サービス業

家業の魚屋さん業務をデジタル化
鮮度を保つ処理技術をデジタル発信
~株式会社寿商店 常務取締役 森 朝奈氏~

掲載日:2022/06/21

株式会社寿商店 常務取締役 森 朝奈氏

前職で培った知識を生かし、家業の魚屋さんにおける業務のデジタル化を実現した森 朝奈氏。電話とファクスしか使ったことのない従業員にデジタルの便利さを根気よく伝え、業務を効率化することで、働き方改革や多店舗化を実現した。より多くの人に魚食の素晴らしさを知ってほしいという森氏は、「魚屋の森さん」というYouTubeチャンネルを開設し、人気を博している。魚屋とデジタル。一見、不釣り合いな2つの融合に挑んだ森氏の取り組みに迫る。

楽天で経営者のあるべき姿を学ぶ

BP:「魚屋の森さん」というYouTubeチャンネルですっかり人気者ですが、本業は鮮魚卸や飲食店を運営する会社の“二代目”だそうですね。

森 朝奈氏(以下、森氏):名古屋市にある寿商店という会社で常務取締役を務めています。父が20歳のときに興した会社で、もともとは地元のスーパーの魚売り場で小売をしていました。

その後、卸に転業し、居酒屋などの飲食店も経営するようになって現在に至っています。飲食店は、毎朝魚市場から直送した魚を料理する居酒屋「下の一色」(しものいっしき)のほか、魚好きを増やすために多彩なフィッシュバーガーを提供する「サカナノバーガー」など13店舗を展開。名古屋市のほか、中部国際空港や三重県、新潟県などにも出店しています。

BP:家業に携わる前は、楽天でお仕事をされていたと伺っています。

森氏:物心がついたときから父の仕事を見ていたので、小学生の頃から家業を継ぐために準備をしていました。
父が「いつかは海外に店を出したい」と言っていたので、中学時代から英語教室に通い、大学でも1年間交換留学をしています。楽天に入ったのも、いずれ家業を継ぐために、外でいろいろなことを学んでおきたいと思ったからです。

BP:魚屋になるための修業として、IT企業の楽天を選んだというのが非常にユニークですね。

森氏:実は、大学1、2年生のころ、父が楽天市場に鮮魚販売のEC店舗を出したんです。ちょうどスマートフォンが登場したころで、「これからはスマホによるオンラインショッピングが流行るぞ」と言って(笑)。
ところが全く売れず、「どうすれば良いのかな?」と父に相談されたので、楽天に入って、売れる方法を探ってみようと思いました。当時は就職氷河期だったので、入社できて本当によかったと思っています。

BP:楽天では、どんなお仕事をされたのですか?

森氏:楽天では、一般営業職で入社したものの、人事で社長室に配属となり、三木谷社長の近くで勤務することで、優秀な経営者の仕事ぶりを目の当たりにしました。
楽天での仕事を通じて、経営スピードの速さの重要性や、固定観念をもたないビジネスなどを学べたと思います。だからチャンスと見ればすぐに動き出しますし、どんなビジネスをやるにしても、今までのやり方が「当たり前」だとは考えません。
今、魚屋としての商売をいろいろな切り口で展開できているのも、楽天で学んだことが大きかったと思っています。

BP:楽天は2年ほどで退社され、その後、お父様が経営する寿商店に入社されています。家業に戻ったきっかけは何だったのでしょうか。

森氏:父の体調不良を聞き、元々事業承継するつもりで人生の取捨選択をしていたので、家業に入るのであれば今のタイミングではないか、と思ったからです。
当時、寿商店は鮮魚卸のほか、回転ずしのフランチャイズ店を3店舗ほど展開していましたが、競合となるグルメ回転ずし大手の進出により、将来性がなくなり、業態変更を考え閉店させたタイミングでした。
また、自社直営の飲食店「下の一色」を2店舗ほどオープンさせ、軌道に乗せたいと奮闘していた時期でもありました。
居酒屋の店名にした「下の一色」は、父が生まれ育った小さな漁師町の名前から取ったものです。根っから魚好きの父は、おいしい魚を一人でも多くの人に食べてもらいたいという思いでビジネスを広げてきました。その思いをしっかり受け継ぎ、夢をかなえてあげたいと思いました。

デジタルの活用によって多店舗化を実現

BP:その後、寿商店は業務のデジタル化を進めることで、大きく生まれ変わるわけですね。森さんが楽天でデジタルに携わったことが大きかったのではないでしょうか。

森氏:戻ってみると、あまりにも業務がアナログであることに驚きました。卸の現場では、お寿司屋さんや鮮魚店からの注文を電話やファクスで受け付けていました。効率が悪いだけでなく、慣れないと聞き間違えや読み間違えもあるので、経験者でなければ処理できません。近年は外国人労働者も増えているので、なおさら属人化された業務は改善すべきだと思いました。

楽天で学んだ大切なことの一つは、誰がやっても、簡単かつ確実に処理できるように、業務を「仕組み化」することです。そのためにはシステムを活用するしかないと考えました。仕入れや注文の受け付けを担当する人たちにタブレット端末を持ってもらい、画面をタッチするだけで処理できるシステムなどを導入しました。

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