流通・小売業

2024年問題をイチから理解しよう

掲載日:2022/09/06

2024年問題をイチから理解しよう

コロナ禍以降、巣ごもり需要の拡大によってEC市場の勢いが加速した。感染防止対策という意味では非常に重要なムーブメントだが、そのような状況を支える運送業界が、近い将来非常に大きな問題「2024年問題」に直面することをご存じだろうか。目前に迫った2024年に向けて、運送業界が抱える問題と、その原因となるものを理解しておこう。

2024年問題とは?

2024年問題とは、働き方改革関連法の施行に伴って物流業界に発生する問題の総称を指す言葉だ。2024年問題の具体的な影響について説明する前に、まずは働き方改革関連法の内容について振り返ってみよう。

2019年に施行された働き方改革関連法とは、労働基準法や労働安全衛生法などをはじめとした8つの労働法改正を行うための法律である。これは「労働者が多様な働き方を選択できる社会」の実現を目指すもので、物流業界に限らずさまざまな企業が業務内容に影響を受けている。中でも特に多くの人々が影響を感じているのは、長時間労働の是正対策であろう。これは、法要項に「労働時間に関する制度の見直し」という項目が含まれているためであり、その中には「時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし(中略)限度に設定」という条件が記載されている。

ただし、「建設事業・自動車運転の業務・医師・鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業」については例外的に施行から5年間の猶予・除外措置が取られているほか、建設業・自動車の運転者・医師などについては時間外労働の上限を年960時間と設定している。

これは、時間外労働の上限規制に対して対象業務における現状の労働環境が大きくかけ離れており、5年間の猶予期間を設けたためだ。2024年にはこの5年間の猶予・除外措置が終了することによって、自動車運転業務が時間外労働時間の上限規制の対象となる。これを、2024年問題というのだ。

2024年問題の原因をチェック!

一口に自動車運転の業務といっても、対象となる業種は非常に幅広い。例えばバスやハイヤーの運転手、タクシードライバーなどがこれに該当する。そして何よりも注目すべきは、運送・物流業界の根幹を担うトラックドライバーも対象となるということだ。

今日のトラックドライバー業界は慢性的な人材不足を抱えており、時間外労働の上限規制に対して適切に対処することは非常に困難であると考えられている。実際に2021年に厚生労働省が発表した調査によると、貨物自動車運転手(パート含む)の有効求人倍率は他業種の平均(パート含む)と比較して約2倍も高い状態にある。また、2020年に厚生労働省が発表した別の調査によると、トラックドライバーの平均年齢は全産業の平均に比べて、大型トラックでは6.2歳、中小型トラックでは3.2歳上回っており、高齢化が進んでいるという観点からも将来的にさらに人手不足が進むことが懸念されている。

これほどまでに人材不足が進行した原因は何にあるのだろうか。主に注目されているポイントとして、以下の2点が挙げられる。

長時間労働・低賃金

2022年に全日本トラック協会が発表した調査によると、上限規制の対象となる年960時間以上の時間外労働を超えるドライバーは、全体の約3割を占めるという。働き方改革関連法ではただでさえ一般的な業務に比べて時間外労働の上限が高く設定されているにもかかわらず、その時間を上回る労働者は多数存在する。このことからも、トラックドライバーがいかに長時間労働の業務であるかを読み取れる。

また、2020年に厚生労働省が発表した賃金構造基本統計調査によると、トラックドライバーの年間所得は全産業の平均所得に比べて大型トラックで約1割、中小型トラックで約2割下回っている。長時間労働であるにもかかわらず低賃金である今、適切な量の人材を確保することが難しいのは当然のことだろう。

物流量の増加

2021年に宅配大手企業が発表した調査によると、小口貨物の取り扱い件数は前年同期に比べて15%増加しているという。コロナ禍で通販の需要が拡大したこともあって、運送業界の負担はより大きくなっている。

さらに、ECサイトの市場規模は右肩上がり。今後も発展が期待されているのは、ご存じのとおりだろう。物流量の増加に歯止めがかかる見通しがないにもかかわらず、前述のとおり長時間労働・低賃金という問題がのしかかってくるために、人材不足が加速しているというわけだ。

2024年問題の影響とその対策

このような問題を抱える状態のまま2024年に突入した場合、運送業界がどのような影響を被ることになるのだろうか。第一に考えられるのは、業界全体との利益減少だ。ドライバーの労働時間減少に比例して取り扱える件数も減少する、すなわち利益が減少することが予想されている。

業界の利益が減少するということは、ドライバーの給与に悪影響が及ぶということだ。ただでさえ低賃金が指摘されている中、給与がさらに減少することによって人材不足が深刻化することも予想される。結果的に業界全体の労働力が不足して、さらに利益減少という負のスパイラルに陥ることになるだろう。

この負のスパイラルを止める対策として考えられるのが、物流DXによる業務システムの改善だ。現状、物流業界ではAIを活用したピッキングロボットや自動操縦のフォークリフト、トラック予約を効率化する車両管理システムなどが導入されており、これまで人が担っていた作業をいかに機械が補うかという点で施策が進んでいる。

一つの業種だけが短期的に多くの人材を確保することは難しく、給与アップや福利厚生の充実といった抜本的な条件の向上も簡単ではないことだ。目前に迫った2024年を前に、物流DXで現状の業務をどのように効率化していくかが問題解決のカギになるだろう。また、これによって新たな需要が発生することは十分に考えられる。需要に対応する提案ができるよう、2024年問題、そして物流業界の動向に注目したい。