マーケティング

ビジネスの成功の鍵 トータルエクスペリエンス

掲載日:2022/02/01

ビジネスの成功の鍵 トータルエクスペリエンス

ビジネスを取り巻く環境は目まぐるしく変化し、市場の競争はますます激化している。企業が競争優位性を維持するためには、常に成長を続けていかなければならない。そんな中、ガートナーが2021年10月に発表した「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」の2022年版では、企業の成長を加速させる戦略として「トータルエクスペリエンス(TX)」が重要であると指摘されている。

トータルエクスペリエンス(TX)とは

「マルチエクスペリエンス (MX)」「カスタマーエクスペリエンス (CX)」「エンプロイーエクスペリエンス (EX)」「ユーザーエクスペリエンス (UX)」の4つを組み合わせることで実現する、総合的な体験を意味するのが「トータルエクスペリエンス(TX: Total Experience)」だ。ガートナーは、今後3年間でこれらを満たし、より良い体験を提供する組織は、競合他社を上回る主要な満足度評価指標を達成すると予測している。

トータルエクスペリエンスを理解するためには、トータルエクスペリエンスを構成する4つのエクスペリエンス(体験)とは何かを知る必要がある。

マルチエクスペリエンス(MX: Multi Experience)

マルチエクスペリエンスは、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)によって実現する知覚体験だ。エンターテインメント分野の技術のように思われがちだが、実際にはさまざまな場面で利用されている。例えば、VR技術を利用した服の試着や商品の閲覧が可能なサービスがある。また、ARを活用したナビゲーションアプリではスマートフォンのカメラ越しに道案内の矢印を表示できるし、MRのテクノロジーを活用して、組み立て手順をリアルタイムで確認しながら作業できるようにしている工場もある。

カスタマーエクスペリエンス(CX: Customer Experience)

顧客体験を意味するカスタマーエクスペリエンスは、顧客が商品やサービスから統合的に得られる体験のことを指す。例えば宿泊サービスであれば、Webサイトやポスターなどの広告・キャンペーン・予約・移動経路・接客態度・施設の充実度・食事の充実度など、プロセス全体がカスタマーエクスペリエンスとなる。

エンプロイーエクスペリエンス(EX: Employee Experience)

エンプロイー(Employee)は従業員を示す言葉であり、エンプロイーエクスペリエンスは従業員体験を意味する。業務内容・業務環境・人間関係・身に付くスキル・給与・福利厚生など仕事をするうえで関わる全ての体験であり、EXを向上させることは従業員の定着率向上につながる。

ユーザーエクスペリエンス(UX: User Experience)

商品・サービス利用時の体験を意味するユーザーエクスペリエンスは、カスタマーエクスペリエンスと重なる部分も多い。しかしカスタマーエクスペリエンスは顧客が体験するプロセス全体を指すのに対し、ユーザーエクスペリエンスは商品やサービスそのものから得られる使用感・操作性・デザイン・店舗などの雰囲気・味や匂いなど、五感や生活体験に直結する具体的な体験を指す。

なぜトータルエクスペリエンスが企業戦略の鍵となるのか

これら4つの体験は、それぞれが独立したものというわけではない。

例えば、マルチエクスペリエンスによる革新的な体験やユーザーエクスペリエンスで重視される使いやすさ・便利さは、カスタマーエクスペリエンスの向上、そして業務効率などのエンプロイーエクスペリエンス改善の手段に相当する。

そしてエンプロイーエクスペリエンスの向上は、新たなテクノロジー体験の創造に向けた従業員のモチベーション維持にもつながる。それによって、さらなるビジネス拡大が見込めるかもしれない。顧客、従業員にかかわらず、良い体験は次の行動へとつながっていくのだ。

全てのエクスペリエンスは密接に関係しており、トータルエクスペリエンスという統合的な視野で製品やサービスの開発・提供を行っていかなければ、企業は競争力を維持できない。企業の成長には、トータルエクスペリエンスが不可欠というわけだ。

真のトータルエクスペリエンスはWin-Winであること

ガートナーが「トータルエクスペリエンス」を最初に提唱したのは2020年(「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」2021年版)だが、実際にはそれほど新しい考え方ではなく、以前からある身近で普遍的な概念だ。

現在、カスタマーエクスペリエンスについては多くの企業がその重要性を正しく理解している一方で、エンプロイーエクスペリエンスは見落とされがちだ。しかし今後、先進国(特に日本)では少子高齢化によって、ますます質の高い労働力を確保することが困難になっていく中で、EXの重要性が見直されていくことは間違いない。

カスタマーエクスペリエンスとエンプロイーエクスペリエンスは企業の競争力を維持する両翼であり、これらを支える手段がマルチエクスペリエンスとユーザーエクスペリエンスだ。顧客と従業員、つまり提供される側と提供する側はWin-Winの関係であることが望ましい。