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半導体不足はチャンスに変わる
日本企業の強みを生かす戦略とは?
~早稲田大学大学院経営管理研究科教授
長内 厚氏~

掲載日:2022/10/25

長内 厚氏

新型コロナウイルス感染症の流行によって、製品・サービスの需要は大きく変わり、半導体不足の影響で「モノが作れない」状況が続いている。日本の製造業にとって大きな試練の時期と言えるが、これをグローバルにおける日本企業の地位回復のチャンスととらえているのが、早稲田大学大学院経営管理研究科の長内 厚教授だ。ハーバード大学客員研究員や国内外の企業の顧問も務め、ニュース、情報バラエティなどテレビにも多数出演する長内氏に、コロナ時代の日本企業の“勝ち方”について聞いた。

最新技術にこだわらないことが
半導体産業の“勝ち方”

BP:IT業界や製造業では半導体不足が深刻化しており、モノを作りたくても作れない状況が続いています。この状況をどのようにご覧になっていますか?

長内 厚氏(以下、長内氏):現在の状況の中で日本にも大きなチャンスがあるのではないかと思っています。世界的に半導体が不足しているのには、いくつかの原因があります。

一つは、何と言っても新型コロナウイルス感染症の流行です。これによって、今までとはまったく異なる需要が生まれ、コロナ以前なら予見可能だった将来の需要が読みにくくなってしまいました。

その最たる例が、リモートワークによるデバイス需要の急拡大でしょう。自宅からオンラインで同僚やお客様とコミュニケーションを取るため、PCやWebカメラ、マイクといった周辺機器を購入する動きが広がり、それらを製造するのに必要な半導体の奪い合いが起こりました。

また、自動車に大量の半導体が使われるようになりました。これはコロナ以前から起こっていた潮流ですが、EV(電気自動車)へのシフトや、通信ネットワークに接続する「コネクテッドカー」の普及によって、自動車に組み込まれる半導体の種類と数は増え続けています。そして米中貿易摩擦や、ロシアによるウクライナ侵攻といった地政学的なリスクによる半導体サプライチェーンの機能不全です。

半導体は、1980年代までは計算機と軍事用途向けに研究開発されてきた歴史があり、国家の安全保障にかかわる重要な産業なので、地政学的リスクが高まると、技術開発や生産、供給の“囲い込み”が露骨になる傾向があります。

結果的に供給が先細りし、拡大する需要とのギャップが広がって、深刻な半導体不足をもたらしているのです。

BP:そうした状況の中で、日本の半導体産業は、どのようにすれば復興のチャンスをつかめるのでしょうか?

長内氏:二つのポイントを押さえれば、チャンスをつかめるのではないかと思います。一つは、最新技術にこだわらないこと。もう一つは、日本製ならではの安心感を強く打ち出すことです。

日本の半導体産業はこれまで、常に最先端の技術を開発することで世界をリードしようとしてきました。それによって、1980年代半ばまでは実際に世界の半導体市場を席巻したわけですが、その後、韓国や台湾に市場を奪われています。

日本の半導体産業が復興するには、最新技術にこだわり続けてきたこれまでのやり方を変えて、あえて「少し前の技術」による半導体を生産することです。なぜなら、そうした半導体のほうが、最新のものよりもはるかに需要が大きいからです。

例えば、現在、最先端の半導体は3~5ナノメートルプロセスのものですが、これほど高集積化された半導体を必要とするデバイスは、最新のiPhone 13やAIなど、種類と数が非常に限定されています。

これに対し、約10年前の最先端技術であった22~28ナノメートルプロセスの半導体は、液晶表示装置や電源回路といった一般的な家電の部品を制御するために使われているので、圧倒的に大きな需要があります。需要が少ない最先端の半導体を生産するのとは比べものにならないほど、大きく稼げるチャンスが期待できるわけです。

現在、世界最大の半導体メーカーである台湾のTSMCが熊本県で工場の建設を進めていますが、この工場は22~28ナノメートルプロセスのラインを稼働させる予定なので、非常にニーズにかなっていると言えます。

BP:世界的な半導体不足という“追い風”の中で、巨大な需要を取り込むチャンスが期待できるわけですね。

長内氏:これは半導体産業に限った話ではありませんが、日本の製造業はこれまで、新しいモノや最先端のモノを作るという「価値創造」のプロセスに重きを置き過ぎて、利益を稼ぐという「価値獲得」のプロセスをないがしろにしてきた傾向があると思います。

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