組織改革

非接触のニーズが増えた今注目したい
分散型エンタープライズ

掲載日:2023/01/24

非接触のニーズが増えた今注目したい 分散型エンタープライズ

コロナ禍も4年目に突入した。当初はなかなか受け入れられなかった「オフィスに縛られない働き方」も、今では多くのメリットが伝わり、社会に受け入れられている。そのような中、この考えをさらに発展させた「分散型エンタープライズ」という概念に注目が集まっている。

分散型エンタープライズとは

コロナ禍で、感染症対策を目的に接触の機会を減らすという考えが社会に広く浸透した。ビジネスにおいても例外ではなく、実店舗からECを主体とした販売形式への移行やハイブリッドワークの実施、それを下支えする遠隔技術や自動化技術への関心は高まる一方だ。

新しい働き方を推進する中で注目されている形態の一つが「分散型エンタープライズ」である。これは、企業の(物理的な、あるいは本質的な駆動力という意味での)拠点を分散して配置することを表す。ただし、今のところビジネスにおいてはっきりと定義されておらず、「本社機能を各支社に分散する」という意味の場合もあれば、「社員の大部分がリモートワークすることを前提として組織を構成する」という意味で使われる場合もある。

分散型エンタープライズのメリット

ガートナージャパン株式会社が発表した「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」2022年版によると、分散型エンタープライズの利点を生かしている企業の75%は、2023年までに競合他社よりも25%早く売り上げ拡大を実現すると予測されている。これほどまでに大きな効果が予測されている理由は、分散型エンタープライズに以下のようなメリットがあるためだ。

災害などのトラブルに強い

企業が分散型エンタープライズを採用する最大のメリットは、一つの事業拠点が災害や事件・事故の被害に遭ったとしても悪影響を最小限に抑えられるという点だ。仮に本社所在地で大規模な震災が発生したとしても、全社が損失を受けることはない。すなわち、分散型エンタープライズはBCP対策としても有効な手段である。

移動時間やコストの削減

拠点機能を地方に分散する、あるいはリモートワークに移行することにより、通勤時間を減らすことが可能だ。また、出張などの移動時間の削減にもつなげられる。浮いた時間をほかの業務に使うことで、生産性の向上や社員の負担軽減といった効果が期待できる。

採用活動の活発化

企業拠点が分散することにより、幅広い地域から人材を採用できるようになる。「優秀な人材だが、居住地の関係で本社での勤務ができない」といった場合でも、分散型エンタープライズであればより柔軟な採用活動が可能だ。

デメリットを解決するソリューション

前述のように多くのメリットがある一方、分散型エンタープライズのデメリットとしてセキュリティ面の不安が挙げられる。なぜなら、拠点が分散することにより業務中の通信が必要になるからだ。

例えば、本社機能を支社に分散した場合はこれまで以上に社内の機密をネットワーク上で共有することが必須になる。オフィスの中では紙やスタンドアロンPCなど外部からアクセスできない方法でやりとりしていた情報も、拠点から離れた支社と連携する際はネットワークを通さざるを得ない。

また、リモートワークの場合、各社員が自宅でセキュリティが脆弱(ぜいじゃく)な家庭用の回線で業務に当たり、不正アクセスのきっかけを生むことが考えられる。

しかし、通信を制限しては分散型エンタープライズを採用できない。そこで求められるのが、業務を圧迫することなくセキュリティ性を高められるソリューションの導入である。具体的な提案として、以下で紹介する例を参考にしてほしい。

UTM

既に一般的になったセキュリティ対策として、アンチウイルスソフトやフィルタリングソフトなどの導入が挙げられる。しかし、これらは製品によって性能がまちまちであり、カバーできる領域もそれぞれ異なる。最適な組み合わせで理想的なセキュリティ環境を整えるためには専門的な知識が必要だ。また、個別に購入した場合はそれぞれにコストが発生するため、トータルの費用負担が大きいというデメリットもある。

そこでおすすめしたいのがUTM(Unified Threat Management)の活用だ。UTMとは、統合脅威管理機器という意味のアプライアンス製品である。具体的には、前述のアンチウイルスやフィルタリングといった機能に加え、強力なファイアウォールやIPS・IDS、アンチスパムといった機能を有している。

UTMは、メーカーが選定したこれらの機能を包括的に活用できるため、専門的な知識を持つ担当者がいない企業でも強力なセキュリティ環境を簡単に構築可能だ。もちろん、個別にソフトや機器を準備する場合に比べ、コストが安く済むという点も魅力である。

リモートデスクトップ・仮想デスクトップ

リモートワークを活用する形で分散型エンタープライズを実現するため、社用PCを社員の自宅や外出先などに持ち運ぶというケースが考えられる。しかし、紛失や盗難のリスクを考えると、機密情報の入った社用PCをむやみに持ち歩くことは望ましくない。

リモートデスクトップサービス(RDS:Remote Desktop Services)は、このような状況を解決するために有効だ。これは、離れた場所に置いてあるPCを遠隔で操作する技術である。リモートデスクトップの活用により、オフィスのPCを支社あるいは自宅のPCから操作するといったことも可能になる。

また、仮想デスクトップ(VDI:Virtual Desktop Infrastructure)を使うこともおすすめする。これはサーバー上に仮想のPCを作り、手元の物理的なPCでそれを操作する技術だ。仮想デスクトップは手元のPCにデータが保存されないため、万が一紛失や盗難の被害にあってもそれによる情報漏えいが起きにくいというメリットがある。

新しい働き方の選択肢

コロナ禍がこれほどビジネスに影響を与えることを、2019年以前に予測することは非常に難しい。しかし、以前から分散型エンタープライズに対応できていた企業であれば、2020年以降の社会にも比較的簡単に順応できたはずだ。ビジネスの根幹を揺るがす災害やパンデミックはいつ襲ってくるか分からない。ぜひ、紹介したソリューションを活用して分散型エンタープライズを一つの選択肢としてお薦めしたい。