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進化が続く AI×医療の未来とは

掲載日:2022/06/07

進化が続く AI×医療の未来とは

近年、医療現場での多数のシチュエーションでAI活用が期待されている。さまざまな問題を抱える日本の医療を救うため、AI技術はどのように活用されているのだろうか。本記事では、日本医療が抱える問題を振り返りながら、AI×医療の現状、そして未来について解説する。

日本医療の現状

今日、日本の医療が抱えるさまざまな問題が指摘されている。その中で最も早急に解決すべき課題として挙げられるのが、少子高齢化に付随して発生している医療現場の人材不足問題だ。ご存じのとおり少子高齢化が進み、あらゆる業種において労働人口の減少が懸念されている日本。高齢者は医療を受ける機会が多いため、今後さらに高齢化が進むと、医療の現場は人材不足と医療機会の需要増大という大きな問題に苦しめられることになるだろう。

また、将来の高齢化という点を抜きにしても、医療現場の人材不足は深刻だ。日医総研が公表している「医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2019-」によると、日本における人口1,000人あたりの医師数は2.4人だという。世界的な平均値も決して十分な数値ではないが、日本はそれをさらに下回ることから、日本の人材も決して十分ではない状況であることが想像できる。また、地域によっては医師の数に偏りがあり、その土地の患者が必要とする医療を受けられないという点も問題だ。

AI活用による解決方法

これらの問題を解決する手段として注目されているのが、AIの活用だ。実際、厚生労働省も「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」を開催し、国としてもAIで医療を改善する姿勢を示している。

では、実際に医療の現場でどのようにAIを活用できるのだろうか。

現在最も注目されているのは、AIによる医師の補助である。例えば、これまで患者の診察は医師が実際に目で見て大部分の内容を判断していたが、ディープラーニングで画像認識精度を高めたAIを用いて、その業務を代行することが可能になる。AIが働いてくれている間に、医師はほかの業務を進められるというわけだ。これによって医師数の不足を補い、さらにきめ細かな医療を目指せることになる。

また、創薬などの研究分野でもAIの力が発揮できると考えられている。これは、創薬の研究においては数万種類に及ぶ薬の材料から最適な組み合わせを見つけるという、気の遠くなる作業が必要なためだ。その作業をAIに任せることで大幅に成功確率を高められるうえに、人間では思いつかない材料の組み合わせを発見するなどの効果が期待できることから、よりレベルの高い医療を目指すという観点でも注目が高まっている。

AIは医療にどのように活用できる?

それでは、実際にどのようにAIが活用されているのだろうか。代表的な例を紹介する。

アプリの診断で受診を手助け

例えば、近年注目を集めているのがAI診断機能を搭載した医療アプリだ。このアプリは、体の気になる部位や当てはまる症状に関する質問に答えるだけで、AIが疑わしい病名を推測してくれるものだ。アプリが提示する内容はあくまでも推測であるため、適切な治療や診断を受けるためには医療機関を利用することが望ましい。しかし、患者自身が大まかに病気の内容を把握することで受診すべき病院や科目を選ぶ手助けになるというメリットがある。

また、このアプリのようなAI診断がより高性能化し幅広く利用されるようになれば、患者の初期症状を分析する際の参考として活用し、医師の負担を大きく削減することも可能になる。昨今のコロナ禍で遠隔医療の重要性に注目が集まったが、法的なハードルや実務手続きの面で実現が難しいことも浮き彫りになった。AI診断で医師の負担を削減できれば、実務手続きの面において大きな手助けとなることが期待できるのは言うまでもない。

よりスムーズな診断を実現するための手助け

医師の負担を削減するという意味では、AIによる画像認識技術で診断支援を目指す研究が進められていることにも注目したい。とある企業の提供するAI技術は、人体の各部位を認識して異常を発見する機能を有しており、診断ワークフローの効率化に活用することが期待されている。

この技術は同社の提供するさまざまな医療製品との互換性を有しているため、CTやMRIの検査画像を組み合わせることで、より正確な情報を素早く導き出せる。既に医療機関が保有している機器の価値を高めるという意味でも、コストパフォーマンスに優れた試みと言えるだろう。

見回りサービスで迅速な対応が可能に

また、とある企業ではIoTネットワークを活用し、医療施設の利用状況を可視化する見守りサービスを提供している。これはトイレやシャワー室といった個室内に人感センサーや開閉センサーなどを設置して、利用状況を検知するものだ。これによって、利用状況に異常が発生した場合は施設入所者が体に不調を来したのではないか、と分析できる。転倒して身動きが取れない、あるいは病気の発作が出ているなどの状況が把握できれば、即座に駆け付けて治療することも可能だ。

このようなサービスを実装する場合、施設入所者を過剰に監視するようになってはいけないという点に注意すべきだが、この見守りサービスは人感センサーや開閉センサーといった個人を特定しない情報を組み合わせて活用する。そのため、プライバシーを保護しながら利便性の向上を実現できるのだ。

AI×医療のこれから

期待がかかる医療でのAI活用。しかし、AIが出す答えの真正性をどう担保するかという課題がいまだに残っているのも事実だ。また、現場で作業する人間のAIに関する知識が不足している場合、命に直結する分野であるために間違った運用をされてはいけないという不安も残る。患者としてもAIの判断に不安がある状況では、積極的に活用したいという気持ちにならないだろう。

このようにまだまだ課題が残る分野ではあるものの、「AI×医療」は、将来的にさまざまな効果を生み出すだろう。近い将来に医療現場で広く活用されることに期待したい。