流通・小売業

2022年も見逃せない!リテールDX解説

掲載日:2022/06/14

2022年も見逃せない!リテールDX解説

昨今のコロナ禍が、小売業の経営に多大な影響を与えたことは言うまでもない。外出自粛やそれに伴う店舗の休業、または閉店を経験した小売業者は、これまでどおりの業務形態では対応できないことばかりだということを痛感したことだろう。そもそも人材不足などの問題が表面化していたタイミングだっただけに、改善の手段を求めている声は多く挙がっている。そんな中で注目を集めているのが、「リテールDX」というキーワードだ。

リテール業界を取り巻く状況

時代と共に変化し続けているリテール業界だが、ここ数年は特に大きく動きがあったと言えよう。まず、コロナ禍の影響で消費者行動が大きく変化している。外出自粛要請によって消費活動が落ち込んだ一方で、テレワークの浸透なども影響して家の中で過ごす時間が増えたことから、新たな需要が生じているのも事実だ。

コロナ禍で大きく注目されたものとしては、商業のオンライン化も挙げられる。人との接触を避けながら購買行動を行ううえで、オンラインショッピングは必須のもの。これまで以上に、オンラインビジネスにおいての対応を重視する顧客は増えている。

さらに、流通状況が変化しているために消費者の価値観も変わってきている。従来はモノを所有することに価値を見出す消費者が多く、大量仕入れ・大量販売が求められていた。しかし近年はむしろ、商品を購入したことによって得られる「体験」の方が重要視されている。いわゆる「モノからコトへのシフト」である。その良い例としてあるのが、サブスクリプションサービスだ。消費者それぞれの基準で優れた商品を選別できる、というサービスの需要が増えてきている。顧客にとって必要な商品や、ベストな提供手段などについての分析は、今後一層求められるだろう。

これに付随して、ビッグデータを元にした戦略立案が徐々に浸透してきている。逆に言えば、データを活用できない業者は今後のデータ時代において取り残されることになる、ということだ。

次々と変化していく環境に対応するために必要なのは、従来の方法に固執せず、新たな環境に柔軟に対応し、変革していくこと。そのために必要なのが、リテール業界のDXなのである。

リテールDX実現の実例

リテールDXは、単にリテール(小売)の店舗業務をデジタル化させるものではなく、デジタルテクノロジーを導入することによってさまざまなメリットをもたらす施策のことをいう。リテールDXの実現は、業務改善やコスト削減、そして顧客満足度の向上につながるものだ。

では、実際のリテールDXの施策にはどのようなものがあるのだろうか。実際の事例を紹介しよう。

新しい買い物システムを利用して、顧客のレジ待ちの時間を短縮

とある大手総合小売業社では、商品のスキャンができる専用スマートフォンと専用レジを組み合わせたサービスを運用している。これは同社の運営する商業施設の商品バーコードを顧客が専用スマートフォンで読み取ることで、レジ待ちの時間を大幅に短縮するものだ。

単に顧客の利便性向上に限らず、従来のレジ業務に割かれていた人的リソースを他の業務に割り当て可能なことや、人的接触を減らすことで感染症対策になることなど、店舗側にも大きなメリットがあるこの施策。買物途中に購入商品や買上金額が確認できることで、買い忘れ防止にもつながるといった顧客からの支持もある本サービスだが、今後さらに導入店舗を拡大していくようだ。

電子棚札の導入で、棚札付け替え作業の負担をゼロに

大手家電量販店チェーンでは、特殊な電子棚札を全店舗に導入している。これは、店舗の棚に貼り付けてあるような、商品の品名や値段などの情報を表示する「棚札」を電子化したものだ。

電子棚札はPOSデータと情報連携しているため、価格変更があっても情報を容易に更新できる。これまではセール時などに棚札を手作業で付け加える必要があったが、電子的な管理が可能になったことでこの作業負担がほぼゼロになった。実際に、消費税増税時の価格変更の際も、作業の手間はほとんどかからなかったようだ。また、削減した時間で店舗での接客対応に時間を充てられるため、顧客満足度向上も期待できる。

アプリやAIの活用で、顧客体験を向上

大手百貨店では、自宅にいながらでも、アプリを利用すると販売員とつながれるサービスを開始。オンライン接客を実用化した。チャットでの接客ができるようになったため、チャット履歴から購入履歴・理由を把握しておすすめ商品を的確に案内するなど、次回以降の接客の最適化も望めるようになった。

さらに、この百貨店ではAIを活用した接客サービスの導入も検討中。カメラとセンサーで来店客の属性を検知し、適切な商品情報を表示することで品質の高い接客を提供し、顧客体験の価値を高めようとしている。

REIDを利用して、棚卸作業を効率化

とあるアパレルブランドでは、アウトレット店にRFIDを導入している。RFIDとは、情報が書き込まれたICタグに、電波を用いて非接触で情報の読み取りや書き換えをするシステムだ。

アウトレット店では商品を豊富にそろえているため、商品管理が煩雑になりがち。棚卸作業に時間がかかってしまうものだが、RFIDを導入したことで省力化を実現。実際に、数千点ある在庫の棚卸作業を30~40分ほどで対応可能になったようだ。このような環境整備で店舗スタッフが接客業務に注力できるようになり、やりがいにもつながっているという。

リテールDX実現のポイント

リテールDXを実現するためにまず注目すべきは、顧客への価値提供ができるかどうか、という点だ。業務効率化などは店舗側にメリットがあるものだが、顧客にとってメリットがなければ最終的に企業としての価値を損なうことになる。

まずは、小売業にとって重要な在庫管理をシステム化することに目を向ける必要があるだろう。商品に関わるプロセスの一元管理や、自動発注の仕組みの再構成などによって、人的負担の見直しを行う。それにより発生したリソースを、さまざまな業務改善に注力することが可能になるのだ。

さらに、今後高い効果を期待できる施策として考えられるのが、AIを活用したニーズ予測である。どの商品をどのような顧客にどのタイミングで提供すべきなのかを分析することで、サービスを最適な形で販売できるようになる。新しい機材やシステムを構築するのではなく、既に提供しているサービスを最適化するだけなので、リスクの小さい施策であるという点でも効果的だ。

顧客と店舗の両方に大きなメリットをもたらすリテールDX。コロナ禍以降のビジネスにおいても必須の存在となることは間違いないため、ベンダーとしては優秀な機器やサービスをスムーズに紹介できるよう、常に最新のソリューションに注目しておきたい。