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自治体DXの最新事情を探る

掲載日:2023/01/31

自治体DXの最新事情を探る

2020年以降に本格化したコロナ禍は、日本のさまざまな課題を浮き彫りにしたと言われている。その代表例が、自治体のIT・デジタル化の遅れだ。コロナ禍突入から約3年が経った今、自治体DXはどのように進み、どのような課題を解決するために活用されるようになったのか。最新の状況を解説する。

自治体DXの現状とは

近年は多くの民間企業がDXを推進し、導入によるメリットを享受している。DXを導入した企業自体が多くの利益を得たことはもちろん、それに関連する企業やユーザーも利便性の向上などを実感したことだろう。

そんな中、2020年の12月には総務省が「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を発表し、自治体DXを推進する姿勢を明らかにした。この発表では、「デジタルの活用により、多様な幸せを得られる社会」を実現するため、自治体が重点的に取り組むべき事項や内容の具体的な内容が示された。国民としては、民間企業の例と同様に、自治体DXによる恩恵にも期待したいところだ。

また、2022年3月に総務省が発表した「自治体DX・情報化推進概要」によると、78.7%の都道府県でCIO(情報化統括責任者)が任命され、自治体DX推進の指揮を執っているという。また、61.7%の都道府県で「DXを推進するための全体方針」を策定しており、87.2%の都道府県で「DXを推進するための全庁的・横断的な推進体制」の構築が済んでいるなど、全国で順調に自治体DXの浸透が進んでいることが読み取れる。

自治体の課題とDXによる解決策

このように浸透が進んでいる背景には、自治体DXが自治体の抱える課題を解決することへの期待がある。

例えば、これまで役所や公的な教育機関などの行政サービスを利用する際は、実際に現地へ足を運んで手続きをすることが一般的だった。これは手間がかかるうえ、コロナ禍のように接触を避けたい場合は望ましくない。このような状況を改善するためには、DXを導入し、オンラインでの手続きを可能にすることが有効だ。効率化が図れるだけではなく、高齢者や障がい者も行政サービスにアクセスしやすい環境を整えることが可能になる。

また、特に過疎地域の自治体では、人手不足が原因となって住民へ十分なサービスが提供できないという状況が見受けられる。ただ、少子高齢化が進む日本では人手不足は進むばかりだろう。このような状況を食い止めるためには、DXの導入によって作業の自動化や遠隔操作への対応を進めることが有効だ。ITソリューションの活用で人手不足を解消することにより、「住むこと自体が負担になるような地域」をできるだけ削減することを目指したい。

自治体DXの導入事例

では、自治体DXの導入に成功した自治体ではどのような成果が出ているのだろうか。実際の事例を紹介する。

京都府

これまで京都府では、自治体職員の勤務状況を紙の出勤簿で管理していた。しかし、2020年にコロナ禍へ突入すると感染症対策でテレワークを実施することとなり、紙の出勤簿では管理が困難になる。そこで京都府では、職員がPCにログイン・ログアウトした情報を一元的に管理できるよう、業務システムの改修を実施した。

これにより、所属長が職員の勤務状況を正確に管理できるようになったほか、職員も出勤簿へ記録する手間がなくなった。最終的には紙の出勤簿を廃止することも可能になり、業務効率を改善できただけではなく、ペーパーレス化によるSDGsへの貢献も可能になったという。

神奈川県平塚市

2019年度に神奈川県平塚市がプレミアム商品券事業を紙媒体で実施したところ、約8億円の事業規模に対して約1.4億円の事務経費が発生した。そこで、2020年度に同事業を電子化したところ、事業規模が約15億円に倍増したにもかかわらず、事業経費が0.5億円に縮減された。また、電子化により消費者の消費行動がデータ化され、同事業のデータ分析が大幅に容易になるというメリットも生じたという。

メリットの多い自治体DXだが、今後の発展を考えるうえではIT人材の不足に目を向ける必要がある。実際、2022年9月に総務省が発表した「自治体DX全体手順書」でも、「DXの推進に当たっては、自治体の各部門の役割に見合ったデジタル人材が職員として適切に配置されるよう人材育成に取り組むことが必要である」と指摘されている。

自治体DXが加速するほど人材は不足するため、今後は外部IT人材の登用にも注目が集まることだろう。その際に期待されるのが、ノウハウを持つベンダーの活躍である。自治体という社会と密接に関わる組織へ貢献する意義を感じるとともに、ぜひ大きなビジネスチャンスを手にしてもらいたい。