SDGs

デジタル化でCO2排出量を削減?

掲載日:2022/09/13

デジタル化でCO2排出量を削減?

しばしば「デジタル化は環境問題への貢献につながる」と語られる。一般的にこういった言い回しは紙資料の電子化による森林伐採防止への貢献であるとか、業務効率化による勤務時間の削減(結果的にオフィスで使う電力が減って省エネにつながる)とかの意味である。しかし、2050年という遠い未来にまで目を向けた場合、よりマクロな意味で大きな力を持つことをご存じだろうか。

カーボンニュートラルとの向き合い方

地球温暖化は世界的に取り組むべき問題であり、もちろん日本も例外ではない。日本政府はこの状況を鑑みて、2020年10月に「2050年までのカーボンニュートラル実現」を宣言した。

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出と吸収を同じ量に調整することによって「実質排出量ゼロ」の状態を作り出す、というものだ。これは、日々の事業や生活で大量に排出している二酸化炭素(CO2)をできるだけ削減し、削減できない分は植樹などによって吸収することで実質的に排出量をゼロにしよう、という考え方を指す言葉だ。言うまでもなく政府だけが努力しても実現できるものではないため、民間企業や個人個人が心がけて行動することが今後の大きなポイントとなる。

デジタル経済への移行によるCO2削減

しかし、企業・個人レベルでのカーボンニュートラルへの貢献については、頭を悩ませることが多いだろう。そこで参考にしたいのが、2019年に日本経済研究センターが発表したレポートだ。このレポートには、デジタル経済移行によって、2050年には温暖化ガスを6割削減することが可能であると記されている。

レポートによると、2050年は従来型の時代(レポートでは、この従来型の時代を象徴的に「鉄器時代」と呼んでいる)を経て、情報通信技術(ICT)をフル活用したサービスが中心の「デジタル情報時代」への突入を目前に控えた時期であるという。デジタル情報時代ではAIやIoTが浸透し、ビッグデータの活用によって生み出された経済、すなわちデジタル経済への移行が成り立つ。

デジタル経済下では脱物質化が進み、エネルギー消費構造にも変化が生じる。例えば、2050年には完全自動運転システムや稼働率の飛躍的に向上したカーシェアが一般化することにより、乗用車の国内生産台数が「鉄器時代」の2割程度になった結果、自動車から排出されるCO2が6割削減されると予測されている。

また、今以上にテレワークが普及した結果、通勤によるエネルギー需要が減少して、CO2の大幅な削減が可能だとも考えられている。このように、IT技術の積極的な活用は温暖化ガス削減に大きな効果をもたらす。仮に業務効率化やコロナ対策を目的としてDXに取り組んだとしても、結果的に環境問題への貢献になり得るのだ。

将来的な電力消費量増大に向けた対策

しかし、IT技術の成長は電力消費量の増大と隣り合わせ。国立研究開発法人科学技術振興機構が2019年に発表した資料によると、2050年には世界の情報量(IPトラフィック)が現在の4,000倍に跳ね上がるという。また、仮に省エネルギー対策がなされなかった場合、2050年には世界の年間消費電力が情報関連だけでも5000PWhにまで達するとも予想されている(なお、2019年時点で世界の年間消費電力は24PWhである)。こうなると現在のエネルギー環境ではまるで必要な電力を賄えず、デジタル経済への移行など不可能な話となってしまう。

このような危機的な未来予測を前にして政府が実施したのが、「急速にデジタル化する社会を見据えた脱炭素イノベーション創発・展開事業」という対策事業だ。これは、少ないエネルギーでも効率的に動作する省エネ型AIやIoT、5Gをはじめとするデジタル先進技術の社会実装などを支援するもの。技術を進歩させることで処理情報量の増加と省エネを両立させ、将来的に持続可能で脱炭素の社会を形成することがこの事業の目的である。

当該事業では、「既存のAIやICTを活用した脱炭素ソリューションビジネス」の創設を補助する枠組みも設けられている。現状、実施期間は2025年までを予定しているため、該当する分野への進出を考える企業が多くなってくるかもしれない。公募の情報など、政府からのアナウンスをぜひチェックしたいところだ。