流通・小売業

業界大注目 スーパーアプリの可能性

掲載日:2023/01/05

業界大注目 スーパーアプリの可能性

「エンドユーザーを自社の製品やサービスに引きつけるために、有力なスマホアプリを提供する」という手段はここ10年ほどで一般的なものとなり、競争が激化した。しかし近年、このような状況に一石を投じる「スーパーアプリ」という概念が広がっている。

スーパーアプリの特徴

スーパーアプリとは、複数のアプリを統合的に利用できるアプリのことを指す。代表的なものとして、メールや電話、EC、ゲームといった主に日常生活で利用するアプリを内包しているスーパーアプリが挙げられる。

スーパーアプリに内包されるアプリのことをミニアプリと呼ぶ。ミニアプリは機能の一部がほかのミニアプリと共通化されていることが多い。例えば、スーパーアプリにゲームのミニアプリと動画閲覧のミニアプリが内包されている場合、それぞれのサービスへの課金は、共通の決済機能が使える。つまり、先にゲームのミニアプリにクレジットカード番号を登録しておけば、動画閲覧のミニアプリで別途登録する手間を省ける。また、ミニアプリ間で共通のポイントを使ってそれぞれの利用料金に充当できるなどのサービスが設けられていることもある。

スーパーアプリに注目が集まる理由

スーパーアプリの流行は、主に中国のテック企業が提供するサービスで先行していた。しかし、世界中でその利便性が評価されるようになり、日本でも活用が広がりつつある。
このように注目が集まる理由は以下の三つだ。

1. 利用者がアプリを管理する手間を解消

あらゆる企業がスマートフォン向けにサービスを提供するようになり、それに伴ってアプリも爆発的に増加した。数多いサービスを利用するためには、サービスと同じ数のアプリをダウンロード・管理する必要があり、利用者にとってこの手間は大変煩雑だ。

その点、スーパーアプリは複数のミニアプリを内包するため、利用者の手間を大きく削減する効果がある。サービスを提供する側にとっても、利用者の負担が減ることにより多くのアプリを使ってもらえることは大きなメリットだ。

2. 継続して利用してもらうための壁をクリアしやすい

多くの利用者は、まず試しでアプリをダウンロードし、使用感が良ければその後も使い続ける。そのため、アプリには「ダウンロードの手間」と「利用者がアプリを気に入るか」という二つの壁があると言える。この壁はアプリごとに存在するため、アプリの提供会社は、二つの壁×アプリの数を利用者に乗り越えてもらわなければならないという課題がある。

しかし、スーパーアプリなら、1回で内包するミニアプリも含めて利用者にダウンロードしてもらえることを意味する。本来はミニアプリの数だけある「ダウンロードの壁」を1回でクリアできることは、提供側にとっても大きなメリットにつながる。

また、どれか一つのミニアプリだけでも気に入ってもらえれば、ほかのミニアプリの評価が低かったとしても、スーパーアプリを利用者に使い続けてもらえる可能性が高まる。最初は使わなかったミニアプリも、将来的に「アプリを気に入る壁」をクリアして利用してもらえる可能性が残るだろう。

3. アプリの開発・宣伝コストを削減

一般的に、スーパーアプリが内包するミニアプリは共通のフレームワークによって開発される。そのため、個別にアプリを複数開発する場合に比べ、トータルでのコストを抑えられる点もメリットだ。

さらに、スーパーアプリの利用者は、使用していないミニアプリも日ごろから目にするため、宣伝することなくその存在をアピールできるという点も魅力的だ。

スーパーアプリの活用事例

実際にスーパーアプリが活用されている身近な例が、国内スマホユーザーの8割が利用している大手コミュニケーションアプリだ。そのアプリは、クーポンやデリバリーの予約など幅広い分野のミニアプリを内包しており、その多彩さも大きな魅力となっている。

また、大手コミュニケーションアプリは、小売店の会員証やECサイトなどのミニアプリとも提携している。これにより、コミュニケーションアプリを入り口に各企業がサービスや商品を宣伝できるほか、ミニアプリ内にポイントカード機能や問い合わせ窓口を設けるなどの活用も可能となっている。

実際、ある化粧品会社は、コミュニケーションアプリ内に会員証機能を有したミニアプリを展開することで複数の肯定的な効果が見られたという。具体的には、自社で展開していた既存の会員証アプリに比べ、ミニアプリ開始後はデジタル会員化率が120%に増加した。また、メッセージ開封率が143%に増加、CRTも約2倍に跳ね上がり、売り上げにもつなげている。

副次的効果も望める

スーパーアプリのメリットとして、同じミニアプリ内に競合他社のサービスが存在しても自社の宣伝になり得るという点が挙げられる。他社サービスを確認した利用者が、自社のサービスと見比べるためにミニアプリにアクセスすることがあるからだ。このように、スーパーアプリはさまざまな状況を引き起こす力を持っている。自力でのアプローチに限界を感じている企業に、ぜひ興味を持って接してもらいたい。