サービス業

「1日100食限定ランチ」は大繁盛
希少さがもたらす価値へのこだわり
~株式会社minitts 代表取締役 中村 朱美氏~

掲載日:2022/04/05

「1日100食限定ランチ」は大繁盛 希少さがもたらす価値へのこだわり ~株式会社minitts 代表取締役 中村 朱美氏~

コロナ禍で多くの飲食店が苦しむ中、京都市で1日100食限定で国産牛ステーキ丼を提供する「佰食屋(ひゃくしょくや)」が人気を博している。あえて多店舗化をせず、「ここでしか食べられない」「いつでも食べられるとは限らない」という希少価値で、全国から集まる客の心をとらえている。コロナ禍でも過去最高利益率を達成し、数多くのマスコミにも採り上げられた独自のマーケティングと経営哲学について、経営者の中村 朱美氏に聞いた。

コロナ禍の逆風を乗り越え
過去最高利益率を達成

BP:本日は、「佰食屋」の人気の秘密や、中村さんの経営哲学についてお話をうかがいたいと思います。まずは、そもそも飲食サービスを始めたきっかけから教えていただけますか。

中村 朱美氏(以下、中村氏):「佰食屋」を始めるまでは、専門学校の事務職員として5年半ほど働いていました。
やりがいのある仕事だったのですが、ある程度の立場になってくると残業時間が増え、帰宅が遅くなることに不満を感じるようになったんですね。
仕事をバリバリこなしたいけれど、残業はしたくない。でも、そんな希望を満たしてくれる仕事は世の中にありません。だったら、自分で作ればいいんじゃないかと思って、夫と一緒に起業することにしました。

BP:いま、飲食サービスはコロナ禍で、どこも苦しんでいます。「佰食屋」も一時は大変だったと思いますが、逆風を跳ね除けて過去最高利益率を達成されたそうですね。

中村氏:コロナ禍が発生した直後の2020年4月、京都市内に4店舗あったうちの2店舗を閉鎖しました。
断腸の思いで店舗数を減らすことになりましたが、身が軽くなったことで、新しいことに挑戦しやすくなるメリットにも気が付きました。2店舗を閉鎖した翌月には黒字を回復し、2020年8月には過去最高利益率を達成できました。
そもそも、創業時に設定した「100食限定ランチ」というコンセプト自体が、不景気の影響を受けないようにするために定めたものでした。
どんなに不景気でも、忙しくて食事をつくる暇がない人はいらっしゃるので、外食のニーズが途絶えることはありません。ディナーは難しいけれど、安いランチなら絶対行けるだろうと確信していました。

居酒屋チェーンの
出店オファーを断る

BP: ある居酒屋チェーンからランチの販売で提携を打診されたにもかかわらず、断られたそうですが。

中村氏:その理由は、「希少価値」を一番のポイントにしているからです。あえて京都だけに店を構え、「100食限定」にこだわっているのは、お客さまに特別感を味わっていただきたいからです。
チェーン店に入って多店舗展開をしたとしても、それによってメリットを得られるのは会社だけです。働いてくれる社員の給料が上がるわけではありません。
それよりも日本中や世界中の方々に、「京都に行ったら、『佰食屋』に食べに行こう」と思っていただけるようなお店にしたい。結果的に京都を訪れる観光客が増えて、地元により多くのお金が落ちるきっかけになれば、願ってもないことだと思います。

BP:希少価値を守るのも大切だと思いますが、お客さまの中には、「100食限定なので、いつ行っても食べられない」という運の悪い方もいらっしゃるのではないでしょうか。

中村氏:よく指摘される点ですが、わたしたちはポジティブにとらえています。なぜなら、「いつ行っても整理券が配り終わっている(食べられない)」という状態が続けば続くほど、お客さまが整理券を手にしたときの喜びは大きくなるからです。その喜びは、料理をさらにおいしくしてくれます。

店舗はアナログ
マーケティングはデジタル

BP:飲食業界でも人手不足は深刻で、それが長時間労働などの過酷な労働環境に結び付いている側面があります。
その対策としてICT化が進んでいますが、「佰食屋」では、どのように取り組んでいますか。

中村氏:実は「佰食屋」では、店内にWi-Fiがありませんし、オーダーは全て手書き、レジも全て手打ちです。デリバリーやキャッシュレス決済も行っておらず、支払いは現金しか受け付けていません。つまり、店内サービスは全くICT化していないのですが、これはあえて意識してのことです。
サービスの自動化や無人化を進めると、どうしてもお客さまとのつながりが希薄になってしまいます。
「何をご注文なさいますか?」「今日はこれがお勧めですよ」といった会話を通じて、お客さまに心の通ったサービスを提供したいと考えているのです。

BP:店内サービスはアナログにこだわる一方で、マーケティング活動にはデジタルを活用しておられるようですね。

中村氏:例えば、店舗の場所や情報を紹介してくれるGoogleマイビジネスというサービスでは、1カ月で30万アクセス以上という状態が何年も続いていますし、テレビでお店が紹介されたときには50万アクセスを超えることもあります。
「店舗はアナログ、マーケティングはデジタル」と巧みに使い分けていることが、集客に結び付いています。

BP:いろいろ興味深いお話をありがとうございました。最後に読者へメッセージをお願いします。

中村氏:「佰食屋」もコロナ禍で一時期どん底を経験しましたが、ビジネスに一発逆転はありません。大切なのは、「当たり前のことを、誰よりも早く、たくさんする」ことだと思います。
自分が動かなければ、周りが動くはずはありませんし、物事も前に進みません。まずは、一歩踏み出してみてください。

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