いものの、行政手続きの簡素化や医療・介護現場における効率化、教育水準の引き上げなど、メリットの多さが想定されるスーパーシティ構想。住民や所在企業と十分な対話を重ね、お互いの納得を得たうえで実現されることを期待したい。