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教育機関のDX最新事情

掲載日:2022/11/15

教育機関のDX最新事情

学校教育におけるDX(通称、教育DX)はコロナ禍以降急速に進み、スマートフォンやタブレットを利用した学習は見慣れたものとなった。しかし、教育DXは端末の配布だけで完了するものではない。そこで本記事では、IT機器の利用が浸透してきたが故に生じた課題や、それを解決するために必要なツールなどについて解説する。

教育DXの現在

文部科学省は2019年よりGIGAスクール構想を推し進めており、生徒1人に1学習用端末の配布や校内通信環境を整備するなどのアプローチを続けてきた。2022年2月に文科省が発表した資料「義務教育段階における1人1台端末の整備状況 (令和3年度末見込み)」によると、初等・中央教育における生徒1人1台端末の整備完了予定の自治体などは98.5%であり、ほとんどの自治体で整備が完了したと言える。また、GIGAスクール構想実現後の「アフターGIGA」を見据え、端末や通信環境を活用して取得した生徒のデータを基に学習指導を最適化させようという動きも活発化している。

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さらに、文科省は2021年3月に「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」を発表し、大学や高等専門学校においてもデジタル技術を積極的に取り入れる方針を明らかにした。これは「学修者本位の教育の実現」、「学びの質の向上」といった目標を実現するための環境を整備するもので、ポストコロナ時代の高等教育における教育手法を具体化し、その成果の普及を図ることが目的とされている。

大学や高専での活用事例

既に多くの教育機関が「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に採択され、独自に教育DXを推進している。実際に取り組んでいる内容は各教育機関によってさまざまであり、教育理念や方針、抱えている問題に応じて最適なアプローチを選んでいることが推察される。

例えば関西のとある大学では、グローバル人材の育成を目的に、教育・研究に活用可能な多言語翻訳システムを導入した。これは単に外国語を翻訳するだけのシステムではなく、インターネット上の言語資源(辞書・機械翻訳エンジン・形態素解析など)が適切に利用されているかをチェックする機能が備わっている。網羅性と正確性の両方をシステムが担保することにより、従来の外国語コミュニケーションの幅を超えて多様な人々と学び合うことを支援している。

また、中部地方のとある高等専門学校(高専)では、独自に開設した3Dメタバース内で授業や講演などを実施する試みを始めている。このメタバースは高専を管轄する行政法人の職員や連携する大学の学生も参加できるため、高専の生徒が物理的な障壁を越えて学外とコミュニケーションを取り、新たなイノベーションを実現することが期待されている。

教育DXの抱える新たな課題

一方、教育DX推進に当たり、解決すべき課題が山積みであることにも目を向けなければいけない。最も優先的に注力すべきは情報セキュリティ対策だろう。教育DXを進めるうえで、利用者の個人情報を電子的に取り扱うことは避けられない。学校はこれまで以上に個人情報が集中する場所となり、サイバー犯罪にとって格好の標的となる。単にセキュリティ対策を厳重にするだけではなく、教職員や保護者がITに対する知識を深め、利用者を保護するための仕組みづくりを理解していくことが求められるだろう。

また、最近では「当初の想定よりもはるかに学習用端末の故障が多く、修理費に自治体が頭を悩ませている」との報道も見受けられる。国は2020年度までに自治体へ端末配備費として1台あたり4.5万円を補助したものの、修理費は対象外だ。「持ち帰り学習」として家庭に端末を持ち帰る場合も、教育とは関係のないゲームやネットサーフィンのために利用されてしまうケースが後を絶たない。今後もこのような問題が続く場合は、使い方のルールをこれまでより厳しく定めるなど制限を設ける必要がある。

課題解決に必要なツールとは

このような課題を解決して教育DXを推進するには、適切なツールの導入を検討することが重要なポイントとなる。まず求められるツールは、学習プラットフォームだ。これは教材の表示や出席・課題提出状況、保護者との連絡といった機能を一つのプラットフォームにまとめたもので、教育DXの根幹を担うツールと言ってよい。

学習プラットフォームは単に利便性の高い機能がまとまっているというだけではなく、それらを利用したことによる学習ログを一元的に管理できるという点で優れている。これまでのような個々の教科で生徒や児童の弱点を探して改善を進めていた状況から、包括的に学習の問題点を分析して最適なカリキュラムや指導を算出可能だ。

セキュリティ対策という意味でも、個人情報が集中することには一定のメリットがある。さまざまな学習サービスを別々に登録した場合、全てに気を配り完璧なセキュリティ対策を施し続けることは難しい。チェックの抜け・漏れの機会をできるだけ減らすためにも、一つのプラットフォームを注視するという状況が望ましいと言える。

また、児童や生徒が適切に学習用端末を利用しているかを教師や保護者が逐一見守ることは現実的でない。学習プラットフォームで利用ログを収集することで、どのように端末を使っているのかを把握し、問題がある場合に適宜指導するような使い方が望ましいだろう。

そのほか、利用者個人の学習進度に応じて問題の内容が変化可能なAIドリルや、主体的な学習の支援を目的に生徒の感想や意見を授業中にリアルタイム収集するためのアプリなど、旧来の教育ではあり得ないメリットを受けられるツールが数多く準備されている。しかし、まだまだこれらのツールが広く認知されているとは言いにくい状況だ。ベンダーはいち早くこれらの特色を理解し、自治体や学校にアピールすることでビジネスのチャンスを広げたい。