セキュリティ

データ通信の安全を担保する技術
「量子暗号通信」とは?

掲載日:2022/01/18

データ通信の安全を担保する技術「量子暗号通信」とは?

IT化が進む中、何度も話題に上がるのがセキュリティ面での懸念である。通信の不正な傍受によって企業の情報が外部に漏れた、といったニュースを目にした方は多いだろう。そんな昨今において、画期的な暗号通信技術として注目を集めているのが量子暗号通信である。

暗号化とは

今日のIT社会では、データのやりとりにおいてしばしば暗号通信が用いられる。暗号通信とは、データに対して何らかの処理を行い、第三者が見ても解析できないような形に変換(暗号化)してやりとりするものだ。暗号化したデータは「鍵」を使うことで復元できる。そのため、当事者と送りたい相手のみがデータを暗号化前の形(平文)に戻すことが可能だ。

しかし、鍵を解析されてしまうと第三者がデータの内容を盗み見ることができる。そのため、ITの進化とともにさまざまな形式の鍵を用いる暗号化技術が発明され、通信の安全性を向上し続けてきた。

現在使われている暗号

現代のデータ暗号化においては、一般的に共通鍵暗号方式(AES)や公開鍵暗号方式(RSA)といった現代暗号が使われている。

AESは、暗号化と復号に同じ鍵を使うという特徴がある。そのため暗号化や復号化の処理が比較的簡単だ。しかし、処理が簡単なために解読されやすいという欠点もある。一方、AESよりも信頼性の高い暗号として用いられているのがRSAだ。暗号化と復号化で使う鍵が異なるため処理速度が遅いが、より解読されづらい。

量子コンピューターによる暗号解読の脅威

現代暗号は、暗号を解読するための計算に非常に長い時間がかかるということから安全性が担保されていた。しかしこの安全性は、量子コンピューターが登場したことによって脅かされようとしている。

量子コンピューターとは、「量子重ね合わせ」や「量子もつれ」といった量子力学の現象を応用したコンピューターだ。現在は技術を研究する段階ではあるものの、近い将来の実用化が予測されている。

この量子コンピューターは、これまでのコンピューターをはるかに上回る性能を発揮することが期待されている。実用化された際は、暗号をこれまでより短時間で解読可能だ。従って、量子コンピューターの実用化前に現代暗号に代わる新たな暗号化技術を開発することは、ITにおける急務となっている。

現状の対応策

現在、量子コンピューターによる暗号解析の対応策として、バーナム暗号の利用が挙げられる。これは、平文と同じ長さの鍵を一回で使い捨てるという特徴の暗号だ。この暗号は理論上解読が不可能なことが証明されているものの、その複雑さゆえに鍵の生成に大変な時間と労力が発生する。そのため一般企業の業務などに導入するには利便性の面で問題があり、活用が進んでいないのが現状だ。

「絶対に破られない」量子暗号通信

量子コンピューターの実用化が迫る中で登場したのが「絶対に破られない」と評価されている量子暗号通信だ。

量子暗号とは、量子力学を応用した技術。暗号化してやり取りする情報に、光の最小単位である光の粒=「光子」を添えて送るものだ。量子暗号通信では、この光子に暗号を解くための鍵となる情報を分割して乗せる。受信者は全ての光子から鍵を読み取り、暗号を復元可能だ。

量子暗号通信の安全性が高い理由の一つは、「光子は観測されるとその状態が変わる」という性質があることだ。もしサイバー攻撃などを受けて暗号鍵の情報を第三者に盗み見られた場合、光子の状態は変化する。そのため、不正な通信の存在にすぐ気付けるというメリットがある。

その性質を利用した量子暗号通信は、暗号鍵が盗み見られたことを察知した場合、その暗号鍵を自動的に無効にする。同時に盗み取られていない情報で自動的に新しい鍵を作り直して送ることから、暗号化された情報を復号するために使う鍵は「盗み見られていないもの」しかありえないため、量子暗号通信は「絶対に破られない」とされている。

量子暗号は現代暗号とは異なり、コンピューターの数学的な処理技術が発展しても解読が容易にならない。そのため、未来永劫使われる技術になると考えられており、早期の実用化が期待されている。

量子暗号通信の実装で目指す未来

現在、日本では株式会社東芝や日本電気株式会社などが量子暗号通信の開発を進めている。株式会社東芝は2020年夏より量子暗号通信システムのプラットフォームを提供し始めており、国内初の実証事業として、金融・医療・防衛といった特に機密性の高い情報を扱う分野での活用を進めている。また、中国では社会実装が進み、金融や司法の分野ですでに実用化された。さらに、韓国やドイツでは大規模な量子暗号通信用の鍵配送インフラを構築し始めるなど、世界規模で活用が進んでいる。

データの活用によるDXが加速していく現代社会。データによって生み出された価値を守る仕組みとして、量子暗号通信は広く浸透していくだろう。今後も利活用の動向を探りながら、社会に実装された場合に顧客の課題を解決できるよう注目を続けたい。