IoT・AI

法律×IT「リーガルテック」は違法?

掲載日:2022/08/23

法律×IT「リーガルテック」は違法?

2022年6月6日に経済産業省が発表した「グレーゾーン解消制度」の回答が話題になっている。リーガルテックサービスの一つであるAI契約審査が、「設計によっては法律に違反すると評価される可能性がある」と指摘されたのだ。コロナ禍でリモートワークが一般的になり、より身近な存在となったリーガルテックだが、その技術の利便性と法律とのバランスを取って、サービス展開していく必要がありそうだ。

経済産業省が指摘する問題とは

2022年6月に経済産業省が発表した「グレーゾーン解消制度」の回答(以下、「経産省の発表」)をめぐって、多くの企業が不安を感じていることだろう。この経産省の発表は、ある特定のAI契約書審査サービスが違法に当たる可能性があると指摘したものだ。

リーガルテックを振り返ろう

経産省の発表について触れる前に、まずはリーガルテックとは何かということについて説明しよう。リーガルテックは「リーガル(法律)」と「テック(テクノロジー)」を掛け合わせた言葉であり、法律業務にITを活用することで新しい仕組みや価値などを提供するものを指す。

リーガルテックは、その名前から弁護士や弁護士法人に関わるものだと思われがちだ。しかしそれに限らず、一般の企業が業務で活用するサービスとしても提供されている。一般企業向けのリーガルテックサービスは複数の機能を有するものが多くあるが、その中でも特に活用されているのがAI契約書審査機能だ。例えば、契約書のデータを読み込ませると自動的にAIが内容をチェックして、法的な言い回しの不備などを精査し、問題があればどのように書き直すべきかを指摘してくれる。

このような機能を活用すれば、社内に法務部を設置する必要性が低くなり、コストカットや労力の削減が望める。さらに、社内手続きのフロー改善による意思決定の迅速化が可能になるという意味でも、非常に魅力的なサービスであることが伝わるだろう。

しかし今回話題となったのは、主にこのAI契約書審査についての問題だ。

グレーゾーン解消制度の役割

次に、問題が発表された「グレーゾーン解消制度」とは何であるかについて説明する。これは、現行の適用範囲が不明確な規制に対して、省庁が明確な線引きを提示するものだ。多様な着目点の新規事業が始まっている今日、以前から公表されている規制要項を読んだだけではその事業が法的に問題を有するのか否か、事業者独自で判断することが難しい。そこで、企業から要望があった具体的な事例に対して個別に内容を照会し、回答を示すというのがこの制度である。

今回、経済産業省がリーガルテックについて見解を示したのは「グレーゾーン解消制度」に求められた照会に対する回答である。これを見ると、とある事業者がリーガルテックの一つであるAI契約書審査サービスの提供を検討しているものの、法的に問題があるかどうか事前に確認を取るために省庁へ照会を求めたことが分かる。

リーガルテックの懸念点

経産省の発表を詳しく見ると、ある特定のAI契約書審査機能を有するサービスについて「弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があると考えられる」と記載されている。

弁護士法第72条の本文には「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。(e-Gov法令検索より引用)」とある。すなわち、該当のAI契約書審査サービスはいわゆる非弁行為(弁護士ではない人間が弁護士の仕事をすること)を禁止する法律に違反する可能性があると指摘しているというわけだ。

リーガルテックとの付き合い方

経産省の発表により、AI契約書審査サービスを既に提供していた事業者は対応に追われている。違法性はないという見解を示す企業があったり、内部・外部による監査を実施すると発表した企業があったりと、その対応はさまざまだ。ただここで注意したいのは、今回指摘されたのは、あくまでも、とある事業者の提供する特定のサービスについてのみだということだ。世の中に多数存在するほかのAI契約書審査サービスに法的な問題がある可能性を指摘されたわけではない。

さらに、この指摘は「弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があると考えられる」というものであり、違法であると断定されたわけではないことにも言及しておきたい。ほとんどのリーガルテックサービスについては、問題なく活用可能だ。

とはいえ、今回の発表が今後のリーガルテックサービスのあり方について考えるきっかけになったことは間違いない。法務業務周りのサービス導入については、慎重になる企業が多くなることだろう。高品質で便利なソリューションはもちろん魅力的だが、その違法性にも着目しなければならない。