マーケティング

企業のビジネスを変える 「情報銀行」サービス

掲載日:2022/01/25

企業のビジネスを変える 「情報銀行」サービス

近年、個人の行動履歴や購買履歴といった「パーソナルデータ」を活用する企業が増えている。こうしたパーソナルデータを個人の意思に基づいて管理し、第三者へ提供するのが「情報銀行」だ。企業の参入が活発化するなど、新しいビジネスモデルとして注目が集まっているこの事業。その概要や注目の理由について説明する。

情報銀行とは?

情報銀行とは、パーソナルデータを所有者である個人から預託され、その活用を望む第三者に「適切に」データを提供する事業である。データ管理にとどまらず、データ提供によって対価を得られるその性質から、お金を預けて利息を得られる「銀行」に例えられている。

インターネットが普及し、多くの人々がSNSやECサイトなどオンラインのサービスを利用するようになったことで、個人の行動や趣味・嗜好、購買履歴といったパーソナルデータが「商品」として新たな価値を持つようになった。

その一方で「ユーザーの同意なしにパーソナルデータを第三者に利活用させるべきではない」、「パーソナルデータの利活用は適切にコントロールすべき」という動きが活発化し、さまざまな法整備が進められていくことになった。これは日本のみならず、世界的な潮流でもある。

こうした背景から、データを活用したい企業と自分のパーソナルデータをきちんと保護しながら利活用したい個人、双方のニーズを満たす情報銀行のような仕組みが求められることになったのだ。

情報銀行の仕組みと役割

情報銀行の中核は「PDS(Personal Data Store)」と呼ばれる仕組みにある。PDSはパーソナルデータを蓄積して管理し、第三者へのデータアクセスを許可したり取り下げたりする機能を持っており、個人が自分の端末でデータを管理する「分散型」と、情報銀行のように事業者のシステムにデータを蓄積する「集中型」に分類される。個人が自分のパーソナルデータを管理・活用するには一定以上のITリテラシーなどが求められるなど負担が大きいため、近年は情報銀行のような集中型PDSを活用したサービスが利用されるようになりつつある。

情報銀行は、預託されたパーソナルデータの安全な管理・個人による指示やあらかじめ指定した条件に基づいたデータの他事業者への提供・データ提供者に対する便益還元といった役割をもつ事業だ。

さらに、預託されたパーソナルデータを加工し、個人が特定できない匿名情報や統計情報として企業に提供することもある。匿名情報や統計情報は個人情報には該当しないため、法律上は提供者の同意は必要としないが、こうした加工データに対しても元となったデータ提供者の同意を得ることが望ましいとされている。

情報銀行ビジネスに注目が集まるワケ

パーソナルデータを活用したビジネスの可能性は計り知れない。地域・年齢層・性別・行動履歴や購買履歴・所有資産の多寡など企業が本当に必要とするデータを絞り込んで提供できることから、質の高いOne to Oneマーケティング(消費者の購買傾向からニーズを読み取り、個々に対して最適なコミュニケーションを行うマーケティング活動)を実現して、見込み客や顧客に最適なアプローチを可能にする。さらに新たな商品やサービス開発に向けた、匿名情報や統計情報の獲得も可能だ。

情報銀行のユースケースはさまざまだ。例えば結婚記念日が近い夫婦に対し、お得な旅行を提案する・夫婦が好みそうなレストランのリストを提示する・アクセサリーをプレゼントするためのECサイトを提示するなどといったターゲット広告を実現できる。ほかにも、18歳で普通免許を取得する人が多い地域のみをターゲットに、高校卒業を控えた人に向けて、新車・中古車、自動車保険、さらにはドライブに最適な観光地などを提案することも可能だ。また、提案後の行動履歴や購買履歴は、次の新しい商品やサービスの提案や開発につながっていく。

信用データのスコアリングでも利用されるケースは多い。年齢・性別・仕事・生活・住まい・借り入れ状況など、さまざまな情報からAIを使って個人をスコアリングする。こうしたスコアリングデータを基準に、金融機関からの借入額を算出するといったサービスも検討されている。

セキュリティリスクを低減する側面でも、情報銀行の役割は大きい。一般社団法人日本IT団体連盟による認定基準には、損害賠償責任や提供データの取り扱いや利用条件についての規定があり、データ提供先でも情報漏えいが起きないよう「データを適切に管理・活用できるかを確認する」義務がある。つまり、情報銀行からデータ提供を受ける際には、適切なデータ管理や活用について指針が提示されるのだ。万が一情報漏えいが起きても、この指針に沿って管理していれば、個人への一次的な対応責任は情報銀行が負う可能性が高い。

情報銀行の今後

ビジネスにおいてデータ活用の重要性はますます高まっており、国からの後押しがあることも考えれば、企業にとって情報銀行は不可欠なものとなっていくことが予想される。

その一方で、パーソナルデータの提供に拒否感があるという人も少なからず存在しており、こうした意識の変革が今後の発展の鍵となる。逆に、パーソナルデータを管理する負担やリスク軽減のために信頼できる情報銀行を利用したいと考える人も増えていることから、メリットを周知することで利用者は増えていくだろう。

一般社団法人日本IT団体連盟によって「情報銀行」が認定されているが、ビジネス、あるいは顧客のビジネスにマッチしたサービスを選択・提案することが重要となっている今、その市場拡大から目が離せない。